『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』、今年も紡がれた新たな物語 64,000人の祝福と歓喜の2日間を兵庫慎司が振り返る

『RSR23』兵庫慎司による総括レポ

 コロナ禍により中止になった2020年と2021年、ステージを3つに減らしてた2022年を経て、4年ぶりに本来の規模に近い形での開催となった、2023年8月11・12日の、『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』(以下『RSR』)。……いや、違う。2019年は、台風で1日目が中止になったので(1999年に始まって以来、『RSR』史上初の中止だった)、この形での開催は、2018年以来5年ぶり、ということになる。

 ステージは5つ。1日目は31組で、オールナイト開催の2日目は46組、計77組をブッキング。2日目に、ハンブレッダーズが、ムツムロ アキラのインフルエンザ感染で出演キャンセルになったのと、Diosのキーボード・ササノマリイが体調不良で、彼抜きでステージに上がった以外は、すべてのアクトが無事にライブを終えた。

 それ以外の出演者としては、「スナック赤星(レッドスター)」と題し深夜にカラオケ大会を行った「RED STAR FIELD」のRED STAR CAFEに、初日は怪談師3名、2日目は「好き好きロンちゃん」が出演した。いずれも、直前の出演発表だった。

 5年ぶりの本来の形での開催であったこと、例年に増して豪華かつ行き届いたブッキングを実現できたことが功を奏したか、2日とも大盛況。2日で延べ64,000人が集まったという。

 そう、オールナイト開催をやっている、日本一巨大なキャンプフェスである『RSR』は、その「参加者がフェスを楽しんでいるさま」(つまり「ライブを楽しんでいるさま」だけではない、ということ)が、おそらく『FUJI ROCK FESTIVAL』よりも、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』よりも、ダイレクトに感じられるフェスである。

 会場内のそこかしこに広大なテントエリアがあり、そのテントやタープで寝ていたり、炭火で何かを焼く煙が上がっていたり、ビアサーバーとビール樽を持ち込んで仲間に配っていたり――という、『RSR』ならではの光景が、コロナ禍で一度失われただけに、より幸福そうに、より眩しく映った、自分などには。単に自分が、ひとりで行って、ひとりで帰って、2日目はテントも張らずに終演までいたせいかもしれないが。

 
 
 
 
 
この投稿をInstagramで見る
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

RISING SUN ROCK FESTIVAL(@rsrfes)がシェアした投稿

 この夏は、『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』と『RSR』の2本にしか出演しないエレファントカシマシ。5月3日の日本武道館での復活ライブ以来のステージになる、これが初出演で、これが今年唯一のフェス出演……いや、そもそも、このバンドでフェスというものに出ること自体がほぼ初の、The Street Sliders。そして、『RSR』と最も関わりが深いバンドのひとつである、The Birthday。この3バンドが続く、1日目の「RED STAR FIELD」の中盤から後半にかけての時間は、『RSR』ならではのこだわりや愛が、ひしひしと感じられる流れになっていた。

 が、ご存知のように、チバユウスケの食道がんの治療のため、The Birthdayは出演キャンセル。ピンチヒッターを引き受けた東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦は、2曲をプレイしたところで「ここは、The Birthdayがやる時間でした。代わりに盛り上げていこうと思います。スカパラとチバくんで作った曲があります。この曲でチバくんにパワーを届けたいと思います。歌ってくれるのは――」と、10‐FEETのTAKUMAを呼び込み、「カナリヤ鳴く空」を演奏。サングラスと歌い方(ちょいしゃくれあげ気味)でチバを己に憑依させてこの曲を歌ったTAKUMAは、次の10‐FEETとスカパラのコラボ曲「閃光」では「チバさんのところまで届け!」と歌詞を変える。

 続くゲスト、ハナレグミの永積崇は、スカパラとのコラボ曲「追憶のライラック」を歌ってから、フィッシュマンズの「いかれたBaby」を、ドラム 茂木欣一とデュエットした。

 ってことは、出るんじゃないかしら、あの人も。という期待に応えて登場した宮本浩次は、「明日以外すべて燃やせ」1曲で、すさまじいカロリー消費量のアクションと歌を披露。まさに“スターが来た”感爆発のパフォーマンスで、オーディエンスを釘づけにした。

 TAKUMAとマキシマム ザ ホルモンのナヲが乱入した「Paradise Has No Border」で、スカパラは出番を終えたが、「アンコールが許されました! ライジングと言えばこの曲!」と、「Pride Of Lions」を追加する。

 2008年7月に冷牟田竜之が脱退、現在の編成になったスカパラは、その直後の『RSR』に、「SUN STAGE」の、夜明けの大トリで出演。リリースしたばかりだったニューアルバムであり、前作にあたるベスト盤で一区切りして、新しいスカパラが始まった作品である『Perfect Future』から、最後にこの「Pride Of Lions」を、プレイしたのだった。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO RSR レポ 写真
東京スカパラダイスオーケストラ(提供:Sony Music Artists)

