ザ・クロマニヨンズのロックンロールは思考を刺激する 最新作『MOUNTAIN BANANA』に散りばめられた“様々なヒント”
「MOUNTAIN BANANA」という言葉を聞いて、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるだろうか。筆者の場合は、ジャングルの山奥に生い茂る大量のバナナと、それを元気に食べる野性的なゴリラの姿が浮かんでくる。それは極めて本能的で、ポジティブな空気を感じることができる光景だ(だってバナナはおいしいから)。というわけで、ザ・クロマニヨンズの最新アルバムのタイトルがこの言葉であると知った時には、「最高じゃないか!」と思った。本能の赴くままに野性的なロックンロールを鳴らし、ライブをやるためにコンスタントに作品を作り続ける彼らを示すのにピッタリの言葉じゃないか。
発売日が1月18日と新年早々のタイミングであることも有り難い。ザ・クロマニヨンズのガツンと来るロックンロールは正月ボケを吹き飛ばすのにうってつけだし、あらゆる音楽のルーツに根付く彼らの音楽を大きな音で聴くことで、一人の音楽ファンとして、まるで初心を思い出すような感覚を得ることができる。何より、(個人差はあれど)色々と大変だった2022年という年を乗り越え、新たな1年に向けて気合を入れることができる。前回のライブ作品のレビュー(※1)でも書いた通り、彼らは「生きる」という行為そのものに力を与えてくれる存在であり、彼らの最新作を聴くということは今を生きること、そして今の自分自身と向き合うということに直結する。
というわけで、アルバムレビューとしては本末転倒だが、もしあなたがすでに本作を買おうと思っているのであれば、ここから先のテキストは一旦読まずに、一度作品を聴いて自分のものにしてから戻ってくることをおすすめしたい。余計な先入観を持った上でザ・クロマニヨンズの音楽を聴くというのは、なんとなく間違っている気がしてならないからだ。
様々な出来事を想起させる痛快なロック
さて、前置きはこのくらいにして本作を再生すると、のっけから力強いコーラスと疾走感に溢れた演奏が炸裂するオープニングナンバー「ランラン」が聴き手を一瞬でロックンロールの世界へと引き込んでくれる。重厚なギターストロークとともに一気に駆け抜けたり、リズム隊とギターのカッティングが絶妙に絡んだりと緩急のバランスが素晴らしく、甲本ヒロトが歌い上げる、どこか懐かしいメロディにも感情を強く刺激されるザ・クロマニヨンズらしい最高の楽曲だ。続く「暴走ジェリーロック」もストレートなロックナンバーとなっており、暑苦しいくらい激しいコーラスと共にどこまでも突き抜けていくかのような一点突破の名曲に仕上がっている。これは余談だが、〈火の玉を 発射する〉という歌詞やタイトルを見ていると、どうしても昨年の10月に惜しくも亡くなったジェリー・リー・ルイスのことを思い出してしまう。本作のトラックリストが発表されたのが昨年の9月であることを踏まえると、本楽曲は決して追悼の意を込めて作ったものではないのだろう。だが、〈天国を 突破する〉〈伝説が 発火する〉といった言葉の一つひとつが、より特別な意味を持って響いてしまう。
3曲目の「ズボン」は、初期の名曲「歩くチブ」を彷彿とさせる、世の中にある様々なものを共通のモチーフ、すなわちズボンと結びつけてしまうという、甲本ヒロトらしいユーモラスでありながらも痛快な楽曲だ。なんとなく「ズボン!」と言いたくなる語感の気持ち良さと、約2分で駆け抜けるパンキッシュな仕上がりについつい何も考えずに拳を振ってしまうが、後半で歌い上げられる“とある言葉”によってハッとさせられ、つい考え込んでしまう楽曲でもある。果たして「ズボン」とは何なのだろうか。また、〈パッパパララ〉というコーラスが楽しい「ドラゴン」では、ドラゴン花火(吹き上げ花火)で遊ぶ姿が、The Clash直系の軽快で熱いレゲエ・パンクに乗せて叙情的に描かれていく。何気ない日常の中に哲学がふっと顔を出す、真島昌利らしい名曲だ(ところで曲中で歌われる〈やまちゃん〉は、真島が所属するましまろの「ぼくと山ちゃん」の〈山ちゃん〉と同一人物だろうか)。
