ザ・キッド・ラロイ、時代と共振するジャンルレスな表現性 来日決定&アルバムも間近な“着飾らないスター”の新境地

ザ・キッド・ラロイ、時代と共振する表現

 「この数年で、最も日本でヒットした洋楽は?」という問いがあったとして、きっと多くの人々が「STAY」の名を挙げることだろう。2021年にザ・キッド・ラロイがジャスティン・ビーバーとタッグを組んでリリースした同楽曲は全米シングルチャートで通算7週1位という大ヒットを記録するだけではなく、洋楽のメガヒット曲自体が珍しいこの日本においても2022年1月には国内累計ストリーミング数が1億回超え、洋楽史上最速で日本レコード協会が定めるプラチナ認定作品になるという、まさにメガヒットと呼ぶに相応しい旋風を巻き起こしたのだから。その背景には、ジャスティン・ビーバーという巨大なポップアイコンの参加もさることながら、お尻を振りながら踊るダンス動画がTikTokで絶大なバイラルヒットを記録したことも欠かすことはできない(きっと読者の中にも、動画をアップした人がいるのではないだろうか)。

The Kid LAROI, Justin Bieber - STAY (Japanese Lyric Video)

 ラロイの魅力といえば、まずはなんといっても聴くだけでどこか切ない気持ちになってしまうようなエモーショナルで美しい歌声にあるわけだが、「STAY」のTikTokでのバイラルヒットが象徴するように、彼は常にその時代の空気やカルチャーと共振するような存在として支持を集めてきたアーティストである。1月28日よりゲーム『フォートナイト』上で開催されたバーチャルコンサート『The Kid LAROI’s Wild Dreams Island』もまた、そんなラロイの時代との共振ぶりを改めて感じさせるイベントとなっていた(4月28日午前7時までゲーム上で体験可能)。

 同ゲーム上でのバーチャルコンサートといえば、今なお当時の音楽シーンを象徴するイベントとして語られることも多いトラヴィス・スコットによる『Astronomical』(2020年)が印象に残っているという方も多いだろう。だが、トラヴィスのパフォーマンスがあくまで観客(プレイヤー)を自らの世界観の中へと誘うような内容であったのに対して、今回のラロイのパフォーマンスはゲームならではの面白さをしっかりと活かしたつくりとなっているのが最大の特徴だ。自らの自宅を再現したセットの中で家中の家具を破壊させたり、怪物を放ってプレイヤーを追いかけ回したり、音楽制作機材の操作を促したり、終盤には(実はラロイの悪い部分の象徴だった)怪物とのバトルを用意したりと、全編に渡ってプレイヤーがラロイの世界観にインタラクトしていくような内容となっているのである。

フォートナイトにThe Kid LAROI’s Wild Dreamsが登場

 そんな今回のイベントは「STAY」のバーチャルパフォーマンスで大団円を迎えるのだが、言ってしまえばその部分だけでもこの企画は完全に成立するし、仮にそうだとしても参加者の満足度は高かっただろう。だが、あくまでプレイヤーを徹底的に巻き込んで、アーティストとファンの境目を気にすることなく、みんなで一つの空間を作り上げようという姿勢、しかもそれを『フォートナイト』上でやるというのがラロイらしい。以前から『F*CK LOVE』(2020年)のアートワークや、その名も「PIKACHU」(2020年)という楽曲などで日本のアニメ・漫画・ゲームからの影響を自らの作品へと反映し、昨年には人気漫画『東京卍リベンジャーズ』とコラボしたスペシャルムービーを発表するなど、積極的に音楽以外のカルチャーを取り入れることで知られるラロイだが、そんなジャンルを問わない自由な表現のあり方もまた、多くの人々に共感を与える理由なのだろう。

『ステイ』 x 『東京リベンジャーズ』スペシャル・ムービー

 実は『The Kid LAROI’s Wild Dreams Island』で使用されていた楽曲は5曲中3曲が(当時の)未発表曲であり、これはいよいよ待望のデビューアルバムのリリースが近いことを示唆している。それを示すように、1月27日には「Love Again」、さらに『The Kid LAROI’s Wild Dreams Island』でも披露された「Kids Are Growing Up (Part 1)」「I Guess It’s Love?」と相次いで新曲が公開されている。アルバムのタイトル自体は以前から『The First Time』になるとアナウンスされているが、2月11日には自身のTwitterにて「アルバムにもう少し曲を追加しようと思ってるんだ」(筆者訳/※1)と投稿しており、記念すべきデビューアルバムをしっかり納得のいくものにしようと試行錯誤を続けている最中なのだろう。

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