ミセカイ、一枚絵を曲にする新たな創作スタイル 今の時代にフィットしたイラストと音楽の強固な相関関係

ミセカイ、新たな音楽の創作スタイル

 2022年7月22日に新たな男女混声ユニットが誕生した。普段はピアノ調律師であり、ソロ活動のほか、雨と嵐と。でボーカル、作詞・作曲・編曲を手がけるアマアラシと、YouTubeなどインターネットシーンで弾き語りカバー動画の投稿や、古川本舗、澤田空海理、kobasolo楽曲へのゲストボーカルなどの活動を通して、儚くも芯が強い歌声で知られる千鎖から成る“ミセカイ”だ。

 今、音楽の魅力を伝える上で、イラストと音楽は密接不可分な存在になっている。ネットミュージックを代表するボカロシーンを発祥として、実写MVが大部分を占めていたバンドシーンですら、イラストを使ったMVが投稿されるようになった。例えば、ボカロ曲としてYouTubeにおける1億回再生を達成したボカロP・Chinozoの楽曲「グッバイ宣言」と聞いて頭の中で思い描くのはイラストレーター・アルセチカによるフィンガーダンスをするひとりの少女の一枚絵だろう。

 音楽はほかのアートとの相互作用のもとで想像の域を超えた魅力を解き放つことができる。そして、今の時代の音楽の在り方にフィットしつつ、さらにイラストと音楽の相関関係を強固にした楽曲を紡ぐことを可能としたのが、このミセカイなのだ。

ビジュアルに導かれてストーリー/楽曲が生まれる新たな創作スタイル

 ミセカイは、イラストレーターなどが公開している数多くの作品から厳選した一枚絵のビジュアルをもとに、楽曲を生み出すユニットである。アーティスト自身の生き様や理想などを歌詞に込める形ではなく、ミセカイの選んだ一枚絵がミセカイの世界観を確立させていくところがほかのアーティストの作品とは大きく異なる点だ。彼らはビジュアルから読み取れるストーリーやイメージを膨らませて楽曲を制作するのである。そうして、最終的に選ばれた一枚絵は映像化されてMVが完成する。

「アオイハル」
「アオイハル」

 9月22日に配信リリースされた1stシングル「アオイハル」のもとになった一枚絵は、男女の青春をリアルに描写するイラストレーター・まかろんKによる作品。停止する自動車のヘッドライトを前に涙する女性の手を男性が引っ張り横断歩道を渡るシーンが描かれている。誰かに恋をして涙する〈あなた〉の手を引く〈僕〉が〈あなた〉に恋をしている、といった切ない男女の関係性のなかに、〈ヘッドライトで照らされた 魔法の側(なか)で 願うだけ〉と小さな希望を見出す男性の心情が綴られている。ピアノサウンドから徐々にストリングスアレンジへと展開される壮大なラブバラードだ。

【ミセカイ】「アオイハル / Aoiharu」MV
「104Hz」
「104Hz」

 11月24日に配信リリースされた2ndシングル「104Hz」のもとになった一枚絵は、奥行きのある広大無辺な風景へと心が一瞬で連れていかれそうになるほどの神秘的な絵を描くイラストレーター・choocoによる作品。通学鞄を持ち下を向き歩く少女の上に広がる海のような青空を孤独な鯨が泳いでいるイラストだ。アンビエントミュージックが流れるなかで、〈この世で一番孤独な鯨〉をテーマに、〈雲を泳いだ 孤独も希望だ 聴こえなくとも誰かを想い鳴いている〉と孤独な鯨の生涯をモチーフにしつつ、聴き手に勇気を与えるような内容にもなっている。

 アマアラシと千鎖の歌声のハーモニーの美しさは一枚絵の醍醐味を引き立てる上で欠かせない重要なポイントだ。「104Hz」では、サビで主旋律を歌うアマアラシの大自然のなかで映える魂の歌声、コーラスを担当する千鎖の情緒的かつ幾重にも重なる歌声が、どこまでも続くイラストの世界に寄り添うように、楽曲の世界をより幻想的なものへと広げている。まるでイラストの広大さを生かすように二人が壮麗な歌声を奏でているようであり、あるいは二人の透明感溢れる歌声を生かすためにこの広大なイラストが選ばれたようでもある。ビジュアルと音楽の支え、支えられる関係が誰も知り得なかった未知の領域を作っていく。

【ミセカイ】「104Hz」MV

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「アーティスト分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる