lyrical schoolがアイドルシーンに与えた衝撃 男性メンバー含む新体制での活動に寄せられる期待
lyrical school(以下、リリスク)がドラスティックに生まれ変わった。2022年7月にminanを除く全メンバーが卒業し、新体制でのリスタートを見据えたメンバー募集および選考を行ってきたリリスクだったが、今年2月12日に東京・Spotify O-WESTで開催されたワンマンライブ『lyrical school one man live 2023 NEW WORLD』にて、ついに新メンバー7名をお披露目。このうち3名が男性メンバーとなっており、tengal6として2010年に前身グループが結成されて以来、一貫して女性グループとして活動し続けてきたリリスクの歴史に大きな転換点がもたらされることとなった。このことは果たして何を意味し、何をもたらすのだろうか。
まず最初に、これまでのリリスクが果たしてきた役割について考えてみよう。周知の通り、リリスクは“女性アイドルグループ”という立場を明確に自認・表明してきたグループだ。女性アイドルという枠組みの中に意識的に身を投じ、そのシーンの中でどう戦うべきかを試行錯誤してきた歴史がある。
アイドルの音楽ーー特に女性アイドルの音楽には、時に既存の音楽シーンのオルタナティブとして機能する側面がある。一般的にアイドルファンはアイドル当人のビジュアルやキャラクターなどを愛好することが多く、例外はもちろんあるが、音楽を軸に愛好するわけではないという人も少なくなかった。それは裏を返せば「彼女たちの歌う音楽であればどんなものでも受け入れる」という姿勢に直結しており、アイドル側がどんなにマニアックな音楽性の楽曲を投入しようとも、文句ひとつ言わずに面白がれてしまう度量の大きさがアイドルファンには備わっているのだ。
つまりアイドルシーンには多種多様な音楽がすんなり受け入れられる土壌があるため、自分のやりたい音楽に挑戦するべく優秀な音楽クリエイターたちが喜び勇んで参入するようなケースが2010年前後から少しずつ増え始めた。
リリスクの前身であるtengal6が結成された2010年代はまさに「アイドル戦国時代」と呼ばれ、限定された音楽性に特化することで独自の存在感を放つグループも少なくなかった。アシッドジャズやAOR由来のダンスミュージックに特化した東京女子流、スウェディッシュポップなどの洒脱な北欧ポップスをコンセプトに掲げたバニラビーンズ、ポストロック/エレクトロニカをアイドルシーンに持ち込んで聴衆の度肝を抜いたsora tob sakanaなど、彼女らは高度かつマニアックな音楽性と無垢な少女的ボーカルの共存によって独特の魅力を提示した点で共通するが、リリスクがそのヒップホップ版であったと定義しても特に問題はないだろう。
発足当初のメンバー募集要項に「ポップなヒップホップのトラックに、ヘタウマな女の子のラップが乗ることによって、あどけないかわいさが生まれればと思っています」との記述があったという逸話がよく知られているが、この一文からも明確にその方向性を打ち出そうとしていたことがうかがえる。実際、tengal6として2012年にリリースしたアルバム『CITY』は、tofubeatsがプロデュースしたシングル曲「プチャヘンザ!」に代表されるような“ハイクオリティなトラックと拙いラップが織りなす違和感の気持ちよさ”を前面に押し出した作品であった。
ややぎこちないフロウや、決まった音を言われた通りに出すので精一杯といった風情のフックパートなどがいかにも初々しく、決して完成度が高いとは言えないものの、とにかく明るく元気でかわいらしいラップが楽しめる意欲作。「アイドルに求めるべきラップとはこういうものだ」と断言するファンも今なお少なくないのではないだろうか。この方向性は、同年にグループ名をlyrical schoolと改めて以降も引き続き追求されていくことになる。