tonun、“何気ない親密さ”が倍増させる音楽の快楽性 聴き手のスウィートスポットを射抜く『Intro』を聴いて
まずは、再生ボタンに触れただけでそこにある日常生活の色彩が鮮やかになるような、洗練された心地良い楽曲の手触りに強い魅力を感じる。だが、その音色と言葉に浸っているうちに、その音が持つ真の快楽性や、脳裏に浮かんでいく情景に感情を強く刺激され、その音楽が「素敵なBGM」から「特別な何か」へと変わっていく。
6月14日に1stアルバム『Intro』をリリースしたtonunの音楽の魅力について語るのであれば、このような言葉になるだろうか。
2020年にYouTubeに自身の楽曲「最後の恋のMagic」を投稿するところから音楽活動をスタートさせたtonunは、翌年には「YouTube Music Sessions」(YouTubeがこれからの活躍を期待するアーティスト支援プログラム)に、2022年にはSpotifyが選ぶ次世代アーティスト「Early Noise 2022」に選ばれるなど、まさに現代を代表するプラットフォームとともに急速な躍進を果たした、今の時代を象徴するシンガーソングライターであると言えるだろう。
もちろん、その熱狂はオンラインに留まらず、自身にとって初となるライブツアー『tonun 1st Live Tour 2022』は全公演ソールドアウト。今年は『SUMMER SONIC』や『SWEET LOVE SHOWER』を筆頭に様々なフェスティバルへの出演を予定しており、その勢いはさらに加速している。
R&Bやネオソウル、ジャズからの影響を強く反映しつつも、幼少期からのルーツでもあるRADWIMPSや東京事変といったJ-POP的感覚に重きを置き、トム・ミッシュやHONNEといったトラックメイカーと共振しながらも、ジョン・メイヤーのようなギタリストへの憧れを公言しているtonunの「洋」と「邦」、「打ち込み」と「生」を自在に越境しながら一つの楽曲へと落とし込む音楽センス。それはまさに、ジャンルや時代が意味を無くしつつあるストリーミング時代の音楽シーンをこれ以上ないほど真っ直ぐに射抜くものだ。それは、現在のtonunの集大成的作品である『Intro』を聴けばすぐに分かることだろう。
例えば、本作の冒頭を飾り、先行シングルとしてもリリース済みの「Sugar Magic」は一聴すれば軽快なホーンの音色に心躍らされる最高にグルーヴィなポップだが、その高揚感を紐解いてみると、実は70年代~80年代のソウル/ディスコを直接落とし込むのではなく、打ち込みによるドラムやフレーズの配置など、ハウスミュージック的な文法でもって構築されていることが分かる。
4つ打ちのグルーヴと小気味良いカッティングギターの絶妙な絡みが最高のディスコパーティを演出する「Friday Night」も、その気になればどこまでも盛り上がれそうなところを、抑制の効いた打ち込みとダンスミュージックの上モノ的に響くギターの音色が、聴き手のテンションを最も心地よく感じられるところにキープしてくれる。だからこそ、何となくスマートフォンのスピーカーで流していても心地良いし、ヘッドホンで聴けばループの快楽にどこまでも浸ることができる。それはまるで、現代を生きる音楽リスナーとしてのスウィートスポットを射抜かれるかのような感覚だ。