クボタカイ、繊細な歌詞と魔法のボーカルから生まれるオリジナリティ ワンマン『ロマンスを持ち寄って』を満たした親密さ

クボタカイ『ロマンスを持ち寄って』レポ

 クボタカイは歌詞とは裏アカに書くような、自分の正体を知られたくない本音の吐露だという意味の発言をしてきた。怒りも悲しみも嫉妬も恋に落ちる瞬間もそこには含まれるだろう。だからこそ彼は、3月3日渋谷WWWにて開催した今回のワンマンライブを『ロマンスを持ち寄って』と銘打ったのではないか。そういう意味ではクボタらしいライブだが、今回は新曲の中に人と継続していく関係性に前向きな側面を見た。全編を観終えて、この稀代のリリシストかつシンガーソングライターの繊細で鋭い表現に加え、人に伝えていこうとする際の温度感が拡張しつつあることを実感したのだ。

クボタカイ
クボタカイ

 オープニングは映画のようなSEの演出。電話の呼び出し音のあと、恐らく別れた彼女なのだろう。突然の呼び出しには応じられないらしい。そこからの「ロマンスでした」は終わってしまった恋が愛に変わる心情をさらに色濃く届ける。音数を絞りながら、絶妙なグルーヴを醸すバンドメンバー、村田シゲ(Ba/口ロロ)、木下哲(Gt/礼賛)、GOTO(Dr/DULLJUB STEP CLUB、礼賛)、ジョー(Key)との息もぴったりだ。時間軸を巻き戻すようにハイティーンから20代前半の恋を想起させる「Youth Love」や「ベッドタイムキャンディー2号」をセットしていく流れが、切なさやリアリティを加速させる。若くて身勝手な恋の情景と感情を描くフォークソング的な赤裸々さとR&B/ヒップホップのフロウが同居するクボタのオリジナリティが刺さる。

 話し声のような低めのボーカルが冴えるアカペラ始まりの「Wakakusa Night.」、気だるい季節感がちょうど今の時期に重なる超スローなネオソウルナンバー「春に微熱」、「エックスフレンド」と、このバンドメンバーだからこそ成立する絶妙な間。クボタの張らないボーカルが音源での親密さを保ったままライブで成立する最大の理由でもある。フリースタイルをかます「拝啓(Freestyle)」ではGOTOのドラムとラップでビートのバトルに挑む場面も。ユルく乗れるBPMを保ちながら、ラップからガラッと変わる甘い声質の「Sunset City」へ。コンシーラーやハイライト、純喫茶のオーダーといった彼女との記憶の断片がメロディに乗ってフラッシュバックするようで、悔しいほどうまいなあ、と心の中で呟いてしまった。

 音源からガラリとアレンジを変え、フォーキーにアコギで聴かせた「アフターパーティー」が、クリープハイプの影響を原型のスタイルに近い形で表現した「せいかつ」につながっていく流れも秀逸だ。恋愛初期の想いがだんだん褪せていくことと同時に、歌を作り出す人間の初期衝動や性(さが)を止めることもできないという正直さに心拍が上がる。

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