“シティポップ以前”の音楽に共通する湿っぽい感じが好き タブレット純が昭和歌謡を聴き続ける理由

タブレット純、昭和歌謡への思い入れ

 お笑い芸人のルーツ音楽にスポットを当てた連載「芸人と音楽」。第2弾として、シンガーとしても活躍する芸人・タブレット純が出演。小学生の頃から青春を悔やむ楽曲を聴いており、過去に和田弘とマヒナスターズに参加していたこともあるなど、興味深い経歴を持つ芸人だ。ムード歌謡やグループサウンズ、フォークソングを中心に自身が生まれる前の楽曲を好んで聴いているという彼の音楽遍歴を改めて聞いた。(編集部)

昭和歌謡を聴き続ける理由は? 芸人 タブレット純が魅力を熱弁

ガロとTHE ALFEEの共通点

ーータブレット純さんといえばムード歌謡好きのイメージがありますが、子供の頃はどんな音楽を聴いていましたか?

タブレット純:幼い頃の記憶を辿ると、父が車の中で流していた水原弘さんのカセットテープが最初ですね。「黒い花びら」という大ヒット曲があるんですけど、歌い方も含めて一言で言えば暗いんです。水原さんの歌声が物心ついた時から染みついているので、それが自分の好みの下敷きになっているかもしれないですね。そこからAMラジオを聴くようになって、ラジオでは自然と古い歌が流れてくるので、当時リアルタイムで流行していたヒット曲より自分が生まれる前の曲の方が好みだと気づきました。それからはラジオで聴いた曲を探したり、気に入った曲を集めた自分だけのカセットテープを作ったりしていましたね。

ーーAMラジオを聴こうと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。

タブレット純:親が家で流していたからだと思うんですけど、この番組を聴いたら古い歌がかかるっていうのが自分なりにわかってきて、そこから聴くようになっていった感じです。

ーーご自身が生まれる前の古い歌のどんなところに惹かれましたか?

タブレット純:昔の歌って大体暗いんですよね。ほとんどがマイナー調だからメロディも暗いし、詞も失恋や死をテーマにしたものが多い。日本人の性なのかもしれないですが、暗い歌が世の中を占めていたようなんです。自分にも暗い面があるからか、そういう歌に自己投影してしまうところがありました。あとは自分が生まれる前の出来事に神秘性みたいなものを感じていました。過去に遡ることってある種の現実逃避だと思うんです。そういうタイムスリップしていくような感覚にもゾクゾクしていましたね。それは音楽に限らないですが、一番わかりやすいツールとして音楽がありました。

ーー元々現実逃避しがちなタイプだったんでしょうか。

タブレット純:こうなりたいという理想の自分と、理想とは真逆の程遠い現実の自分がいるんですよね。たとえば、自分は運動神経が良くないし勉強も得意ではない。『ドラえもん』で言えばのび太くんのような存在でしたから、「現実の自分から離れたい」という思いは常にありました。同じ頃に相撲取りや野球選手のファンになったのですが、その選手が勝てばその日はバラ色で、現実の自分のことはどうでもいい。そういう感覚もありましたね。だから音楽も誰かと共有するというより一人の部屋で「今この世でこの曲を聴いているのは自分だけなんじゃないか」と思いながら聴いていました。当時、同じような音楽を聴いている人は周りにいなかったので、肩身の狭さも感じていましたが、逆にその音楽たちとの間に友情のようなものが芽生えて、自分しか聴いていないことがどっぷりハマる要因にもなっていたと思います。自分と音楽だけの関係みたいなところで生きてきたからこそ、いまだに思い入れが強いんじゃないかな。当時は今みたいなネット社会じゃなかったし、CDすら再販していなくて中古レコード屋で漁ることしかできなかったんですよね。それが本当に僕の青春そのものだったような気がしています。

ーー水原弘さん以外にはどんな音楽を聴いていましたか?

タブレット純:小学生のとき叔父からもらったカセットテープの中に、シンガーソングライターの小椋佳さんと、森田公一とトップギャランの歌があって、なんとなく聴いたらハマってしまいました。どちらの歌も、暗い青春時代を大人になって遡るみたいな歌詞なんですよね。そのとき僕はまだ10歳くらいでしたが、なぜか青春を悔やむような歌に惹かれたんです。実際に青春時代を過ごしたわけではないのに。

ーー青春を悔やむ曲を聴く小学生ってだいぶ大人びてますよね。

タブレット純:詞をどこまで理解していたかは自分でもわかりませんが、退廃的な感じに惹かれていたというか、「ひょっとしたら人生ってこんなものなのかもしれないな」と。絶望では決してないですけど、美しい諦めみたいなものを、音楽を通して子供ながら達観していたのかもしれません。

――その後はどんな音楽を聴きましたか?

タブレット純:次にハマったのがグループサウンズです。当時アイドル的存在だったジュリー(沢田研二)がいたザ・タイガースを知って興味を持ちました。グループサウンズは美しくて暗い感じなので、現実逃避にうってつけの世界観なんです。たとえるなら『星の王子さま』や少女漫画のような世界です。グループサウンズは、暗い音楽とは逆にちょっと夢を見させてくれるような存在でもありました。両極端ですが、諦めと憧れみたいな2つの感情が根本にあったと思います。

 そういう感じで、ラジオを通じて僕の中のパズルをはめ込んでいくように自分の好きな音楽を探っていったんですが、その中でも特にピースがはまった瞬間が、和田弘とマヒナスターズを見つけたときです。彼らはグループサウンズとも違うムード歌謡で、ムードコーラスというジャンルなんですけど、彼らの音楽を知ったとき、「究極の音楽に出会ったぞ」と思いました。小学校の卒業アルバムに“好きな芸能人・マヒナスターズ“って書いてしまうくらい衝撃を受けました。

ーーマヒナスターズはタブレット純さんがこれまでに聴いてきたアーティストとはまた少し違う世界観ですよね。

タブレット純:基本的にムード歌謡って夜の東京で起こる男女の恋愛を歌った歌なんですが、そういう世界への憧れもあったんだと思います。あと今だったらラブソング的なアプローチになるのが、ムード歌謡だとなぜか病的になるんですよね。ただデートしてるだけの歌なのにものすごく病的な空気感が漂っていて、そこがまた妙なんです。マヒナスターズの場合、のったりとしたパラダイス的なハワイアン音楽を基調にしてるんですけど。ムード歌謡のサウンドになると異様な世界観になっていて、例えるなら深海に漂うクラゲみたいな。その感じが小学生時代の自分の内面にすごく合っていたんじゃないかな。

ーー小学生の頃に好きな音楽の方向性がもう定まっていたんですか?

タブレット純:小学生のうちに全部固まった感じはあります。ジャンルでいうと、フォークソングとグループサウンズとムード歌謡、ないしは昭和30年代から40年代の昭和歌謡全般ですね。いまだにその辺りを掘り下げて聴いています。ちなみに最初に買ったフォークソングのカセットテープはガロです。ガロも少女漫画から飛び出してきたようなキャラクターでしたが、青春の悔恨とはまた違う、オンタイムの暗い青春を歌っていました。「学生街の喫茶店」という曲が大ヒットしたんですが、彼らは元々洋楽志向のグループだったので、そのヒット曲のイメージを求められるようになって、すぐに解散しちゃったんですよね。ガロにイメージが近いのが、当時彼らの事務所の後輩であり、同じ3人組のTHE ALFEEです。

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