ザ・クロマニヨンズのロックンロールは思考を刺激する 最新作『MOUNTAIN BANANA』に散りばめられた“様々なヒント”

ザ・クロマニヨンズ、思考を刺激するヒント

ラスト2曲が残す強烈な余韻

桐田勝治

 とはいえ、本作が単純に「ザ・クロマニヨンズらしいストレートなロックンロールアルバム!」と一言で片づけづらい作品なのは確かであり、その印象はラスト2曲で決定的となる。

 シングルにも収録されていた11曲目の「さぼりたい」は、本作の中でも屈指の“ドープ”な楽曲だ。間をたっぷりと置いた大胆なリズムのイントロ~Aメロの流れにも驚かされるが、たっぷりとリバーブやエコーのかかったボーカルや、これまでにないほど哀愁に満ちたブルースハープとギターのソロ、絶妙なパーカッションの音色、何とも言えない余韻を残すラストのアレンジなど随所から分かる通り、真島昌利が時折見せる本気のレゲエが炸裂している。そんなどこまでも沈んでいくかのような演奏の中で繰り返されるのは、〈さぼりたい ふけたい〉という言葉なのだ。

 そんな気だるい余韻とともに迎えるラストナンバーは、「心配停止ブギウギ」というまたしても穏やかではないタイトルの楽曲。楽曲自体はタイトル通りの軽快なブギー調の仕上がりであり、タイトルの意味も〈心配するのは もうやめた〉という言葉通り、「心配するのはやめてブギウギを楽しもう!」というものだ。キャリア屈指の艶やかさを誇るであろう真島のジャジーなギターソロも、楽曲が持つ楽しげな空気をさらに盛り上げてくれる。だが、楽曲に合わせて楽しく踊りながらも、「心配しない→心配を停止→心配停止」という言葉遊びがどうしても気になって仕方がない。単なるダジャレとして笑い飛ばすこともできるし、ダジャレにしては深みがありすぎるが故に考え込むこともできる(特に、どうしても心配事が多いこの頃において、この言葉遊びの強度たるや)。だが、いつもの通り、その言葉の意味や背景を本人たちが語ることは未来永劫ないだろう。ここまでに書いてきた(書いていなくとも)様々な「引っかかり」と合わせて、各々が勝手に解釈したりしなかったりすれば良いのだ。

小林勝

 何より、そんな瞬間もまたザ・クロマニヨンズの音楽を聴くことの魅力の1つだ。本能の赴くままに笑顔でロックンロールを全身で楽しんでいるうちに、そこで見つけたある言葉や音が頭の中から離れなくなり、何かとても大事なものがその中に隠れているような気持ちになり、つい考え込んでしまう。だが、それは決して珍しいことではなく、むしろ音楽を含む「芸術」というものの楽しみ方において、極めて普遍的な行為だろう。現在知られている著名な芸術作品の多くは、作者の知名度や技術の良し悪しだけではなく、その制作背景に多くの人が共感したからというだけでもなく、多くの人々がその作品に「何か」を感じたり、それをきっかけに考え込んだからこそ、未だに愛されているのではないのか。そんな当たり前のことを彼らは改めて教えてくれるのだ。『MOUNTAIN BANANA』は、そんな「何か」を考えるヒントが(筆者個人としてはいつも以上に)たくさん詰まった作品であり、何より、そして相変わらず、ロックアルバムとして破格の強度を持った1枚である。

 また、本作を引っ提げて2月2日から開催される全国ツアーでは、そんな本作のさらなる魅力が発揮されることだろう。「ランラン」や「暴走ジェリーロック」のようなストレートで荒々しいロックンロールはもちろんのこと、「もうすぐだぞ!野犬」や「さぼりたい」のような楽曲がどのように鳴らされるのかも楽しみで仕方がない。おぉ、すでに2023年には楽しみが待っているじゃないか。今を生きるのは結構大変だが、その事実が何よりも嬉しいのだ。

※1:https://realsound.jp/2022/08/post-1111540.html

『MOUNTAIN BANANA』

■リリース情報
ザ・クロマニヨンズ
 『MOUNTAIN BANANA』
2023年1月18日(水)発売
・CD:¥2,913+税
初回仕様のみ紙ジャケット仕様
・完全生産限定アナログ盤:¥2,913+税
1960年代フリップバックE式盤を可能な限り再現。180g重量盤採用

<収録曲>
1.ランラン
2.暴走ジェリーロック
3.ズボン
4.カマキリ階段部長
5.でんでんむし
6.一反木綿
7.イノチノマーチ
8.ドラゴン
9.もうすぐだぞ! 野犬!
10.キングコブラ
11.さぼりたい
12.心配停止ブギウギ

■ツアー情報
全国ツアー『ザ・クロマニヨンズ ツアーMOUNTAIN BANANA』
2月02日(木) 東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
2月05日(日) 東京都 たましんRISURUホール(立川市市民会館)
2月12日(日) 石川県 金沢市文化ホール
2月19日(日) 愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
2月23日(木・祝) 宮崎県 都城市総合文化ホール 大ホール
2月25日(土) 佐賀県 鳥栖市民文化会館
2月26日(日) 福岡県 北九州芸術劇場 大ホール
3月04日(土) 埼玉県 狭山市市民会館 大ホール
3月05日(日) 千葉県 浦安市文化会館 大ホール
3月11日(土) 秋田県 あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
3月12日(日) 宮城県 トークネットホール仙台(仙台市民会館) 大ホール
3月18日(土) 岡山県 岡山市民会館
3月19日(日) 鳥取県 米子市公会堂
3月21日(火・祝) 広島県 東広島芸術文化ホールくらら 大ホール
3月24日(金) 京都府 ロームシアター京都 メインホール
3月26日(日) 兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
3月30日(木) 東京都 中野サンプラザ ホール
4月01日(土) 新潟県 新潟市民芸術文化会館・劇場
4月08日(土) 栃木県 栃木県教育会館
4月09日(日) 神奈川県 カルッツかわさき
4月15日(土) 香川県 レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
4月16日(日) 大阪府 大阪城音楽堂
4月23日(日) 静岡県 静岡市民文化会館 中ホール
4月29日(土・祝)北海道 カナモトホール(札幌市民ホール

ザ・クロマニヨンズ オフィシャルサイト

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