不思議で自由な“生き物シリーズ”は生命を称える楽曲群に
ザ・クロマニヨンズのアルバムといえば、いい意味で「いつも通り」という言葉が(本人のインタビュー含め)使われがちだが、どの作品においてもある程度の変化や違いは存在しており、それが新作を聴く楽しみでもある。その点で本作の特徴を考えるのであれば、何より「生き物率の高さ」が挙げられるだろう。これまでにも「むしむし軍歌」や「もぐらとボンゴ」など生き物をテーマにした楽曲を作ってきた彼らだが、本作における生き物率は12曲中5曲。アルバムの約半分で何かしらの生き物について歌っていることになる(ちなみに内訳としては、甲本ヒロト作が「でんでんむし」「一反木綿」「もうすぐだぞ!野犬」「キングコブラ」で、真島昌利作が「カマキリ階段部長」である)。
そんな「生き物シリーズ」の中でも、トラックリストが発表された時点でファンに特に大きな衝撃を与えたのが4曲目の「カマキリ階段部長」だ。その衝撃は楽曲においても同様で、ソリッドなロックサウンドを鳴らしながらも、カウベルも交えたどこか牧歌的な雰囲気でカマキリ階段部長の生き様が歌い上げられていく。どこか哀愁を漂わせながらも、今なお頼もしさを感じさせるカマキリ階段部長の姿が描かれていくにつれ、徐々に歌声にも力が入っていき、最後にはみんなで手を繋ぎたくなるようなエモーショナルな大団円が待っている。確実に名曲なのだが、トラックリスト公開時の最大の疑問である「カマキリ階段部長って何?」という問いについては、「カマキリ階段部長だよ」と言うほかない。
小林勝のベースラインが唸りを上げる「でんでんむし」は本作屈指のハードボイルドで激しいロックナンバーであり、裏拍を鋭く射抜き、後半ではノイジーなギターソロを響かせる真島昌利の手腕にも注目の楽曲だ。タイトルからは想像もできないだろうが、実際にそうなのだから仕方がない。ちなみにハードボイルドと言えば、「もうすぐだぞ!野犬!」も様々な意味で予想を裏切るであろうダークでソリッドなギターリフとハードな世界観に衝撃を受ける、震えるほどに格好良い仕上がりとなっているので期待していただきたい。生き物の歌だからといって、全てが牧歌的な楽曲というわけではない。それどころか、キャリア屈指の激しいロックナンバーが待ち受けているのだ。
そんな本作に収められた「生き物」系の楽曲を聴いていると、ある種の「生き物の生き方や生き様の美しさへの憧れ」を描いているように思えてくる(思えば昔からそうなのだが)。その象徴的な例は、本作で最も穏やかで自由な空気を持った「一反木綿」だろう。美しいアコースティックギターの音色と共に本楽曲で描かれるのは、〈一つ目小僧〉や〈ぬりかべ〉といった他の妖怪も出てくる中で、何にも縛られることなくふわふわと浮かぶ一反木綿の姿。それに大きな声で呼びかける甲本ヒロトの姿には、どこか憧憬の念を抱いているように感じられるのだ。Ramonesさながらの疾走感で駆け抜けるロックナンバーであると同時に、激しくもスウィートなラブソングでもある「キングコブラ」においても、その巨大さと強い毒性に対する憧れを感じることができる。そんな「生き物シリーズ」の流れの中に配置されているのが本作に先行してシングルカットされた名曲「イノチノマーチ」なのだが、たくさんの生き物たちに想いを馳せた上で改めて聴くと、当時はユーモア混じりに自分自身を鼓舞するかのように聴こえた同楽曲が、今この時を生きるもの全てを称えているかのように聴こえてくる。
これは完全に余談だが、そんな「生き物率の高さ」も相まってなのか、本作は従来の作品以上に生命の儚さや生きること自体の重みを感じる瞬間が多いように感じられる。音楽性においても、直球のロックンロールが揃った前作『SIX KICKS ROCK&ROLL』以上に激しい場面や、ダークな表情を垣間見せる場面があり、(あくまで気持ち程度だが)シリアスになった印象だ。だが、それはあくまで筆者が2022年という時期を乗り越えた今の心境を勝手に投影しているだけで、本人たちは気の向くままに楽曲を作り、いつも通りに良いと思ったものをまとめただけなのかもしれない。せっかくなので、本作を聴いた他のファンの意見についても、色々と聞いてみたいところである。