THA BLUE HERB 結成25年を経た“双方向”のコミュニーケーション ILL-BOSSTINOが語る、現状を見据えたライブ観

THA BLUE HERBが見据えるライブ観

 1990年代後半からそのオリジナルな音楽性とインディペンデント精神を貫きながら活動をしてきたTHA BLUE HERB(以下TBH)。2022年には結成25周年を迎え、今年はMCのILL-BOSSTINOがtha BOSS名義で2015年以来となる2ndソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHOP II』を発表。キャリアが四半世紀を超えてもなお、その活動意欲が衰える様子はない。

 そして、昨年のグループ結成25周年ツアーの模様を収めた『YOU MAKE US FEEL WE ARE REAL』と、『IN THE NAME OF HIPHOP II』リリースライブの模様を収めた『続・ラッパーの一分』が、この度ライブDVDとして2本同時リリース。ILL-BOSSTINOにこれらのライブを振り返ってもらいつつ、ライブ巧者として知られる彼の現在のライブ観、そして20年以上の活動を支えてきたファンへの想いなどを語ってもらった。(伊藤雄介)

探していくと新しい組み合わせや感情が生まれる余地がまだある

ーーTBHは最初期から現在に至るまでライブ映像作品を発表し続けていて、今回の2作で10作目、11作目となるので、オリジナルアルバムのリリース数より多いということになります。一方で、TBHは現場でのライブの体感という部分に重きを置いて活動してきたグループでもあると思うのですが、映像作品をコンスタントに出し続けることにどのような意味を見出していますか?

ILL-BOSSTINO:長く続けている活動の中で、アルバムは数年に一回のリリースだけど、ライブに関しては年中ずっとやり続けてきてるから同じライブでも常に変化していくんだよね。それを節目節目で残しておきたいというのが一番の理由かな。ライブは生まれては消えていくのが宿命なんだけど、自分たちの活動の中で節目がそれなりに来て、さらに撮影されているという状態のライブはそんな多くないから、タイミングが合ったときには残しておきたい。楽曲は一曲作るのに何度もやり直したり修正したり、いろんなことをやりながら完璧なものを作っていくけど、ライブは生身の俺等の全身を使った表現だからね。ある意味、楽曲よりも俺等の存在そのものを表わしていると言える。

ーー『YOU MAKE US FEEL WE ARE REAL』というタイトルにはどんな意味を込めているんですか?

ILL-BOSSTINO:25周年ってなってくると、いよいよみんな、音楽も人生も何もかも入口ってわけではないよね。みんなそれぞれの生活がある中で、ひとつのアーティストを聴き続けてサポートし続けることだってそんな簡単じゃないし、年を重ねていくにしたがってだんだん離れていく人もいる。でも、それでもみんな集まってくれたし、みんなの熱量や25年分のそれぞれの思い出、そういったことで俺も感動して、「やっぱりこの人達(の存在のおかげ)だよな」って。そしてお客自身にもそれを知ってほしかった。「あなた方なんだよ。俺らを上げてその気にさせて頑張らせているのは」って。自主で全部やってるから、自分たちがどれくらい売れてて、どれだけ(売上が)増減しているかとか随時知った上で活動してるから、一人ひとりが払ってくれたお金の重さも、ステージに出てお客と触れ合ってる瞬間だけ感じてるわけではない。自分やグループが今、どういう状況にいるかも常に分かった上で25年間続けてきている。さらに、(コロナ禍も経て)、このタイミングの再結集を確固たる良いものとして残してモノにできれば俺たちは最後までイケる、と思える節目になる感覚が俺の中であったんだ。

ーー映像中のMCでも「チケットもすぐソールドアウトになるような時代じゃない」というようなことをおっしゃってましたが、確かにBOSSさんの立場だと同じソールドアウトだったとしても、その売れ行きのペースとかまで見えてしまうわけですもんね。アーティストとしてはなかなかシビアな話です。

ILL-BOSSTINO:超シビアな話だよ、マジで。歌詞の一言一言にもそれが全部直結してくる。「これで食ってる」って簡単に言えるけど、そういったことを知らないで歌だけ歌ってライブだけやって、っていう人とはそこが全然違うよね。責任も全部自分で背負わないといけないし、お客一人が払ってくれたお金に対する向き合い方も。ある意味、健全だと思うし、自主制作でずっとそうやってきたから、これが俺たちのビジネススタイルって感じだよね。

ーーこのツアーで、ライブを作り上げる上で意識したポイントはありましたか?

