2023年のボカロシーンは新世代への移行期に? ファン層の二極化、ヒットメーカーの入れ替わりなど現状を整理

 ニコニコ動画発祥のアンダーグラウンドカルチャーから、今や国民的アーティストを輩出する一大音楽ジャンルへと広がったVOCALOIDシーン。2022年もこれまでのように人気P、大御所Pの活躍や、新たに才能を芽吹かせたニューカマーたち、そしてアプリゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』や『The VOCALOID Collection』、『初音ミク 「マジカルミライ」』などのクロスメディア展開も相まって、ボーカロイドの世界は賑わいを見せた一年となった。

 とはいえ過去のシーンの潮流を見ての通り、VOCALOIDには浮き沈みのある歴史を辿ってきた一面も存在する。2022年の様々な出来事を経て、2023年のボカロシーンはどこへ向かうのか。昨年シーンを賑わせたニュースや事象を踏まえ、2023年のムーブメント傾向を予測してみたい。

 まずひとつとして、ボカロシーン内での「ファン層・潮流の二極化」が挙げられる。現状VOCALOIDやCeVIO AIといった音声合成ソフトによる歌唱曲がシーンを盛り上げる主要素ではあるものの、ジャンルの拡大・複雑化に伴い、リスナーやファン層も文字通り一枚岩ではなくなっている。今のボカロシーンの盛り上がりを数値的側面で見た際、実は最新曲ばかりでなく往年の名曲への支持で成り立っている部分も大きい。昨年12月に始動したニコニコ動画と連携したBillboard JAPANによるランキング「ニコニコ VOCALOID SONGS TOP20」を見ればその状況はより明白だ。 2022年12月28日公開分では、TOP20を占める楽曲のうち約半数がボカロ再評価期となる2017~2021年投稿、つまり1年以上前の投稿曲となっている(※1)。このやや特異な傾向はシーン自体の歴史の浅さも一因ではあるが、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、プロセカ)や、YouTube、TikTokなどのSNSに投稿される「歌ってみた」「踊ってみた」といった楽曲を二次利用した動画を介してのみボカロ曲に触れるリスナー層の存在も大きいだろう。そうしたリスナーの中には、もしかしたらVOCALOIDの源流となるニコニコ動画自体を見たことがない人々も今では珍しくないのかもしれない。

 上記のようなカジュアルなリスナー層がいる一方で、あくまでVOCALOIDはニコニコ動画を発端とした文化であることを訴える層や、特にシーンの作り手においてはニコニコ動画に軸を置いた活動を続ける人々も多い。ニコニコ動画への楽曲投稿を芯とする『The VOCALOID Collection』の盛り上がりでジャンルの知名度は上がりつつあるものの、あくまでアングラ/サブカルチャーとしてのVOCALOIDを愛する人々の中には、原始的なボカロシーンの要素を一種の矜持として掲げるファンも少なくないように感じる。この二極化に併せ、楽曲に使用される音声合成ソフトの人気・知名度の差異も、2023年にはより顕著になるかもしれない。『プロセカ』にキャラクターとして登場する初音ミクを中心としたVOCALOIDや、再興期にスポットを浴びたv flower、音楽的同位体 可不(KAFU)までがおそらく現状メジャー楽曲を愛好する層にも認知されているソフトの範疇だ。一転、コアなボカロシーンを愛好する層においては『The VOCALOID Collection ~2022 Autumn~』のランキング結果や反響からも窺えるように、上記に留まらない多彩なソフトを使用した楽曲への支持も目につく。2023年も当該リスナーの間では引き続き使用ソフトのラインナップはより多岐に渡り、それに伴い各ソフトへの支持や人気も分散されていくはずだ。

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