「綺麗事じゃなくて、クソならクソだって言ってくれる」 元自衛官芸人 やす子が語るヒップホップ/ラップ愛
お笑い芸人のルーツ音楽にスポットを当てた連載「芸人と音楽」。第4弾ではブレイク中の元自衛官芸人・やす子に話を聞いた。ヒップホップやロックなどを好んで聴き、最近は自身でもオリジナル楽曲を制作してSNSに投稿。その絶妙なワードセンスやDTMならではのサウンドが音楽ファンやアーティストの間でも話題になっている。そんなやす子が影響を受けてきた音楽、そして楽曲を制作する上で意識していることなど、熱い音楽愛が伝わるインタビューをお届けする。なお、後日インタビューの模様を収録した動画も公開予定だ。(編集部)【記事最後にプレゼント情報あり】
くるり、RIP SLYMEからFla$hBackS、C.O.S.A.、NF Zesshoまで…様々な音楽に魅了
ーーやす子さんはヒップホップやロックがお好きで、最近ではご自身でも楽曲を制作されていますが、幼少期や学生時代にはどんな音楽を聴いていましたか?
やす子:24時間ずっと音楽が流れているような家で、ミスチル(Mr.Children)とか、BUMP OF CHICKENとか、サザン(オールスターズ)とか、宇多田ヒカルさんとか、Coccoさんとか……母親がいろんな曲をずっと流していて。先日母親に会ったら、今ハマっているのがMONOEYESとかAwichさん、クリープハイプって言ってました。そういう音楽が好きな家庭で育ちましたね。
小学2年か3年生の時に初めてCDを買ったんですが、お店でくるりの「リバー」が流れていて、いいなと思って「これ誰の曲ですか?」って聞いて。そこで『アンテナ』だったかな? アルバムを買ったのを覚えてますね。そこからどんどん、自分が好きな音楽を聴いて。The BeatlesのCDが家にたくさんあったのでそれを聴いたり、くるりやRIP SLYMEも聴いていました。
ーー最初はくるりなどのロックバンドから入って、RIP SLYMEも好きになったんですね。
やす子:そうなんです。中学生の時に『WILD BUNCH FEST.』が地元 山口県で始まって、20歳くらいまで毎年見に行ってました。そこでマキシマム ザ ホルモン、10-FEETとか、ゴリゴリの人たちを見て「かっこいい!」って思って。中でもきのこ帝国と、RIP SLYMEがすごく記憶に残っています。RIP SLYMEは「RIDE ON」っていう曲をやっていて、「なんだこれは!」って。みんなギターとか弾いているのに、RIP SLYMEは後ろにDJがいて、マイク一本で魅せてめっちゃかっこよかったのを覚えています。ラップとの出会いはそれが最初でした。そこから『高校生RAP選手権』が始まって、T-PablowさんとかMC☆ニガリa.k.a赤い稲妻さんとかが出ているのを見て、ラップバトルからヒップホップの世界に入りました。それまではヒップホップって言われても、全然知らなくて。高校生の時にYouTubeでFla$hBackSを偶然知って、漢さんとかSEEDAさんとかも聴いてました。
ーー『高校生RAP選手権』が始まったのはちょうどやす子さんが高校生ぐらいの時ですか?
やす子:始まったのは中学生くらいの頃だったと思いますが、しっかり見始めたのは高2、高3ぐらいで、自衛隊時代も見てました。自衛官って外になかなか自由に出られないんですけど、そういう時にみんなビートを流してサイファーを始めるんですよ。なんだかヒップホップの始まりを見たような気がして。人間って、何もないとサイファーを始めるんだなって思ったのを覚えてます。その時にちょうど『高校生RAP選手権』がめちゃめちゃ盛り上がっていて、そのビートを使ってサイファーして。自分はそれを見ていた感じですね。みんなが流しているのを「これ、誰のビートだろう?」っていうところから、Red EyeさんとかRHYMESTER、Creepy Nutsとかを聴いていきました。
ーーやす子さんはサイファーには参加されなかったんですね。
やす子:全然、恥ずかしくて。自分はその頃、毎日10km走るって決めていて、People In The Boxとクリープハイプとか、3時間くらいのプレイリストを作ってずっと聴いてましたね。この2組は当時流行っていたのもあるし、声もリズムもなんだか響くなって。クリープハイプは「百八円の恋」をカラオケとかでよく歌っていたり、People In The Boxも聴いていて心地よかったですね。あとはリリックが良くて、10代の自分に響いていた気がします。直接的な表現じゃなくて、ちょっと皮肉な感じの言葉遊びが面白いなって思いました。People In The Boxは深く考えても理解できない歌詞というか。自分は飽き性なんで、分かりやすい歌詞だと聴かなくなっちゃうんですけど、「これは何を歌ってるんだろうな?」っていう歌詞が好きで。だから、MONO NO AWAREも好きです。ストーリー性がある曲とか、実はこういう意味だったんだなって後から分かったりするのがすごく好きです。
ーーじゃあ、歌詞や声に注目して聴くことが多い?
やす子:そうですね。ヒップホップに関しては、ポップすぎるよりもリリックが深くて、バックグラウンドをちゃんと語っている感じがいい。C.O.S.A.さんとかNF Zesshoさんとか、焦燥感というか、ダークでリアルな部分に共感できる曲が好きです。明るい曲も好きですけど、“ヒップホップ=リアル”かなと思って、よく聴いてますね。NF Zesshoさんはフロウとかラップの仕方がすごく好きです。ドープなビートに乗るどっしりとした声がすごくラッパーだなって感じがしていいなって。あとFebbさん(Fla$hBackSのメンバーで2018年に逝去)がKOJOEさん、MUDさんとやっている「Salud Feat. MUD & Febb」っていう曲があるんですけど、ビートの一小節目から「うわっ、これ聴こう」って思った曲にたまたまFebbさんが参加していて。少し前にYouTubeでKOJOEさんの方から(illmoreによる)リミックスが出て、めちゃくちゃよくて、今はそれを毎朝1時間くらい聴いてます。
Febbさんはラップの仕方と押韻の仕方が好きで。ザ・日本語ラップだなって思ったのはFebbさんが初めてで、高校生の時に「Gone」を聴き始めました。Fla$hBackSのリリックで一番くらったのは「Sour Picture starring jjj」の〈Medicine,一番はミュージック〉。確かに自分にとって音楽って一番いい薬みたいなものだなって。暗い時に聴いたらめっちゃ上がるし、楽しい時に聴いたらもっと上がるし、〈Medicine,一番はミュージック〉ですね。そうやって各々のいいところから刺激を受けるのが好きです。
ーー最近、他にやす子さんが気に入っている音楽があれば教えてください。
やす子:最近いいなと思ったのはJUMADIBAさんとDos Monos。JUMADIBAさんは『Kusabi』っていうアルバム、リリックもビートも全部良かったです。よく頭の中に流れるのはNF Zesshoさんの「I Give」(NF Zessho x Aru-2 名義)と「Lasagna」と「Thinking of you」。
あと、BESさんとBIMさんのコラボ曲「Make so happy」ですね。リリックがいいなって。〈優しい日差し 毎日じゃなーい〉〈未だに未定で 船を漕ごう〉とか、楽しそうに「どうしようもないよね」と歌っているのが良くて。最初は音楽が好きで聴き始めたんですけど、落ち込んだり悩んでいる時に、こんな日もあるかって思える曲かなと思います。
それとサニーデイ・サービスの「青春狂走曲」も聴きますね。落ち込んだときはゆったりした曲を聴いたり、あえてNujabesさんの「Hikari」や「Color of Autumn」のようなダークめの曲を聴いたりしています。
ーー新しい音楽とはどうやって出会っているんですか?
やす子:ラジオでいいなと思ったり、チャートを見て今流行りの100曲とかを聴いていいなと思った曲をプレイリストに入れて、そこからそれぞれのバンドやラッパーの曲を聴きにいきますね。あとは音楽雑誌を見たりもします。自分で作らず聴いていただけの時は、本とか全然読まなかったんですけどね。
ーー昨年12月にはご自身で制作した「はじめてのきょく」を投稿して話題になりました。楽曲を作ろうと思ったきっかけは?
暇だったので曲を作りました🎵
タイトル「はじめてのきょく」
作曲・やす子
作詞・やす子
動画出演・やす子
MV・やす子
監督・やす子制作時間は2時間です✌ pic.twitter.com/chLoNaLtSd
— やす子 (@yasuko_sma) December 20, 2022
やす子:もともと、ラッパーの作業環境を映すYouTube番組『オタク IN THA HOOD』とかをよく見ていて。きっかけは、SASUKEさんが路上でMPCを使ってプレイして、それを海外の方が見ているのを見て、「こうやって作れる機械があるんだ」って思ったんです。鎮座DOPENESSさんもそういうものでフリースタイルをやっていてかっこいいって思っていて。決め手になったのはC.O.S.A.さんがYouTubeでマイクやキーボード、パソコンなど宅録の風景を映しているのを見て「家でもできるんだ」と思ったことです。SKRYUさんのリリックにも〈宅録スタジオからお届け中〉というのがあるんですけど、その時「宅録スタジオってなんだろう?」って思っていて、実際にYouTubeで見てこういうことか! と。自分も宅録をやりたいと思って始めました。
ーー自衛官時代は恥ずかしくてサイファーに参加されなかったということでしたが。
やす子:そうです! もう一つ決め手がありました。『フリースタイルティーチャー』(テレビ朝日)に出たんですよ。そうしたら人前でラップするのは恥ずかしくないやって。ド下手でもいいか、と思って、ビートを作るだけじゃなくて声も入れていこうと思いました。
ーー2時間で作ったという「はじめてのきょく」は現在までにTwitterで7万いいねと、ものすごい反響でしたね。こうした反応は予想通りでしたか?
やす子:予想外すぎました。Twitterではその日にあったことを速報みたいな感じでツイートしていたので、今回も「曲を作ったからツイートするか」と軽く思ったらものすごく反響があって。音楽の力ってすごいと思いました! 芸人だからだというのもあると思うんですけど、そのおかげでいろんなミュージシャンの方とも繋がることができました。元きのこ帝国の佐藤千亜妃さんが「宅録ならではの雑音が入っている、あの感じがいい」とか、元BiSHのアユニ・Dさんが「すごいです」って言ってくださったんですよ。音楽が好きだから、音楽を作っている人と話せるようになったのが嬉しかったですね。
ーーリリックはどのように作っているんですか?
やす子:「はじめてのきょく」は「今から曲を作りますよ」って感じで、〈真っ白なページ 未使用のペン〉と始めたけど、結局書いたのは試し書きの線です、みたいな(笑)。何も浮かばないからそのままの状態をリリックにしました。押韻だけはしようというのは決めましたね。ビートに関しては適当に歌ったので、今聴くと恥ずかしくて聴いてられません……でも一番好きな曲です! 最近の曲は楽しく作っている感じですけど、「はじめてのきょく」は“今からやるぞ”っていう気持ちがリリックに表れていてリアルだな、ヒップホップだなって。