Mrs. GREEN APPLE、結成10周年を飾る『ANTENNA』全曲解説 バンドを続ける決断がもたらした“自由自在な力強さ”

ミセス『ANTENNA』全曲解説

 Mrs. GREEN APPLEが5thアルバム『ANTENNA』を7月5日にリリースした。

 4thアルバム『Attitude』以来3年9カ月ぶりの、現体制になってからは初のオリジナルフルアルバム。タイトルが発表された時点でちょっと驚いたのを覚えている。これまでMrs. GREEN APPLEは、その時点でのバンドの課題をアルバムのタイトルとして掲げてきた。一方、『ANTENNA』というワードからはそういったニュアンスを感じなかったためだ。

Mrs. GREEN APPLE、強靭な生命力で解き放つ“愛”の歌 怒涛の10年間を経たからこその普遍的で切実なメッセージ

Mrs. GREEN APPLEが2022年3月の活動再開以来、初めてとなるフルアルバム『ANTENNA』を完成させた。一足早く…

 そして4月4日・5日に開催された『Mrs. TAIBAN LIVE』。Mrs. GREEN APPLEにとって約7年ぶりの対バンライブを観ながら、『ANTENNA』というワードをふと思い出した瞬間があった。『音楽と人』2023年6月号のインタビューによると、7年間対バンライブがなかったのは、自分以外の存在から刺激を受けざるを得ない環境に苦手意識を感じていたからとのこと。しかし『Mrs. TAIBAN LIVE』ではそういったストレスは全く感じず、最後まで気持ちよくライブができたそうで、対バンライブならではの緊張を感じながらも、緊張すらも楽しんでいるような大森元貴 (Vo/Gt)、若井滉斗(Gt)、藤澤涼架 (Key)の姿を見て、あの日私は「なるほど、だから今こそ『ANTENNA』なのか」と納得したのだった。

 『ANTENNA』というタイトルの通り、バンドの論理に則るのではなく、自分たちの感性のアンテナに従い、感受性に身を委ねながら制作したアルバムなのでは? 今年の春頃からあった予感は、実際に収録曲を聴いているうちに確信に変わった。現在のバンドのモードの背景にあるのは、やはり“フェーズ2”始動以降の日々だろう。“フェーズ1”のMrs. GREEN APPLEとは、大森をブレインとし、将来到達すべき地点への道筋をストイックに描くことで、若くして成功を収めてきたバンドだった。しかし全ての物事が計画通りに運ぶとは限らない。自分たちが望まないタイミングで突然悲しみに見舞われることがあると知った。それでもバンドを続ける決断をし、リスナーと再会したことで新たな喜びを知った。そういった経験により、“何があっても僕らなら大丈夫”と言えるほどの強さを手に入れた。

 5thアルバム『ANTENNA』には、結成から10年の歳月を経て勇敢に成長したMrs. GREEN APPLEの足跡、戻れない場所に置いてきたものに対する憂い、過去の自分たちを見つめる優しい眼差し、そして未来への希望が詰まっている。ここからは13の収録曲を順に紐解いていきたい。

Mrs. GREEN APPLE – 5th Full Album「ANTENNA」Highlight

「ANTENNA」

 アルバムタイトルと同名のオープニングナンバー。先に待つのが喜びか悲しみか分からない人生に希望を見出していこうという気持ちを〈わかりはしないから/いつもドキドキしていれるんでしょう?〉と歌っている。その後に続く〈アンテナコントロールして/憂鬱も抱きしめて/どこまでも行ける/そんな気がしてる〉というフレーズがこのアルバムを象徴しているようだ。パワフルなギターやのびやかなメロディから成るパワーポップだが、特徴的な音色のキーボードやデジタルサウンドを盛り込んだり、冒頭のリフを引き継ぐようなタッピングギターをサビで取り入れたりすることでポップに仕上げているのがミセスらしい。1番はFメジャーキーで統一されている一方、それ以降はA♭→F→D→B→Fと次々と転調。目まぐるしく景色が変化するなか、ボーカルのニュアンスも変化しており、未知の世界を突き進んでいく時の疾走感、高揚感、少しの不安が音でも構造でも歌でも表現されている。

