嵐ら手がける梨本威温、ハイブリッドな感覚から生まれる親しみやすい振付 ダンスの重要性に変化も

嵐ら手がける振付師 梨本威温インタビュー

「真似されるような振り」から「とにかくかっこよく」に

――アーティストやアイドルの振付のほかに、例えば2021年の東京パラリンピックの開会式、閉会式やファッションブランドのショーなど、これまでいろいろなお仕事をされてきたと思うのですが、印象に残っている作品というと?

梨本:本当にたくさんあるんですが、振付師を生業としてやっていくとなったときの一つの目標が子どもたちが将来覚えているような作品を作りたいということだったんです。もちろんたくさんの人に見てほしいというのはありつつ、小学生がふざけて真似するような動きを作れたら最高に嬉しいなと思っていて。そういう意味ではさっき話に出た「GUTS!」は、嵐の力でそういった子どもたちにも親しまれるような振付になったんじゃないかと思います。あとはNHK Eテレの『デザイン あ』が大好きで。やっぱりちっちゃい子が見てくれたりするコンテンツの振付はやっていて楽しくて、またぜひやりたいなと思うし、自分から見ても自分らしく作れたなと思うんです。そういう意味で自分の中で特別な作品になっているかもしれないです。

――楽曲単位や番組以外で、ライブの振付にもかなりの本数で関わって来られたと思うのですが、個人的に嵐の『THE DIGITALIAN』ツアー(2014年)などはオープニングの振付の近未来感を含めて、日本のライブエンタメの中でもエポックメイキング的な作品だったと思うんですよ。大がかりなツアーに関わられたのはあれが最初ですか?

梨本:そうですね。通常、振付師の仕事といえば曲にダンスの振りをつけることがメインなのですが、嵐のライブの場合は、演出の(松本)潤くんをサポートする形で、本人たちの動きや音楽、映像、照明、特効などの兼ね合いを見ながら、お客さんの目線をどう誘導していくかというところまでを振付にも求められたので、すごく鍛えられました。あのツアーにはテクニカル班も含め大勢のスタッフがいたので、アーティスト本人たちはもちろん、ダンス、映像や照明、その他のテクニカルとのバランスの取り方を一から潤くんに教えてもらったことで、ライブにおける振付師像を勘違いしたという意味でも、思い出深い第一歩だったと思います(笑)。他の現場ではそこは演出家の仕事に含まれるので、数年前までは嵐以外の現場で僕から映像チームのディレクターや照明チームに細かく発注すると、ウザがられることがよくありました(笑)。

――最近だと『ドリカムディスコ』(注:DREAMS COME TRUEの楽曲で踊るイベントでスペシャルホストを中村正人が務める)のショーディレクターなども担当されていましたね。

梨本:あれも普段からやっている作り方なのですが、ドリカムの音楽が誰にどんな場面で親しまれているのかをリサーチして行く中で、運転中にラジオから聞こえてくるドリカムって素敵だよなぁというところから「ラジオの公開収録」のような雰囲気を目指して提案していきました。振り付けをしていないのですが、ステージを作っていく過程は振付をする時と全く同じです。ドリカムは今まさにライブリハ(12月現在)をやっているんですけど、また違う物事の組み立て方があって、現場の数、アーティストの数だけやり方と導き方があるのが面白いですよね。

――他にも、ディレクターとして関わられている『+81 DANCE STUDIO』もすごく楽しくてユニークな試みだと思います。

SMAP - SHAKE ft. Choreographers / Performed by Travis Japan [+81 DANCE STUDIO]

梨本:チャンネルのコンセプトや各楽曲の表現方法をディレクションしているのですが、ジャニーズには配信されていない過去の曲がたくさんあるんですね。ポップスは機材やアレンジ、歌詞やダンスもリリース当時の旬を目指す傾向が強いので、やっぱり時間が経つと今の潮目とは違っていくものなんです。そんな楽曲をセルフリバイバルするような試みができないかと相談されて、オリジナルの名曲を演者や振付を変えて新たな見せ方をするというのがプロジェクトとしてすごく面白いなと思ったんですよ。「今の時代にこの曲が出たとして、果たしてTravis Japanならどういうダンスの文法で表すんだろう?」と考えていくのが楽しいし、Travis Japan世代にはスペシャルなダンサーがたくさんいるので、今までの経歴や経験値とかに縛られないでそういう人がどんどん出て来られる現場になったらいいなとも思って誘っている感じです。

――このプロジェクトに例えばKing & Princeの髙橋海人さんが振付で参加されていたり、現在はアイドル、アーティストの方が振付をすることも増えてきていると思うんですが、それについてはどう見られていますか?

