バイオリニスト 石田泰尚、異色の弦楽合奏団で模索するクラシックの在り方 長渕剛に感銘を受けた独自の活動スタンスに迫る

石田泰尚が模索するクラシックの在り方

 バイオリニスト 石田泰尚が率いる石田組のニューアルバム『石田組 2023・夏』が8月2日にリリースされた。本作は、今年4月にリリースされサウンドスキャンの週間クラシック・チャート第1位を獲得した 『石田 組 2023・春』に続く第二弾。2022年8月19日 ミューザ川崎シンフォニーホールでのLIVE録音から、ヴィヴァルディの「四季」など超定番のクラシック曲はもちろん、英国のロックバンド OASISの不朽の名曲「Whatever」や、いきものがかりの「ありがとう」など、ロックやJ-POPのカバーも取り上げている。

 現在は神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターと、京都市交響楽団特別客演コンサートマスターを兼務しながら、「石田組」を通じてクラシックをより多くの人たちに聴いてもらう方法を模索し続ける石田。そのモチベーションは一体どこからきているのか。彼の音楽的なルーツはもちろん、音楽を奏でる上で大切にしていることなど彼のフィロソフィーにも迫った。(黒田隆憲)

男だけのメンバーを十数人集めるのってなかなか難しい

ーーまずは「石田組」結成のきっかけから教えてください。

石田:結成は2014年の秋なのですが、その数年前に僕が最初に所属していた元新星日本交響楽団のオーボエ奏者の方から、ソロ・アルバムに参加してくれないかというお話をいただきまして。ストリングスのメンバーは僕が自由に集めていいということだったので、あえて男だけのメンバーに揃えてレコーディングに挑んだんです。その光景を見たときに「これはかっこいいな」と。一度きりじゃなく、男だけの弦楽合奏団を作って何かできたらいいなと思ったのが最初のきっかけでした。

ーー男だけのメンバーを集めようと思ったのはどうしてですか?

石田:クラシックの界隈で、男だけのメンバーを十数人集めるのってなかなか難しいんですよ。というのも、クラシックの演奏家は女性が多い上にみなさんとても演奏がうまくて。だからこそ、「男だけでもこれだけできるんだぜ?」というところを見せたかった(笑)。意外に繊細なところもあるんだよ? みたいな。それで、当時お世話になっていた「みなとみらいホール」の方にそのアイデアを持ち込んだら、乗り気になってくださって。そうした経緯があり、みなとみらいホールが主催してくれたのが「石田組」のデビューコンサートでした。

ーー曲によって編成を変えていく流動的なメンバー構成が石田組の特徴だと思うのですが、一貫して目指しているテーマやコンセプトなどはありますか?

石田:石田組のメンバーは僕も含めてクラシック畑の音楽家なのですが、演奏するジャンルはポップスやロック、映画音楽など、ごった煮にして届けようと。それがグループ結成当時からのテーマでありコンセプトです。そうすることによりクラシックが苦手な人にもお届けできるのではないかと思っていますね。

ーー石田さんご自身も、クラシックだけでなくいろんなジャンルの音楽を聴いて育ったのですか?

石田:いや、僕はずっとクラシック一筋だったんです。ロックとかもこれまでずっと聴いてこなかったし、今もほとんど聴いていなくて。バイオリンを習い始めたのは、小さい頃からテレビなどで流れる音楽に対して、手を叩いてリズムを取るなど反応していたらしく。それを見た両親が「何か楽器を習わせた方がいいのでは」と思ったからなんですよね(笑)。たまたま近所にバイオリン教室があったので、そこに通うようになって。気がついたときにはバイオリンを弾いていました。

ーー練習は楽しかったですか?

石田:バイオリンに関しては嫌だった思い出が特にないので、おそらく練習も楽しかったのだと思います。中学生になって反抗期が訪れた時期もあったのですが、周りにバイオリンをやっているやつなんていなかったし、同級生の目の前で演奏したりすると、「おお!」って反応されるんです。それもけっこう、気持ちよかったんでしょうね(笑)。「これは続けていた方がいいんじゃないかな」って。その頃から今に至るまで、「とにかく人前で弾きたい」という気持ちはずっと変わっていないです。

ーー子供の頃から「プロの演奏家」をめざしていました?

石田:僕は、バイオリンに関してはずっと「趣味」でやっていこうと思っていたんです。大学も普通に一般大学へ行こうと高三の秋くらいまで思っていたくらい。でも高校生の時に実際に大学へ見学に行ってみたら、「これは違うな」と。その日のうちに、「音大へ行こう」と決心し親に報告していました。

ーーご両親には反対されました?

石田:いや、全然。なんとなく予想はしていたみたいですね。バイオリン以外はこれといって得意なものもなかったし、周りからは「音楽で食っていくなんて大変だよ」と言われ続けていたので、「そういうものなのかな」と刷り込まれてしまったんです。その分、音大を受けると決めてからは「絶対にプロになる」という強い意志でいましたが。

ーーそうだったのですね。

石田:ただ……音大ってほぼ女子大みたいな感じなんですよ。8割ほどが女性なので、男子校から進学した自分にとっては全く違う世界。「なんや、ここ!」と速攻で辞めたくなってしまった(笑)。ずっと「辞めたい」って言い続けていたのですが、だんだん慣れてくるんです。しかも女性が多いと男性はチヤホヤされるんですよ。それで勘違いしてしまう。「俺ってすごいんだな」って。

ーーあははは。

石田:その「勘違い」の時期が学生の時でよかったなと、今になってすごく思います(笑)。しかも、浮かれている僕に対してちゃんと説教してくれた教授がいたんです。「お前、調子に乗ってるけど、世の中に出たらその実力じゃ全く歯が立たないからな」って。「現状に満足するんじゃない」とガツンと言ってもらいまして、そこで心を入れ替えることができました。

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