小泉今日子からAKB48、YOASOBIまで……アイドル像を描いた楽曲はどのように変化したのか? 歌詞に現れるファンとの距離感
アイドルと会える時代、その「近さ」が楽曲にも影響?
これらの楽曲はいずれも、アイドルとそれを取り巻くものたちの本音やメンタリティを描いていて、生々しさ、温度感が伝わる曲だった。ただ時代によって各曲が持つ意味合いは異なる。「なんてったってアイドル」があらわしていた1980年代のアイドル像は、「テレビでしか観ることができない神格的存在」という前提があった上で、そんな存在であっても人間的な部分を持っていることを歌っていた。
一方「初日」「普通、アイドル10年やってらんないでしょ!?」「だって あーりんなんだもーん☆」「アイドルなんてなっちゃダメ!ゼッタイ!」「結婚してもMAMAになっても君は永遠にぼくのIDOL♡」の重要点は、ライブハウスを拠点に活動するライブアイドルやご当地アイドルの増加、そして握手やチェキ撮影といった特典会など「実際に会える」というアイドルシーンの状況のなかで生まれた曲であるということ。近年、アイドルとファンが「一緒に上を目指す」という関係性や共感性を持つなど、さまざまな面で「近さ」が売りになった。楽曲面でアイドルの想いや背景を描くようになっていったのは、そういった時代の風潮が影響している可能性もある。
その点では、「虚像」「偶像」としてのアイドルを描いたYOASOBIの「アイドル」は、アイドルの危うさを感じさせたり、アイドルという存在そのものへの痛烈な毒や皮肉をまじえてたりしているものの、〈見えそうで見えない秘密は蜜の味〉とあるように、内面には入り込ませない。ほかにも、2021年にリリースされた=LOVE(当時)の齊藤なぎさのソロ曲「現役アイドルちゅ~」も、いろいろなことを匂わせながらもアイドルのキラキラした表面にフォーカスしていた。
「会える」が前提となったことで、かつてとは様変わりし、時にはトラブルが起きることもある近年のアイドルシーン。ただYOASOBIの「アイドル」、齊藤なぎさの「現役アイドルちゅ〜」などは、アイドルとの距離感を問い直し、あらためてその神格性を取り戻すためのムーブメントの前兆的楽曲になるかもしれない。
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