連載『lit!』第69回:つばきファクトリー、#ババババンビ、タイトル未定、始発待ちアンダーグラウンド…“アイドルの秋”楽しむ新作
タイトル未定『青春群像』
2021年にリリースされたタイトル未定の1stアルバム『青春群像』が、現体制バージョンとなって装いも新たに再登場。同年の「アイドル楽曲大賞」アルバム部門で1位となり、グループの名を一躍全国区に押し上げた名盤です。
タイトル未定はある意味でコロナ禍を象徴するグループと言えるでしょう。1度目の緊急事態宣言が発令されていた2020年4月に北海道で始動。この頃のライブは声出しができないのが当たり前だったわけですが、彼女たちは持ち前の歌唱力と表現力で観客の心を動かすことができるグループで、いわゆる「沸き曲」がなくても戦えたのが大きかったと思います。ティーンならではの葛藤を素直な言葉で表現しつつも、最後には希望を見出す。そんな楽曲の世界観と、真っ直ぐで芯の強さを感じる歌声に、コロナ禍において力をもらったアイドルファンは少なくなかったのでは。『青春群像』を聴いていると、そんな時期のことを思い出します。
ラストに収録された「にたものどうし」は2021年に制作された曲で、今回が初めての音源化です。ピアノ一本で聴かせる極上のバラードで、このタイミングで聴くと彼女たちのこれまでとこれからを繋ぐような1曲にも思えてきます。2ndアルバムのリリースにもそろそろ期待したいところですが、その前に今作でグループの原点を今一度おさらいしておきましょう。
始発待ちアンダーグラウンド「SAYONARA TOKYO BLUE」
「渋谷で終電を逃した女の子たちが暇つぶしに結成した」という風変わりなコンセプトを持つ3人組、始発待ちアンダーグラウンド。今村怜央(ALI)が提供した前作「ロックンロールとタイガーリリィ」に続く新曲「SAYONARA TOKYO BLUE」はロックバンド・うみのてが手がけた秋にぴったりのミディアムナンバーです。上京するもうだつが上がらない日々を過ごす〈私〉と東京との決別を描いた1曲で、はしゃぎすぎた夏を終えてふと我に返った時のような感覚が、生活感ある描写も相まってリアルに響いてきます。
この曲と深い繋がりがあるのが「SAYONARA BABY BLUE」という楽曲です。元々はうみのてのフロントマンである笹口騒音ハーモニカのレパートリーで、2013年にうみのて名義のアルバムに収録されると、橋本愛や後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)などが絶賛した知る人ぞ知る名曲です。「SAYONARA TOKYO BLUE」はそのアナザーストーリー的な楽曲で、主人公の背景や心情の変化などがより具体的に描かれています。6分近くの大作ながらもチルで涼しげなサウンドアプローチによって重たい印象になりすぎず、どこか人恋しくなる季節にスッと胸に入ってくる1曲です。届くべきところに届けば(それが一番難しいのですが)、多くの人の心に刺さり得るのではないでしょうか。