リアルサウンド連載「From Editors」第16回:私たちが人形に対して抱く“共感” 松濤美術館「ボーダレス・ドールズ」展を見て

 「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。

松濤美術館ボーダレス・ドールズ展を見て

 最近、ちょっとおしゃれな場所で食事をすると、アイドルやキャラクターなどが印刷されたアクリル板、いわゆるアクスタと一緒に写真を撮っている方をよく見かけます。かくいう私もアクスタはいくつか所持していて、会社のデスクにも何人か置いているのですが、アクスタを持っていない人からするとすこし異様な光景に見えるかもしれません。なぜアクスタが好きで、なぜ食事や旅行先で一緒に撮影をしたくなるのかを説明することはかなり難しいのですが、アクスタがここまで多くの人の心を掴むのには理由があるはずです。その答えの一つを示しているのが渋谷区立松濤美術館で展示している「ボーダレス・ドールズ」展です。

 一口に人形と言っても様々な特性を持ちます。呪いのために作られたものから人々の幸せを願うもの、美術品として作られた彫刻から、商業のために作られたマネキンまで。これらをボーダーレスに見て考えるというのが今回の展示です。

 平安時代、呪いに使われていた木製の人形から、村上隆とフィギュア原型師のBOMEによってつくられたKo²ちゃんまで、時系列に沿って順に見ていく中で、私が特に印象的だったのは幕末から明治時代にかけて制作された生人形でした。これは伝統芸能や伝統行事などの様子を模った人形なのですが、かなり精巧に作られて、絵画にはない“人”の存在感が見る者に緊張感を与えます。今にも動き出しそうな生人形のことを、心のどこかで数百年生きている人間のように感じ、人生の大先輩と対峙しているような感覚になりました。

 私たちは普段から多くのモノに囲まれています。その中でも人の形をした“人形”を捨てたり、壊したりすることは、他のモノと比べてショックを受けることがあると思います。頭では物体でしかないと分かっていても、それが破損したら痛みを感じるような感覚があるのは、人の形をした物体でしかない“人形”に共感を持っているからではないでしょうか。人にとって最も身近な存在である、人そのものの形を模した人形は、人が持つ人そのものに対しての共感が普遍的なものであるからであるように感じました。

 今回の展示にアクスタはなかったのですが、展示の看板とアクスタを並べて撮影する人の姿が印象的でした。もしかしたら数百年後に同様の展示を行う際にアクスタがずらっと並ぶ展示があるかもしれないのですが、その時鑑賞者の人が何を思うのか気になります。

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