梨本:いろんな方々の作品を網羅して見ているわけではないので何とも言えないというのが正直なところですが、ただアーティストが自身で振付をするのは、特段変わったことではないと思うんです。ストリートダンスの文脈で来た人は振りの中にストリートダンス的な発想でどうやって世界観を作るかを考えるじゃないですか。歌っている人が作れば、ここは歌いやすいように体が弾まないようにするとか、専業の振付師やダンサーが付けるものとは違った歌い手に特化したパフォーマンスに仕上がっていくものなんじゃないかと思います。

――最近はTravis Japanがロサンゼルスにダンス留学したり、K-POPの文脈からJO1やINIのようなグループが出てきたりと世界を意識したグループが増えてきて、ダンスのテクニカル面でのアベレージも上がってきている印象があります。音楽シーンでのダンスの重要性もより高まってきていると思うのですが、その辺りをどう見ていらっしゃいますか?

梨本:さっきも言ったように、語れるほど色々なグループを普段見聞きしてるわけではないのですが、一つ言えるのは、90年代なら“踊れる”ということ自体がバク転できるのと同じくらい凄いことだったはずです。でもこれだけダンスが普及すると、ダンスに対するお客さんの目が肥えてきて、ダンスをやっていない人でも上手い下手がある程度わかってしまう。その上でパフォーマンスを軸にしているアーティストやアイドルが振付やキレだけで注目されていくことはたぶんもう限界があって、振付の真新しい質感を表現できるだけのダンススキルを持った子たちが、これからのパフォーマンスを牽引していくんだろうなと思っています。これは歌にも同じことがいえると思うんですけど、すでに目が肥えているお客さんに対して、いかに変わった振付で勝負するかではなく、「見たことある動きなんだけど、こんなクオリティでこれをやるの?」みたいな質のエグさみたいなものが、ますます重要視されていくんだろうなと。

――“みんなが真似できる○○ダンス”的なものではなくて。

梨本:「真似されるような振りを作ってください」ではなく「とにかくかっこよくしてください」という依頼に戻ってきているんじゃないかと思っています。僕が中学時代にダンスを始めた時と同様にかっこよければ自然と真似されるというのが僕自身の体感としてもありますし。おそらく世界を意識して活動していくようなグループのメンバーたちも、ここからは目の肥えたお客さんに自分たちのパフォーマンスの成熟度を見られるようになると感じているんじゃないですかね。これまでの日本の“応援しながら成長を見守る”という文化はちゃんと「成長」するのであれば……そのまま残っていくと思いますが、一方では最初からクオリティの高いパフォーマンスをする子たちが時間と共に「進化」していくのを応援するのが世界共通のエンタメの感覚だと思います。

――なるほど。話は変わりますが人気のハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』の振付も担当されていますね。音楽ものと演劇の振付の違いで意識されていることはありますか。

梨本:お芝居の振付の時はシーンを説明するための動きを付けるんです。なので、例えばその前のシーンで困難の壁に直面して、音楽に合わせて振り払うように走っているシーンの振付をしてくださいと言われたら、きっと走っていることが一番の前提で「走っていることと、この状況をリンクさせるような動きってなんだろう?」と考えながら作っていくので、ダンスを作るというよりは、動きを作るという感じです。また手法の違いで言うと、動作が音楽の美味しいところにだけ合っていれば、後は音楽の拍子をあえて無視することで芝居がより見えてくるという特徴もあります。アーティストの振付はほぼほぼダンスの中にシーンを作るんですけど、芝居の振付の場合はダンスを作るという考え方は一切なく、シーンを説明するための動きを作るという風に考えています。この演劇的な振付の手法を、アーティストの楽曲振付でやるということもありますし、その逆も然りです。

――今後やってみたい振付のお仕事はありますか?

梨本:ずっと映画の振付をやってみたかったんですよ。やっぱり僕は自分が踊るというより振付で「〜のように見せる」ということが好きなので、喋っていないのに、もしくは顔では演じていないのに、そのシチュエーションをどう動きで伝えるかみたいなことを長尺でやってみたいと思っています。

■梨本威温
2013年に振付師を中心としたクリエイティブカンパニー 左 HIDALI を設立。広告、 アーティストなどの振付を手がける一方で、定期的に左 HIDALI 名義での自主制作作品を発表。 2016年に独立しフリーランスとして活動を開始。以降は特定のアーティストの振付を 通年で担当し、ライブ構成からMV、TV、CMなどの振付を包括して手がける。

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