クボタカイ、繊細な歌詞と魔法のボーカルから生まれるオリジナリティ ワンマン『ロマンスを持ち寄って』を満たした親密さ
「有観客どころか“有声”ライブができることに“グフフ”ってなってます」と、彼流の嬉しさを表明したあとは「悔しいけど後半戦です」と、手応えを感じさせる発言も。グッと低音の圧が上がり、ボリュームも上がった「MIDNIGHT DANCING」でのスキルフルなラップはもっと広いステージがイメージできたし、クボタカイの構造を知ることができる「ひらめき」ではものを作り続けるアーティストの逡巡を随所に見出しながら、Sly & the Family Stoneばりのファンクネスとラウドロック並のダイナミズムにも飲み込まれていく。さらに生活感と日本的なメロディをファンクに乗せる初期からの人気曲「TWICE」では〈TWICE in boys TWICE in girl〉のシンガロングが起き、それまでじわじわ熱を高めていたフロアの盛り上がりがさらに開放された。そして短編小説を思わせる「博多駅は雨」で壁面やフロアに水玉状の照明が映し出される演出も相まって、ライブハウスにいながらにして、様々な季節や時間の経過を疑似体験できたのだ。
終盤には映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』主題歌として書き下ろした新曲「隣」を初披露。堂々としたハチロクのリズムに乗せて〈会いに来てよ〉と歌い、もちろん映画の物語を意識した部分も想像できるが、これまでの終わってしまった恋、今まで一緒にいた人の不在を描いていたクボタが一歩踏み出したことはうっすら感じ取れたのだ。早く歌詞を読みながら音源として聴きたい。そんな新たなフェーズの次に彼のフォークシンガー然としたスタンスを窺わせる「僕が死んでしまっても」が地声で淡々と畳み掛けられ、バンドアンサンブルも徐々に轟音に変化していくエンディングも、曲の持つ意味合いにゾッとするほどハマっていた。
そして本編ラストは「ピアス」。心の傷や穴を埋めるために体に傷や穴を開けてしまう、もしくはオシャレとはまた違う意味で派手な髪色にすることなんかも含まれているのだと思う。生きている実感を欲することを素直に認めるこの曲はほんのり明るさも見えるポップチューンなところがむしろ心に刺さる。ハンドクラップを促し、角のないボーカルで、あからさまではないがオーディエンスを包み込んでいた。
アンコールも含め、90分強の時間の中でここにいる人の数だけ、ロマンスを持ち寄って、隠せない感情を開放させたクボタカイ。彼の“魔法のキー”は特定のジャンルに収まりきらないし、そもそも収まる必要はなかった。これから不特定多数の人の隠されたどんな感情を開けていくのか、彼の興味の方向が楽しみでならない。
花譜、LEX、chilldspot……多彩なアウトプットで躍進する10代アーティストたち
ハイスピードで移り変わるシーンに順応するのみならず、新たな地平を切り開くのはやはりいつも若い世代が中心だ。本稿では様々なジャンル…
さなり、新たな扉を開いて成長し続ける17歳のドキュメント 力強く言葉届けたLIQUIDROOMワンマン公演レポート
“18歳を迎える年の春”と聞いたら、何を思い浮かべるだろうか。高校卒業、大学進学や就職。その年齢は、人生の岐路のひとつと言っても…