「Magic」

 ワールドミュージックのエッセンスを含んだダンスポップ。打ち込みを多用した音像、リズムやメロディのリフレインによって聴く人の身も心も踊らせる。イントロやサビ後半にある〈いいよ もっともっと良いように〉から始まるフレーズは、Gメジャーコードの構成音のみで成り立っているためシンプルながら中毒性があり、曲が終わってからもつい口ずさみたくなる。総じて軽やかなテンションのアッパーチューンではあるが、音圧の上がるCメロで〈私を奮い立たせて〉と歌っていたり、ボーカルの音域が1オクターブ下がる落ちサビで〈そう簡単には行かないな全部〉と本音を漏らしていたりと、表情豊かな楽曲展開が等身大の人物像を浮かび上がらせている。「コカ・コーラCoke STUDIO」キャンペーンソングということで、歌詞に“コーラ”を忍ばせる遊び心も。

Mrs. GREEN APPLE「Magic」Official Music Video

「私は最強」

 映画『ONE PIECE FILM RED』の劇中キャラクター・ウタに提供した楽曲のセルフカバー。活動休止期間中「テレビやラジオからミセスの曲が流れてきても他人の曲に聴こえるくらいになっていた」という彼らが改めて“ミセスらしさ”を意識しながら、活動再開に向けて最初にレコーディングした曲でもあり(※1、2)、楽曲の人気度や立ち位置を鑑みれば、シングルカップリング曲にも関わらずアルバムにも収録されることになった理由も合点がいく。バンド、ストリングス、ブラスが有機的に絡み合うアップリフティングな曲調は、アルバム3曲目というポジションにぴったりだ。

Mrs. GREEN APPLE – 私は最強【LIVE “ゼンジン未到とリライアンス〜復誦編〜”】

「Blizzard」

 『Attitude』収録の「ProPose」を彷彿とさせるデスクトップミュージック。しかし拍に対して変則的な展開をしていた「ProPose」に対し、この曲は拍にノることの気持ちよさが主軸になっている印象。基本的に4つ打ちだったり、サビのボーカルは全編ファルセットかつファンク寄りのニュアンスを足していたり、間奏にかけてEDM的な畳みかけがあったりと、ミニマムなサウンドながら楽曲をダンサブルにさせる要素がいくつも含まれている。ボーカルは言葉を明瞭に伝えることよりも、リズムやメロディにフィットさせることを重視した発音。面白いのが1番Aメロの〈鳴いた虫のエモーショナル〉の歌い回しで、あえて日本語らしく発音しないことで、韻を踏んでいないフレーズをまるで踏んでいるかのように聴かせている。

「ケセラセラ」

 ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』(ABCテレビ・テレビ朝日系)主題歌。癒えない傷を抱えながらギリギリのところで踏ん張る人の誇り、尊厳を歌ったこの曲は、今年4月に配信されると、日々頑張って生きる人の応援歌として広まった。サビのメロディがとにかくキャッチーで、スペイン語で“なるようになるさ”という意味の〈ケセラセラ〉という言葉を、おまじないのように口ずさんでいたリスナーも少なくないだろう。〈私を愛せるのは私だけ。/生まれ変わるなら?/「また私だね。」〉というフレーズから強さと強がりが表裏一体になっている様が感じ取れるように、曲の起伏は主人公の感情の起伏とともにあるが、ニーチェの著書を連想させる語〈ツァラトゥストラ〉を機にエネルギーを外へ放つ展開になり、Aメジャー→Cメジャーと変化してきたサビはさらにD♭→E♭と転調、極限まで明るくなる。8分の6拍子になるラストは弦楽器も管楽器も総動員。ミュージカルさながらの祝祭感とともに、人生の美しさを具現化しながらのフィニッシュだ。

Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」Official Music Video

「Soranji」

 映画『ラーゲリより愛を込めて』主題歌で10thシングル表題曲。この10年間大森が歌い続けてきたことの集大成で、Mrs. GREEN APPLEという生命の起源にして終着点とも言えるバラードは、アルバムの折り返し地点に配置された。目に見える範囲の日常を歌った「ケセラセラ」に対し、愛を語り継ぐことや死生観にも言及した「Soranji」の方がスケールが大きいように思えるが、“自分の心の内に灯る小さな希望を信じて生きる”というテーマは通じていて、メッセージの連続性を感じさせる曲順にもなっている。

Mrs. GREEN APPLE「Soranji」Official Music Video

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