ILL-BOSSTINO:客演曲ゼロでTBH音源のみ。且つ、全曲O.N.Oのオリジナルトラックでライブをやるというのは今回初めてやった。いつもは客演曲を(セットに)入れたりビートジャック(他アーティストのインスト音源の使用)もよくやるんだけど、今回はそこらへんを全部やらなかった。TBH 25周年というので来るお客、さらにコロナ禍の中で来るお客だから、「最近流行ってるTBH」って理由でライブに来るお客では絶対ない。「25年の間に俺が聴いてたのはこの時期の曲だったよなー」とか「昔、アイツと付き合ってたときよく聴いてたよな」って思ったり、一回TBHから離れてたお客も来てくれただろうし、みんなのいろんな25年間がある中で、それぞれの記憶や思い出にイントロからすぐ直結するライブにしたいというのが大きかった。

ーー全国11カ所を周ってどんな印象を受けましたか?

ILL-BOSSTINO:全会場、フロアの足元にマス目があったりマスク着用だったりして、「バカ騒ぎなんかできないでしょ」なんて思ってたお客もたくさんいたと思う。だから、お客が自分を解放して自分を出してくるのに時間がかかった会場もいっぱいあった。でも、そういう人も横の人の顔色を窺いつつだんだん解放していって。その過程がすごく美しかったね。

ーー確かに、徐々に観客のテンションが、ただTBHのステージングの巧みさだけで盛り上がっていくのとはまた違う高まり方をしているのが感じ取れます。

ILL-BOSSTINO:そうだと思う。映像作品を10本以上出してきて、それぞれいろんな時代、局面の中でのライブだったけど、今回は25周年+コロナ禍というのが大きかったし、そこでのみんなとのコミュニケーションの仕方や、感情の抑制から解放に向かうまでのプロセスは今作にしかない姿だな、って。

ーー個人的に印象的だったのは、本作と『続・ラッパーの一分』にも収録されている「未来は俺等の手の中」の聴こえ方の違いで。TBHクラシックであり、これまでも数えきれない回数ライブで披露されてきた曲だと思いますけど、発表から20年経った2023年でもこの曲からまた違った印象を受けることができたのは良いサプライズでした。BOSSさんもMCでこの曲をライブセットの冒頭に配置した意味を語ってましたし、今回ひとつのキーとなる楽曲だと思いました。

ILL-BOSSTINO:そうかもしれない。あの曲をどこに置くかというのはすごく考えたし、そこに賭けてたというのはあるよね。ライブを観てる人があの曲を信じられるかどうか、というか。同じ曲でも選曲や曲順によって聴こえ方も変わってくるし、そこの“妙”。自分が持ってる曲数は変わらないんだけど、そこで新しい感覚をどうやったら発生させることができるかを(ライブDJの)DYEと考え続けた25年って感じだよね。探していくと新しい組み合わせや感情が生まれる余地がまだある。そこはまだやり尽くしたとは思えないから、いまだにライブをやってるんだと思う。

ーー往年のべテランアーティストがヒットメドレーを披露するお約束感みたいなものとは違いますよね。そういうお約束もそれはそれで楽しいんだけど。

ILL-BOSSTINO:今話した“妙”に気づかなかった人で「お約束だな」「TBHはもう答えが出たな」と思って去っていった人もたくさんいると思う。だけど、ちゃんと耳を澄ませて自分たちのやってることを見つけてくれた人が残ったという感じがするよね。

ーーBOSSさんの観客への信頼感も年々増してきているのかもしれないですね。

ILL-BOSSTINO:増してきてる。それがDVDのタイトルにもそのまま出てるし。「ここまで来たらここに来てくれたお客と最後まで行く」というのは本当に思ってるし、みんなのことを信頼してる。

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