フレデリック、変化球を王道にしてきた原点 未知なる刺激を求めて絶好調を更新し続けるバンドの現在地
なんだ、この変な音楽は!
フレデリックが2月22日にリリースしたミニアルバム『優游涵泳回遊録』を初めて聴いた時、率直にそう思った。もちろんフレデリックの音楽にはこれまでも触れてきたし、ライブにもよく行っている。それでも聴き進めるほどに脳内は疑問符で埋め尽くされ、次々出現する謎にワクワクさせられた。感覚としては、インディーズ時代のミニアルバム『うちゅうにむちゅう』を聴き、「なんだ、このバンドは!」と興味をそそられた時に近い。偶然ではあるが、インスト曲が収録されるのが『うちゅうにむちゅう』の「パパマーチ」以来9年ぶりというのも何かを象徴している気がする。
なぜフレデリックはそういった作品に至ったのか。ここ1年のバンドの活動から探りたい。
約1年前、2022年3月30日に3rdフルアルバム『フレデリズム3』をリリースしたフレデリック。主に2020年以降に制作した曲をまとめたこのアルバムは、リモートレコーディングの導入など新しいことをきっかけに、表現の幅をさらに広げた彼らの熱心な取り組みが生んだ作品だった。収録されているのは須田景凪とのコラボ曲「ANSWER」、和田アキ子に提供した「YONA YONA DANCE」のセルフカバーなど14曲。なかでも、アルバムリード曲「ジャンキー」のインパクトは広く波及した。「BPM150超えのダンサブルなアッパーチューン」「イントロから鳴っている上物の独特なフレーズ」「リズムや語呂のいい言葉のリフレイン」「いったいどういう意味だ? と聴き手の注意を引く歌詞」といった特徴を持ち、メジャーデビュー曲「オドループ」の系譜を継いでいる。2014年にリリースされた「オドループ」は2021年末にMV再生数1億回を突破、さらにTikTokからグローバルな広がりを見せるなど2020年代に入ってからもトピックを欠かず、また、一度聴いたら頭から離れない曲としてリスナーの間で突発的に話題になることもたびたびある。そんななか、新たな代表曲を自ら提示することで、“このジャンルはやっぱりフレデリックだけ”とリスナーに強く印象づけていたのが頼もしかった。
2022年6月29日には、東京・国立代々木競技場第一体育館でワンマンライブ『FREDERHYTHM ARENA 2022~ミュージックジャンキー~』を開催し、『フレデリズム3』収録曲を中心としたライブを披露した。作詞作曲を手掛ける三原康司(Ba)がMCで「フレデリックは変なバンドだなって、曲を書いている自分でも思うんです。でもその個性や歪さを愛してもらえたからこそ、今日アリーナでライブができるんだなと思います」と言っていたように(※1)、この日のライブはメンバーにとって、バンドの個性を認めてくれるリスナーがこんなにもたくさんいるのだという事実や、これからも個性を育んでいきたいと気持ちを再確認する機会となった。
秋には早くも次のツアーへ出発。2022年9月~2023年1月のライブハウスツアー『FREDERHYTHM TOUR 2022-2023〜ミュージックジャーニー〜 』と、2023年3月に東京・大阪で行った初のホール公演『優游涵泳回遊宴-FREDERHYTHM HALL 2023-』で計30公演。フレデリック史上最長のツアーをつい先日、3月29日まで周っていた。さらに、ツアーの合間には他アーティストから誘われた対バン企画や各地のフェス・イベントなどに出演。ライブ三昧の日々を過ごす中、道中では各地の名所を訪れたり、自然に触れたりしてその土地土地の空気を吸いながら音楽を奏でた。観光の様子は各公演のMCで語られたほか、バンドの公式Instagramに掲載されている。
そうして全国を旅している最中に制作されたのが『優游涵泳回遊録』だ。声に出して読みたくなるタイトルは、“ゆったりとした心のままに、じっくりと学問や芸術を深く味わうこと”を意味する四字熟語“優游涵泳(ゆうゆうかんえい)”と、“諸方を巡り遊ぶこと”を意味する“回遊(かいゆう)”、そして記録の“録(ろく)”を組み合わせた造語。バンドがツアー中に制作やレコーディングを行う場合、「もっとライブで盛り上がれる曲を」とか「ライブ中“こんな曲がセットリストにあればいいのに”と思ったから作った」といった方向性に行き、“ステージの熱量をそのままパッケージングした”テイクになることは多いが、『優游涵泳回遊録』はそういう作品ではないのが面白い。ライブでの再現性は一旦端に置き、音源は音源として、とにかく面白い作品を作ろうという姿勢は健在だ。そして「MYSTERY JOURNEY」にある〈幻想をほうばって/本当の自分に会いたくて〉という一節が象徴しているように、“今ここ”だけを見つめるのではなく、目の前の景色越しに“ここではないどこか”へと視線を向け、空想すること――康司の脳内から始まった不思議な世界をメンバー4人の力で具現化し、無邪気に遊んだり現実世界に新たな提案をしたりすることが、フレデリックをフレデリックたらしめている様々な要因の根にある原点だ。キャリアを重ねた今のフレデリックの技術・表現力・チームワークを以てして、その原点に立ち還ったからこそ、『優游涵泳回遊録』は刺激的かつ核心的な作品になったのではないだろうか。
収録曲のうち、2023年初の楽曲として世に放たれたのが「スパークルダンサー」だ。冬フェスでいち早く披露され、誰も知らない新曲とは思えない盛り上がりを生み出すと、2023年1月1日よりボートレース2023年CMシリーズ「アイ アム ア ボートレーサー」主題歌として全国で放映がスタートし、1月25日に配信リリースされた。「フレデリックがボートレース?」と驚いた人も少なくないと思うが、蓋を開けてみればこれがベストマッチ。ボートレースらしいワードを盛り込みつつも得意の押韻と反復をフル活用、歌詞と歌の段階からフレデリックらしいリズム&グルーヴを作り、サウンドやアレンジ、構成面でも攻めの姿勢を貫く新しいダンスナンバーが誕生した。先ほど「ジャンキー」について“新たな代表曲を自ら提示”と書いたが、この曲が「ジャンキー」のさらに先を行く曲として存在している。「ジャンキー」から1年も経たずして、この引き出しからまだ新しいものが出てくるのかと驚かざるを得ない。ライブで三原健司(Vo/Gt)が「2023年の代表曲」と紹介しているのも納得だ。