バイオリニスト 石田泰尚、異色の弦楽合奏団で模索するクラシックの在り方 長渕剛に感銘を受けた独自の活動スタンスに迫る

石田泰尚が模索するクラシックの在り方

長渕さんが吸っていたタバコの銘柄まで真似したくらい憧れ

ーー石田さんご自身は、どんな作曲家が好きなのでしょうか。

石田:パッと思い浮かぶのは、マーラーですね。一番好きなんじゃないかな。マーラーって編成がとにかく大きい。100人規模のオーケストラで演奏することが多いのですが、例えば『交響曲第4番』の第2楽章で、コンサートマスターが、バイオリンを2台使うのですが、そのうちの1台はチューニングを変えて、その場所になったらそれを弾いてっていうふうにしている。

 それと交響曲第6番では、最終楽章でハンマーを打ち鳴らすんです。他の作曲家ではそういう場面ってなかなかないので感動しました。とにかく、尺も長大なところとか大好きですね。石田組はバイオリン奏者のみ、最大13人編成のグループなので今のところマーラーはできないですが、いつか管楽器なども入れた大編成のオーケストラを組んで演奏してみたいです。もちろん、その時は全員が男。それでマーラーをやったらかっこいいだろうなあ。

ーーちなみに、石田さんの独特のスタイルやファッションはどこにルーツがあるのでしょうか。

石田:長渕剛さんですね。長渕さんが出ていたドラマ『とんぼ』でめちゃくちゃ好きになって。ドラマの中で長渕さんが吸っていたタバコの銘柄まで真似したくらい憧れの存在になりました。確か大学二年生の頃に、初めて長渕さんのライブに行ったんですよ。東京ドームの弾き語りライブ。センターステージで、3塁側だったか1塁側だったかのベンチからボディーガードを引き連れて登場した瞬間に鳥肌が立ちました。何万人という観客に対し、たった一人で訴えかける力、長渕さんの場合は歌詞と歌、そしてメロディ……。それは、僕がやっているクラシックとは全然違いますけど、その訴える力の大切さみたいなところは共通するのではないかと思ったんです。

ーー直接お会いになったこともありますか?

石田:はい。たまたまレコーディングの仕事で、長渕さんの楽曲で演奏させてもらいました。当日、ご本人が来るというからもうとにかく緊張しましたね(笑)。サインが欲しくて、たまたまスーツに白シャツだったので、シャツに書いてもらって今でも大事に飾ってあります。

ーー今作でもOASISやいきものがかりの楽曲をカバーしていますよね。クラシック以外の楽曲をやるときに心がけていることは?

石田:クラシック以外の音楽は、本当に知らないんです。ただ、プログラムには絶対に入れたいと思っていて。なので、この曲をやると決めたら何度も繰り返し原曲を聴きます。そして、オリジナルを尊重した演奏を心がけていますね。選曲の基準も明確にあって。原曲を聞いたときに、石田組で演奏したときのイメージが頭の中に湧いてくるような楽曲。「これをやったらかっこいいだろうな」と思う楽曲を選んでいますね。クラシックの楽曲とは構成も編成も何もかも別物ですけど、クラシックもロックもポップスも、いい音楽はいい音楽なんですよね。それをお客さんにお届けして喜んでもらえればいいなと思って演奏していますね。

ーー新星日本交響楽団(2001年に東京フィルハーモニー交響楽団と合併)を経て、神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターと京都市交響楽団特別客演コンサートマスターを兼務。さらに石田組としての活動も始めるなど多忙な日々を送られていると思いますが、演奏家として心掛けていることは?

石田:石田組は自分の名前を掲げたグループですから、僕自身が日々鍛錬をしていないとすぐに人は離れていってしまうと思っています。とにかく大切にしているのは「謙虚さ」。こう見えて謙虚なんですよ(笑)。そして、他者をリスペクトする気持ちも大事かな。それが演奏にも反映されると思うし、それがなければ人はついてこないと思うんですよね。なので、これからも大事にしていきたいところです。

ーー最近は、例えば反田恭平さんや角野隼斗さんのような若い世代の音楽家が活躍している影響もあってか、若い人たちの間でクラシックが以前よりも聴かれるようになった気がします。おそらくSNSやYouTubeなどでクラシックに触れる機会が増えたのも大きいと思うのですが、その辺り日本でのクラシックの浸透具合について、何か思うところはありますか?

石田:確かに、石田組でも若いお客さんが増えた気がします。それはすごく嬉しいことです。テレビでも高嶋ちさ子さんや葉加瀬太郎さんがお茶の間にクラシックはそんなに敷居が高いものではないという活動をしてくれるのも大きいと思いますね。

ーー今後、やってみたいことは?

石田:個人的にはソロの活動をやりながら、コンサートマスターとしての仕事もしっかりやって、石田組も全国ツアーをするなどかなり充実した日々を過ごしています。目標は「生涯現役」なので、今のスタンスを長く続けられたらいいなというのと、石田組に関しては、もっと幅広くやっていきたい。紅白とか出たいですね。たまにサプライズで、石田組のアンコールで「津軽海峡・冬景色」をやるんですよ。しかもバイオリンを弾かずにマイクを持って歌っちゃったりしてるんです。メンバーにも内緒で。

ーーそんなことしてるんですか(笑)。

石田:なので、いつか『紅白』(『NHK紅白歌合戦』)に出場して石川さゆりさんのバックで「津軽海峡・冬景色」を演奏したいです。

■リリース情報
『石田組 2023・夏』
発売中

ヴィヴァルディ:協奏曲集《四季》 作品8
協奏曲 第1番 ホ長調 RV269 《春》
第1楽章: Allegro
第2楽章: Largo
第3楽章: Allegro (Danza pastorale)
協奏曲 第2番 ト短調 RV315 《夏》
第1楽章: Allegro non molto
第2楽章: Adagio - Presto - Adagio
第3楽章: Presto
協奏曲 第3番 ヘ長調 RV293 《秋》
第1楽章: Allegro
第2楽章: Adagio molto
第3楽章: Allegro
協奏曲 第4番 ヘ短調 RV297 《冬》
第1楽章: Allegro non molto
第2楽章: Largo
第3楽章: Allegro
ホワットエヴァー
ありがとう

<特典DVD(約22分)>
ヴィヴァルディ:協奏曲集《四季》 作品8より
第1番《春》:第1楽章
第2番《夏》:第3楽章
第3番《秋》:第3楽章
第4番《冬》:第1楽章
ホワットエヴァー
ありがとう
2022年8月19日ミューザ川崎シンフォニーホールでのLIVE録音

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