 そう、今年の『RSR』の現場であらためて感じたのが、実はこのようなことなのだ。長く続いているフェスであれば、オーディエンスとフェスの間に物語が生まれる。その歴史の間、同じアーティストが出続けていれば、アーティストとフェスの間にも、物語が生まれる。

 というのは、『RSR』に限ったことではないが(『OTODAMA~音泉魂~』でも『ARABAKI ROCK FEST.』でも『MONSTER baSH』でも、僕はそれを体感したことがある)、『RSR』に関しては、その“『RSR』とアーティストとの物語”を象徴する楽曲を持っているアーティストが、いくつもいるのである。

 たとえば、スカパラの3つ前に「RED STAR FIELD」に出演したハナレグミは、「ライジングサン、初めて出たのが2003年だから、20周年。その時に歌いました曲を」という紹介で、「家族の風景」を歌った。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO RSR レポ 写真
ハナレグミ(撮影:東美樹)

 その次に「RED STAR FIELD」に出たエレファントカシマシは、3曲目に「風に吹かれて」を演奏した。多くのファンは知っていることだが、昔、『RSR』でこの曲をやった時、サビでオーディエンスが自発的に腕を大きく左右に振ったのがきっかけで、“「風に吹かれて」のサビでは腕を振る”が全国に広まり、エレファントカシマシのライブにおける恒例の光景になったのだ。以来彼らは、『RSR』に出ると必ずこの曲をやる(現に、この6日前に出演した『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』では、やらなかった)。

 2日目の花火の直後の21時、「SUN STAGE」に出演したMISIAは、スペシャルゲストで、なんと矢野顕子を呼び込んだ。そして、自身が矢野顕子の45周年記念アルバムでコーラスで参加した「音楽はおくりもの」、矢野顕子の「ひとつだけ」、昨年矢野顕子が彼女に提供した「希望のうた」の3曲を、共に歌い、演奏した。

 音源でコラボした2曲の間に「ひとつだけ」をはさんだ理由を、MISIAはこう説明した。『RSR』でぜひやりたい曲がある。自分は『RSR』に出るのは10年ぶりだけど、20年くらい前(2002年)に、矢野さんが忌野清志郎さんと『RSR』でこの曲を歌われていて、私も一緒に歌いたい、という。

 このふたりによる3曲自体がスペシャルな事件だったのは言うまでもないが、特にこの「ひとつだけ」の後半で、ピアノ1本とふたりの声が(おそらくアドリブというかインプロで)溶け合っていくさま、本当に、圧巻だった。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO RSR レポ 写真

 また、MISIAは、そんなふうに過去からの物語を伝えただけではなかった。最後の1曲で、5時間前に「EARTH TENT」で出番を終えたRockon Social Clubが登場し、両者のコラボ曲として、9月1日にリリースされる「傷だらけの王者」を披露したのだ。

 8月で男闘呼組としての活動を終える前から、男闘呼組の4人にドラマー 青山英樹とプロデューサー 寺岡呼人が加わった6人で活動を始め、今年『RSR』に初登場したRockon Social Clubは、ボーカル&ベースの高橋和也曰く「50代の新人バンド」である。

 ここからまた新しい物語が始まっていきそうな、MISIAのステージであり、Rockon Social Clubのステージだった。

 1日目、The Street Slidersの真裏の「SUN STAGE」に出演した電気グルーヴの石野卓球は、2001年から2019年まで、「LOOPA NIGHT」→「TONE PARK」→「SONIXTATION」と名前を変えつつ、2日目の深夜の時間帯を任されてきた存在である。

 そんな電気が、ピエール瀧の逮捕後では初となる出演で、初日トリ前の「SUN STAGE」に立った、というのは、オーディエンスにとっても、本人たちにとっても、感慨深いものがあったのではないだろうか。自分も――復帰後の電気のライブは何度も観ているが――とてもスペシャルな時間に感じた。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO RSR レポ 写真
電気グルーヴ(撮影:東美樹)

 12曲目(ラスト「富士山」の1曲前)、「レアクティオーン」の「東京の若者のすべてがここに集まっています」というアナウンサーのボイスサンプルを、この日の電気は「北海道の若者のすべてがここに集まっています」と作り変えてリピートした。

 卓球&瀧と共に、毎年『RSR』に参加し続けてきたDEVICEGIRLSによるビジョンには、北海道の地名や景色のグラフィックが次々と映し出され、最後は、ここ「SUN STAGE」に、巨大なUFOが下りてくる映像になった。

 「デビュー20周年特別企画『全員優勝計画』」のまっ只中であるサンボマスターの山口隆は、「初めて出たのが2004年、あの頃よりすごいロックンロールやるからよ!」と「美しき人間の日々」を歌い、リリースしたばかりの「Future is Yours」(この夏公開の映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 〜とべとべ手巻き寿司〜』主題歌)を披露した。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO RSR レポ 写真
サンボマスター(撮影:東美樹)

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる