V系シーン特有の暴れ方、ヘドバンの楽しさ 現役バンギャが考える「満身創痍でやる理由」

現役バンギャが考えるヘドバンの楽しさ

 3月10日の『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)で、「ライブハウスで満身創痍!?バンギャはつらいよ」と題したバンギャ(ヴィジュアル系バンドのファンの呼称)の暴れ方にフィーチャーした回が放送された。番組には、ヴィジュアル系バンドのライブへ通うバンギャが複数名登場し、MCのタモリとゲストの三四郎に、ヘッドバンギング(以下、ヘドバン)をはじめとしたライブでの暴れ方をレクチャー。番組は大いに盛り上がり、放送後は“バンギャ”がTwitterのトレンドにランクインした。

 今回テレビ番組で取り上げられたように、ヘドバンする姿は注目を集めやすい。YouTubeやTikTokなどSNSでの発信に積極的な、0.1gの誤算のボーカル・緑川裕宇も、2021年のインタビューで「お客さんのヘドバン動画はバズりやすい」(※1)と話していた。激しく髪を振り乱す絵面のインパクトが強いからなのか、傍から見る分には面白がられやすい。

 その一方で、ヘドバンする楽しさはなかなか理解されにくい。実際、ヴィジュアル系バンドのライブへよく行く筆者は、周囲から「ヴィジュアル系のライブではなぜみんなヘドバンするのか?」と質問されたことが何度かあり、「楽しいから」と答えてみたものの、「ステージが見えないのでは?」「首が痛くなるのでは?」とあまり納得いっていない反応が返ってくることがほとんどだ。

 ヴィジュアル系のライブでは、ヘドバン以外にも手扇子(両手を差し伸べる、もしくは開いたり閉じたりする動き)や横モッシュ(観客が一斉に上手や下手に移動する動き)など、シーン特有のノリ方がいくつかあるが、時の流れとともに動きが少しずつ変化したり、そのノリ方自体が自然とフロアから消えたりと、時代やバンドの規模によって異なる。その中でも、ヘドバンは長い間不動の地位を築いているノリ方で、筆者が最近観たライブで言えば、LUNA SEAのさいたまスーパーアリーナ公演から、HOLIDAY SHINJUKU(収容人数約450人のライブハウス)で開催された若手バンドの対バンイベントまで、ヴィジュアル系バンドが出演するライブでは、年代や規模を問わずほとんどの会場でヘドバンを行う観客がいた。

 「音楽に合わせて頭を振る感覚が楽しい」「盛り上がっている輪の中に入るのが楽しい」など、ヘドバンという行為そのものの魅力もあるが、実は「どんなバンドでもどんな曲でも、ヘドバンできるタイミングなら全部する」という人はほぼいないだろう。実際、複数バンドが出演するイベントでは、目当てのバンドや気に入ったバンドでしかヘドバンしない人が多数を占めている。つまり、「このバンドがステージにいるから」「この曲が始まったから」、ヘドバンするのだ。

 番組でも「ヘドバンをサボっているとメンバーに怒られる」という話題が出ていたが、ヴィジュアル系バンドのライブでは、主にボーカリストから「首を置いてけ」「頭ふっとばせ」などと強い口調で煽られながらヘドバンすることが多く、中にはヘドバンすることでバンドのコンセプトをダイレクトに体感できるパターンもある。たとえば、“独裁者”を自称し、ボーカルのyo-kaを“マスター”、ファンを”愚民”と呼ぶ、DIAURAの定番曲「MASTER」で、マスターに煽られながらヘドバンする愚民の姿は、まさにバンドへの忠誠を誓うファンのスタンスがそのまま表れている。“スウィート・ヴァイオレンス・ロック”をテーマとした甘い暴力は、ヘドバンするファンに対し「そんなヘドバンしかできないならバンギャやめちまえ!」と煽ったかと思えば、「やればできるな」と褒めたり、彼らのライブの特徴である飴と鞭を体感させるためのツールとしてヘドバンを活用しているように見える。

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