フレデリックが一対一で鳴らす“今の時代”の音楽 純度の高い幸福感に満ちた代々木ワンマンレポ

フレデリック、4度目の単独アリーナ公演

 3rdフルアルバム『フレデリズム3』のリリースに伴って開催された、フレデリック4度目の単独アリーナ公演『FREDERHYTHM ARENA 2022~ミュージックジャンキー~』。“フレデリックはこういうふうに音楽をやっていきます”という旗を提示するような作品になったとメンバーが語る『フレデリズム3』の楽曲群を、どこで届けようかと考えた時、アリーナのような広い空間でライブがしたいと思ったことから、国立代々木競技場第一体育館でのワンマンが実現した。

 神戸ワールド記念ホール(2018年)、横浜アリーナ(2020年)、日本武道館(2021年)、そして代々木と続いた「FREDERHYTHM ARENA」シリーズは、バンドがステップアップしていく過程で“アリーナで鳴るフレデリックの音楽とはどのようなものだろうか”と明確に意識し始めたところから始まったもので(※1)、以降、自分たちの作った曲に導かれる形でフレデリックはアリーナ公演を重ねていった。三原健司(Vo/Gt)の「こんな最高な未来を自分たちの手で掴んできたからこそ届けられる一曲があります」という発言はそういった積み重ねに対する自負の表れだろう。自らそう紹介した「VISION」を歌いながら、センターステージで両腕を広げる健司には、そして彼の背中越しに視界いっぱいの観客を捉えた三原康司(Ba)、赤頭隆児(Gt)、高橋武(Dr)には、この日の代々木はどう映っていたのだろうか。きっとそこには頭の中のビジョンを超える感動があったはずだ。

三原健司(Vo/Gt)
高橋武(Dr)

 ライブの幕開けを知らせたのは、『フレデリズム3』のアートワークを彷彿させるグラフィックを用いたオープニング映像と、アルバムリード曲「ジャンキー」のイントロをループさせたようなSEで、この日の1曲目は、武道館でラストに披露された「名悪役」だった。連綿とした物語をしっかり伝えたいというバンドの意図が窺えるオープニング。そしてイントロとともに客席から手拍子が発生した「TOMOSHI BEAT」では、「全員で行こう」とメンバーも同じように手を叩き、一糸乱れぬリズムがアリーナを満たした。セットリストの2曲目、ライブのかなり早い段階でそういった場面が生まれたのは、バンドと観客で心の足並みが揃っている証拠だろう。また、高橋の力強いリズムに合わせて手拍子が起きた「かなしいうれしい」では、バンドが一瞬演奏を止め、観客の手拍子に楽曲を託す場面も。広い空間に響く手拍子の美しさに健司は「すごいな」と呟いていて、観客の純度高いリアクションを前にメンバーも驚き喜んでいるように見えた。

 「ここに来たからにはやることはシンプル。素直に、純粋に、俺たちの音楽をやりこみます。なので、あなたたちもそうであってください。一対一でやりましょう」と健司。セットリストは『フレデリズム3』収録の全14曲を中心に構成されたもので、「名悪役」~「TOMOSHI BEAT」~「蜃気楼」によるスピード感溢れる走り出し、先述の「VISION」や「かなしいうれしい」、須田景凪のパートを康司が歌った「ANSWER」を経て、「Wanderlust」の幻想的な音像で世界を駆け巡った。メンバーの姿を覆うほどの勢いでスモークが噴出する「うわさのケムリの女の子」は演出含めて観客も楽しみにしている印象があるが、続く「ラベンダ」では、変則的なキメをタイトに鳴らすバンドのテクニカルな演奏、ラベンダーの香りが漂う演出で驚きと感動をもたらした。そしてクライマックスに向けて放たれる「YONA YONA DANCE」の痛快さたるや。

 コンセプトなどはあえて打ち立てず、前作リリース以降の日々で形になった楽曲を記録するように収めるという作り方からして、フレデリックのフルアルバムはドキュメンタリー性の高い作品になりやすい。2019年~2022年という激動の3年間を記録した『フレデリズム3』は、リモートレコーディングという新たな選択肢の獲得による表現の幅の広がりを感じさせる作品であった一方、時代の混乱とともに改めて確かめた“音楽は人ありきだ”という想いも刻まれていた。“フレデリックがこの時代をどう生きてきたのか”を語るアルバムをライブで改めて鳴らす行為は、高橋がMCで言っていた通り、今の時代を生きて、今の時代の音楽を鳴らしているフレデリックを、よりオリジナルたらしめるものであるといえよう。

 アルバム収録曲のうち、「YOU RAY」と「サイカ」はフレデリックのライブでは初めてのスタイルで披露された。康司がメインボーカルをとる「YOU RAY」は、赤頭、高橋も交えた3人編成で披露。温かくも切なさの滲む康司の歌声を素直に聴かせるような、ゆったりとしたテンポのアコースティックアレンジで届けられた。そして「サイカ」は健司が一人弾き語りで歌う。自分を奮い立たせようとも孤独感がふと顔を出す夜の感情の移り変わり、しかしそれでも前を向こうとする人の美しさを表現する歌唱が心に残った。また、「YOU RAY」の演奏前には康司が「フレデリックは変なバンドだなって、曲を書いている自分でも思うんです。でもその個性や歪さを愛してもらえたからこそ、今日アリーナでライブができるんだなと思います」と語り、「サイカ」の演奏前には健司が、かつては自分の喋り声がコンプレックスだったと振り返り、メンバー3人がそれぞれのやり方で“健司の声が必要だ”と伝えてくれるから“この声で一生やっていこう”と思えているのだと語った。

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