ルイス・キャパルディ、地元で人気のシンガーソングライターから世界的大スターへ 成功も悲劇も手にした稀有な才能と人生
その辺の街中で歌っていた、地元ではお馴染みのシンガーソングライターが、数年後には世界的な大スターに。映画やドラマではもはや手垢が付きすぎているくらいに定番のプロットだが、そういうことが時々起こるのがポップミュージックというものだ。「アイツの歌がすごく良いんだ」という感覚は、結局のところそこから遠く離れた人々にとっても「良い曲」だったりするのである。その点において、現代のシーンにおける代表的な人物がルイス・キャパルディであることに疑いの余地はないだろう。
スコットランド・グラスゴーで生まれ、ウェスト・ロージアンの小さな町であるバスゲイトで育ったルイスは、9歳の頃にギターを始め、10代前半から地元のパブなどを中心にライブを続けてきたという、生粋の「地元でお馴染みのシンガーソングライター」である。彼が自宅の寝室で自作曲の弾き語りをiPhoneで録音、何気なくSoundCloudにアップロードし、それを現在のマネージャーが発見していなければ、もしかしたら今も彼はスコットランドで地道に音楽活動を続けているままだったかもしれない。
そんな“最初の発見”を経て、2017年に自主制作となる最初のシングル曲「Bruises」がリリースされると、世界中で新たな“発見”が相次ぐようになる。レーベル契約前でありながらSpotifyで2,800万再生という異例の大ヒットを記録した同曲は、彼のキャリアをこれ以上ないほど強く後押しし、2019年5月には遂にメジャーデビュー作となる『Divinely Uninspired To A Hellish Extent』をリリース。2016年からの3年間にリリースしてきた楽曲も収録した、当時のルイスにとっての集大成的な作品でもあった同作は、全英アルバムチャートで6週連続1位を記録するという大ヒット作となった。
何よりもルイスに大きな変化を与えたのは、2018年11月リリースのEP『Breach』の3曲目という控え目な印象とともにリリースされた「Someone You Loved」だろう。シンプルなピアノバラードでありながら、あまりにも切ない喪失感に満ちたリリックと、エモーショナルで美しい歌声がじわじわと人々の支持を集める。また、MVで描かれる感動的なストーリーも楽曲とあわせてリスナーの胸を打った。そして同楽曲はリリースから約4カ月後となる2019年3月に全英シングルチャート1位を達成。さらにそこから7週連続で1位を獲得し、同年における全英で史上最も売れたシングル、歴代史上最もストリームされた曲と認定されるほどの大ヒットとなったのである。さらにその支持は国境を超えて広がっていき、同年11月には全米シングルチャートでも1位を達成。数年前まで“町で評判のシンガーソングライター”だったルイスは、いつの間にか“2019年に最も成功したアーティスト”の一人となったのだ。多くの著名なアーティストも彼に称賛を送り、かのエルトン・ジョンもその才能を絶賛してメールで直接メッセージを伝えたというほどだ。
だが、急激な成功と、自らを囲む環境の劇的な変化は、確実にルイス自身に大きな負担を与えていた。今年配信されたNetflixドキュメンタリー『ルイス・キャパルディ:今、僕が思うこと』では、「実力のない詐欺師の気分だ」とエド・シーランに相談し、「僕の歌を聴いてくれるのは嬉しい」と前置きしながらも「人々が僕の歌を聴きに来てくれるのが不思議だ」、「理解できない」と語り、それでも前に進むために、次の作品を完成させようとグラスゴーの自宅で制作作業に取り組むルイスの姿が収められている。序盤こそ彼らしいユーモラスな姿や、幼少期の映像に和むことができるが、徐々に状況は悪化し、やがてパニック発作や持病の痙攣の悪化に苦しむようになり、もはや「成功するべきではなかったのではないか」と思ってしまうほどの光景が広がっていく。