ザ・クロマニヨンズのロックンロールはなぜ“最強”なのか 最新ライブ映像が捉えた、今日を生きることを全肯定するエネルギー
ザ・クロマニヨンズについて書くのは難しい。彼らが最高のロックバンドなのは自明なのだが、それを伝えるために何か言葉を考えれば考えるほどにその本質からどんどん遠ざかっていくような気がしてしまうからだ。彼らの魅力を知るのであれば、最新のライブ映像作品となる『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』(8月24日発売)を観るのが最も手っ取り早いだろうし、この夏、彼らは多くの音楽フェスティバルに出演しているので、それを観に行ってみるというのが間違いなくベストな選択肢である。わざわざこんな言い訳を書いている理由も、そのライブを実際に観てもらえれば一発で分かるはずだ。だが、このコラムはその『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』に寄せるものであり、このテキストで初めて彼らの存在を知る人もいるかもしれない。
2022年現在、ザ・クロマニヨンズは最強のロックバンドだ。もちろん、現在進行系で偉大なバンドは存在しているし、甲本ヒロト(Vo)や真島昌利(Gt)がこれまでに組んできたバンドも最高だ。だが、少なくとも筆者個人としては、ザ・クロマニヨンズには敵わないなと思ってしまう。その理由は『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』の中にぎっしりと詰まっている。
『ザ・クロマニヨンズ ツアー SIX KICKS ROCK&ROLL』は、バンドにとっての最新作となるアルバム『SIX KICKS ROCK&ROLL』を携えて行われた同名ツアーの模様を収録した映像作品だ。ディスク1には今年の4月12日に行われた千葉市民会館公演の内容が、ディスク2にはアルバムに収録された6つのシングル曲のMVが収録されており、まさに今のザ・クロマニヨンズの姿を余すところなく楽しむことができる。
ライブのセットリストも単純明快だ。1曲目を飾る「ドライブ GO!」を皮切りに、まずは『SIX KICKS ROCK&ROLL』に収録された全12曲を一気に披露。続いて前作『MUD SHAKES』から4曲を披露し、以降は「エルビス(仮)」や「紙飛行機」といった代表曲を連発しながら、本編ラストはデビューシングル曲である「タリホー」でフィニッシュ。さらにアンコールで「ナンバーワン野郎!」など他の代表曲を披露するというものであり、彼らが今、一番演奏したいであろう最新の楽曲を最優先にしつつ、代表曲できっちり盛り上げるという鉄板の構成だ。
では、この作品を観る前に、予習としてアルバムを聴いたり、代表曲を一通り知っておいた方が良いのかというと、甲本ヒロト自身が『MUD SHAKES』パートの途中で「(『MUD SHAKES』を)別に知らんでもええんよ。今覚えて、興味があったら聴いてみてください」と言う通り、別にそういうわけではない。すべてがシンプルであるが故に、仮にまったく楽曲を知らなかったとしても、そこで何が起きているか、どんな音が鳴っているか、どんな言葉が歌われているのかを一発で理解することができるからだ。
そして、その魅力は、ライブの1曲目を飾る「ドライブ GO!」の時点できっと伝わることだろう。〈突っ走れ〉というフレーズを連発する甲本の一切ブレることのない歌声の力強さと、リフやコードは一つひとつの弦の震えを感じられるほど生々しく、ソロは稲妻のように真っ直ぐに突き刺さるサウンドを鳴らす真島のギタープレイと、まるで極太のムチかのように唸る小林勝(Ba)のベースと、そんなフロント陣を見事にコントロールしながら、さらにそのエネルギーをどこまでも増幅させていく桐田勝治(Dr)のドラムが一体となって、一切の無駄のないロックンロールサウンドが会場中に鳴り響く。そんな音が矢継ぎ早に連発されるのだから、楽曲を重ねれば重ねるほどに、会場の、あるいは自分の中にある楽しさやエネルギーはどんどん大きくなっていく。
まさに「ロックンロール」以外に形容のしようがない、極めて本能的な彼らのサウンドは、ある意味ではオーソドックスとも呼べるものであり、人によっては、よりテクニカルな、もしくは様々な仕掛けに溢れた演奏を好むこともあるだろう。実際、ザ・クロマニヨンズの演奏自体は紛れもなくオーソドックスそのものであり、それなりに楽器を練習すれば譜面をマスターすること自体は決して難しいことではないはずだ(余談だが、筆者も学生時代に所属していた軽音楽部で彼らのギターをコピーしていたことがある)。だが、こうして映像作品を通して一歩引いた目で見てみると、ザ・クロマニヨンズの演奏の中にあるあまりの情報量に圧倒されてしまう。
例えば、「大空がある」の中盤で軽快に刻まれるギターリフの切れ味が持つ快楽性は控え目に言って異常であり、音が鳴っている時はもちろん、鳴っていない時であろうとその余韻に魅了される。同楽曲で〈大丈夫だ〉〈すべてはうまくいく〉〈心配いらない〉という直球にも程があるメッセージを、確かな説得力を持って聴かせてしまう甲本の歌声の魅力も異常だ。「イエー! ロックンロール!!」というド直球なタイトルの楽曲ではチャック・ベリー譲りの50年代式ロックサウンドが展開されるのだが、一つひとつのキメや展開の切り替わりが極めて美しく、一切の古さを感じさせない。どんなに上手いバンドでも、どんなに工夫を凝らしたアレンジでも敵うことのない、唯一無二の魅力がここに詰まっている。それは、やはり長年のキャリアを通して、Sex PistolsやThe Rolling Stonesを初めて聴いた時の衝動に向き合い続け、幾度となくその音楽性をソリッドに磨き上げてきた甲本と真島が率いるからこそ鳴らすことができる音なのだろう。見れば見るほどに、その「究極のオーソドックス」が持つ異常さに打ち震えるのだ。