嵐ら手がける梨本威温、ハイブリッドな感覚から生まれる親しみやすい振付 ダンスの重要性に変化も

嵐ら手がける振付師 梨本威温インタビュー

振りをつけるときに考えるのはアーティストや曲のパーソナリティ

――独立された前後から嵐やチームしゃちほこ(現・TEAM SHACHI)の振付を皮切りに、様々なお仕事をされていますね。アイドルやアーティストの振付をされる時にどういうことを意識されていますか?

梨本:最初にまず、仕事する前に抱いていた印象は付き合っていくとだいたい良い方に変わっていくので、最初にどう思って見ていたかを忘れてしまわないようにメモリーします。そこから振付するアーティストのあらゆる情報を集めるんです。振りを作る前に、この曲を歌うこの子たちはどういうパーソナリティの持ち主なんだろう? というところからスタートして……例えばすごく人懐っこい性格の人が振りの中で“目線を外す”のと、元々人見知りな人が“目線を外す”のでは、同じ振付でも受け取る印象が全く異なりますよね。なので誰がどういう動きをするとダンス的に見えるか、あるいはパーソナリティが見えるのかをかなり考えます。当然楽曲も聴きながらなんですけど、人懐っこい人がジェスチャーの延長のような振り付けで動いたほうが映えるのか、それとも真っ直ぐにダンスとして見えたほうが映えるのか? みたいなことを考えながら作っていくことが多いです。そして仕上げに出会う前のメモリーを呼び起こして、今回の振付が昔の自分から見てどう見えるかを擦り合わせて調整します。

――たくさんの曲を振付されている中で、嵐の「GUTS!」は共同振付(HIDALIのTSUTOと共作)だそうですが、応援団風の動きや野球を表現した動きなど、1回見たら忘れられない振りですね。

梨本:あれは野球をテーマにしたドラマ(『弱くても勝てます ~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』)の主題歌だったので、野球をイメージさせる動きを入れたというのも当然あるんです。ただ、ドラマを知らない人にこの曲をどう受け止めてほしいかと考えた結果、何かの動作が始まる瞬間を切り出して振付に盛り込んでいこうと考えたんですよ。なのであの曲の2番には野球ではなく、陸上のスタートとか別の競技も入れているんです。そういう風に、振りを付ける時にはアーティストのパーソナリティと、曲に与えるパーソナリティ……その曲に後々残っていくであろうイメージの付け方みたいなものを、いつも考えながらやっているような気がします。だから自分らしさを振付に入れていくというよりも、その楽曲について「なんだっけ、こういう振りの曲」みたいに動作で思い出してもらえたら嬉しいなと当時よく考えていました。

――あと、構成にすごく遊び心を感じるんですよ。嵐に至っては5人でできる構成をやり尽くしたぐらいの勢いじゃないかと……。

梨本:いや、まだまだ引き出し、ありますよ(笑)? それは単純に、僕の好みですね。「この後にこういうふうに出てきたら面白いだろう」とよく考えますし、それが僕の仕事にも特徴として出ているのかなと思います。

――曲が始まる時のポージングにインパクトのあるものが多いことや、曲中に絶え間なくダンスがあるわけではなくメンバーのたたずまいを見せる部分が多い点など、ダンスというよりも演劇的な手法だなと思ったことがあります。キャリアを重ねた大人のグループの嵐や、元気があってとびきり明るいTEAM SHACHIなど、そのアーティストのキャラクター性によっても違うのでしょうが。

梨本:ダンスと振付は、僕の中で別々の表現と捉えているんです。振付をする時の選択肢としてダンスもあればアクティングやオブジェクト(景色の一部として気配を変える)にすることもある。だから無数ある身体表現のパターンが時にダンス的な表現じゃなくても、振り付けに組み込むこと自体に躊躇することはありません。僕の場合は“こういう画を作りたいから、こういう流れにしよう”と短い振付のシーケンスをいくつも作ってから意味が通るように繋ぎ合わせていくので、確かに芝居的なのかもしれないです。こういうシーンにしたいからここはこれぐらいのダンス感にして、ここは踊っているというよりも表情が見えている方が音に合っているから、ダンスっぽくならないように付けよう、みたいなことは考えていますね。だから振付イコールダンスとはあまり捉えてない部分もあるかもしれません。

――梨本さんは小野寺修二さん(演劇作品の演出、振付などで有名)の影響も受けていると聞いたのですが、ダンスと演劇の狭間のような魅力を持つ現在の振付の作り方のヒントになっている部分があるのでしょうか?

梨本:考え方や作り方、たくさんの影響を受けました。例えば小野寺さんがコーヒーを飲むルーティーンの振りを付けるとして、コーヒーを飲むというだけでこんなに豊かな身体表現を作れるんだ!? みたいな部分に、やっぱり感銘を受けましたね。言葉を発さずとも、登場人物の2人が険悪な関係なのか、親密な関係なのか、表情やセリフではなく体の距離感や向きで状況を伝えるといった手法がすごく巧みで、マイムがこれだけいろんな表現に浸透できるものだと知ったのは、僕のダンス人生においてショッキングな出来事でした。

――そういうエッセンスが入ってくることで、ダンス一筋でやってきた方とはおのずと振付が違ってくるのかなと思いました。

梨本:これも一概には言えないですが、ダンスボーカルグループの振付をしている方は、基本的にはストリートダンスやジャズダンスなどの音楽の拍子に沿わせて世界観を構築するダンスをやってきた方々が多いんですよ。逆に演劇界には、コンテンポラリーダンスやマイムなどのように状態を表す身体表現を得意とする方がたくさんいます。そういう意味で僕はどっちつかずにフラフラと寄り道した結果、よく言えば振付師としてはハイブリッドな感じで育ってきたのかもと思います。

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