フレデリック、無双状態で駆け抜けたNHKホール公演 ディープな演出から完璧なラストシーンまで、見どころ満載なステージに
自分たちと一緒に身も心も解放しようと音楽を通じて語りかけ、時に力強くリスナーを導くバンドアンサンブル。全30公演を経て脂の乗った演奏で観客を心身ともに踊らせ、解きほぐしたあと、未知の世界へ連れていくディープかつ不思議なサウンド。イマジネーション豊かな楽曲が呼ぶユニークな演出。そして、ライブエンターテインメントとしての念入りな作り込みよう。開演から終演まで、観客を夢中にさせるための工夫や遊び心、執念にも近い気概が詰まった2時間のステージはあまりにも痛快で、笑いながら白旗を上げることしかできない。
フレデリック史上最長ツアーのファイナルであり、ツアー中に制作された最新作(ミニアルバム)『優游涵泳回遊録』のリリースパーティでもあった『優游涵泳回遊宴-FREDERHYTHM HALL 2023-』。大阪・東京で開催された初のホール公演のうち、3月29日のNHKホール公演は、「これぞフレデリック!」と言いたくなる見事なライブだった。
1曲目は『優游涵泳回遊録』収録の「MYSTERY JOURNEY」。ライブが始まった瞬間からバンドのテンションは高く、持てるもの全てを捧げる三原健司(Vo/Gt)、三原康司(Ba)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)の熱演は、その情熱で以って“こっちも出しきるから、あなたも出しきってほしい”と観客一人ひとりに迫るかのようだった。音像が広がる中間部を経て、極限まで膨れ上がったバンドサウンドがサッと止み、〈退屈がくたばる歌をあなたに届けるまで〉というフレーズがアカペラによって届けられる。組み合わせの妙により元々ネガティブなイメージを持つ言葉さえもポジティブなイメージに昇華、独自のメッセージに変換する康司のワードセンスが光るフレーズであり、2020年以降より強固になったフレデリックのスタンスを象徴する言葉だ。今までと同じ形で有観客ライブができないことをただ憂うことはせず、ニューノーマルとして普及した無観客配信ライブの価値や可能性を探ったり、スタジオに入れないならば宅録環境を整備したりと、コロナ禍でも歩みを止めなかったフレデリック。その歩みがバンドを逞しくさせ、さらに“どんな世界になってもフレデリックの音楽で楽しめる”という確信を4人にもたらした。今の彼らの内から出るダンスミュージックは、かつてないほど楽しくて揺るぎない。冒頭数曲で“最新=最高”なバンドの状態が伝わってきた。
さらに、今回のホール公演から声出しが解禁に。健司が「声出せるようになったな。あなたの感情を押し殺す必要もなくなったな。踊れますか? 歌えますか? 全員出しきっていけよ!」と言っていた通り、我々の高揚感を遮るものはもう何もなかった。そんななか、4曲目には「飄々とエモーション」。新型コロナウイルスが本格的に広まる直前、2020年2月24日に開催された横浜アリーナ公演から約3年を経て、コール&レスポンスが蘇った瞬間だった。3年分の想いを込めて、健司がワンフレーズ歌う。続けて、観客も同じフレーズをシンガロングする。「みんな、歌上手くなってない? めっちゃピッチいいやんって感動してしまった」「でもピッチは俺に任せろ。力の限り、今までのフレデリックのライブで一番でっかい声、出してもらっていいですかね」と健司が声を掛けると、今度は観客がもっと大きな歌声で返した。そんなやりとりもありつつ、最初はやや緊張気味だった観客も、曲数を重ねるほど思い思いの楽しみ方をするようになる。また、声出し解禁ということは、客席から声援を送ることももちろん可能。MCに入る前、場内が一時暗転すると、一人の観客をきっかけにメンバーの名前を呼ぶ声があちこちで上がった。そして誰からともなくみんなで笑い合う。和やかな光景だ。