小泉今日子からAKB48、YOASOBIまで……アイドル像を描いた楽曲はどのように変化したのか? 歌詞に現れるファンとの距離感

 TikTokをひらけば毎日のようにその楽曲が流れ、また鈴木愛理によるカバーパフォーマンスなども大きな話題となった、YOASOBIの「アイドル」。

 同曲のおもしろさの一つはアイドルの「虚像」「偶像性」を描いた部分である。〈無敵の笑顔で荒らすメディア 知りたいその秘密ミステリアス 抜けてるとこさえ彼女のエリア 完璧で嘘つきな君は 天才的なアイドル様〉という歌い出しがあらわすように、フィクションで塗り固めてアイドルを作り上げていく様が描かれている。メディアはそのアイドルの好みや生活から人間的本質を引き出そうとするが、〈何を聞かれても のらりくらり〉とかわしていく姿もこれまた痛快である。

小泉今日子、AKB48、Berryz工房らによるメタ視点のアイドル曲

なんてったってアイドル

 アイドル像をメタ的な視点でとらえたアイドルソングはこれまでも数多くリリースされてきた。J-POPでもっとも有名なのは、小泉今日子の「なんてったってアイドル」(1985年)だろう。恋人の存在を疑われても〈知らぬ存ぜぬと とぼけて〉と芸能レポーターたちを煙に巻いていく。そして〈清く 正しく 美しく なんてったってアイドル〉でまとめあげる。アイドルはビジネスであり、たとえ恋愛をしていても〈インタビューなら ノーコメント マネージャーとおして〉と大人の存在までチラつかせているところがこの曲の異色的な部分だった。一方で、私生活では素性がバレないように変装をするが、ちょっとは気づかれたいという承認欲求をのぞかせる部分からは、そのアイドルの人間味が浮き上がっている。

初日

 2009年にリリースされたのは、AKB48の「初日」だ。こちらはYOASOBIの「アイドル」とはテイストが違い、ステージ上で見せる輝く笑顔の裏側には、努力、汗、涙、悔しさがびっしり張り付いていることが綴られていた。〈一人だけ踊れずに 帰り道 泣いた日もある 思うように歌えずに 自信を失った日もある いつもライバルが輝いて見えた〉などの歌詞は、AKB48のメンバーそのものをなぞっているようである。

 2011年にお披露目されたももいろクローバーZの佐々木彩夏のソロ曲「だって あーりんなんだもーん☆」は、アイドルの私生活に明るく踏み込んだ曲だ。当時14歳だった佐々木の実際の「成長期」にも重ね合わせ、ついついシュークリームを食べてしまって〈ああ アイドルだもの がまんしなくちゃ〉と自分を戒めるなど、「アイドル・佐々木彩夏」が様々な現実に直面して葛藤する。

Berryz工房 『普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?』 (Promotion edit)

 2014年リリースのBerryz工房「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」はそのタイトル通り、長年活動しているアイドルの心境に迫った曲である。〈青春全部ささげた事は 誇りに思って生きて行くわ〉と自分に言い聞かせた直後に〈アイドル10年やっちまったんだよ〉とくるところが、いかにもつんく♂の作詞曲だ。土日も全部ささげてアイドルに打ち込んだ結果、〈ママになった友達だっているのが 現実〉と歌われる。アイドルの時間は決して永遠ではないことを感じさせた。

【OFFICIAL】せのしすたぁ『アイドルなんてなっちゃダメ!ゼッタイ!』(TIF2015)

 これらの楽曲のメッセージをさらに具体化させていたのが、2014年にリリースされた、せのしすたぁの「アイドルなんてなっちゃダメ!ゼッタイ!」だ。「アイドル戦国時代」と呼ばれるアイドルブーム真っ只中の当時、せのしすたぁは〈将来だって保証はない〉〈ブームになんて のっちゃダメ!実際 いつか終わっちゃうんです〉とはっきり突きつけた。Berryz工房が〈バイト感覚じゃ続かないから 土日も全部ささげて来たよ〉と歌った一方、せのしすたぁはすでに〈勉強だってついてけない 友達だってできないよ当然 土日がないんだもん〉と嘆いていたのは特筆すべき事象であるだろう。

KekkonshitemoMAMAninattemo Kimihaeienni Bokuno IDOL

 アイドルの実情と、現実をつきつけられるファンたちの心境を歌ったのが、でんぱ組.incの「結婚してもMAMAになっても君は永遠にぼくのIDOL♡」(2020年)だ。アイドルの結婚をテーマにした清竜人作詞作曲の同曲は、〈君が幸せに過ごせば ぼくも生きられるのさ〉〈どこかで君が笑ってれば ぼくも幸せなのさ〉が胸にグッとくる。実際にメンバーの古川未鈴が2019年に結婚を発表したこともあり、究極的な「アイドルソング」と言えるかもしれない。

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