VOCALOIDシーンにおけるリミックス文化の広がり Spacelectro、DIVELA、TAKU INOUE……アレンジに光る個性

 VOCALOID、CeVIO AIをはじめとした多彩な音声合成ソフトにより、現在再び独自のカルチャーを築くボカロシーン。従来から投稿楽曲を「歌ってみた」「踊ってみた」「弾いてみた」等の、複合的な自己表現チャネルと気軽にクロスさせる現象が頻繁に見受けられていた。現在のシーンにおける一大祭典『The VOCALOID Collection』(ボカコレ)でも、オリジナルのボカロ曲投稿企画のみならず、上記に挙げた楽曲の二次利用企画が同時開催されている点からも、シーンにおいてクロスクリエイトがカルチャーとして根づいていることが見て取れるだろう。

 そんな楽曲の二次利用方法のひとつとして、近年「リミックス」にも徐々に注目が集まっている。既存曲をアレンジして作品の新たな一面を提示したり、原曲制作者とアレンジャー、両者の才能の融合が楽しめるリミックス。シーン初期からその手法自体は用いられており、リミックスに特化した音源作品もこれまでに複数発表されている。2012年以降、計8枚ものシリーズをリリースしたリミックスコンピレーションアルバム『VRUSH UP!』、VOCALOID史を代表する名盤であるlivetune『Re:Package』を中心に、様々なプロデューサーの手によってリミックスされた『Re:MIKUS』。様々なコンセプトの企画作品をリリースしている「EXIT TUNES PRESENTS」シリーズにおいても、特にEDMに特化したものにおいてはリミックス音源が収録されたことも度々ある。さらにかいりきベアによるアルバム『ベノマ』(2020年)にて、ピノキオピーやツミキ、はるまきごはん、煮ル果実など総勢10名の人気ボカロPによるかいりきベア曲のリミックスが収録されたニュースも記憶に新しい。上記作品を踏まえれば、最盛期から現在に至るまで、リミックス文化が脈々とボカロシーンの中でも親しまれてきたことがわかる。

 またこれらの音源に留まらず、動画サイトでも、長年ファンに根強く視聴され続けているリミックス曲が多数ある。特にシーン全体でVOCALOEDM等のエレクトロサウンドが広がり始めた2010年代半ば頃から、脚光を浴びるリミックス楽曲も徐々に増え始めた。その代表格が、VOCALOID黎明期からトラックメイカーとして活動するSpacelectroによる「妄想税 Big Room House Remix Spacelectro」(2015年)である。本作はニコニコ動画にてボカロ曲リミックスとしては異例の100万回再生を突破。この他にも彼の手がけるリミックス曲は一定数のリスナーから確固たる人気を獲得している。

【VOCALOID】妄想税 Delusion Tax Spacelectro Big Room House Remix 初音ミク [2015年]

 また『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』に楽曲提供を行うDIVELAも、元々「ブリキノダンス/DIVELA REMIX feat.鏡音リン」(2014年)をはじめとしたリミックス曲に定評のあるボカロPだ。さらに直近ではコンポーザー・TAKU INOUEによる「DECO*27 - サラマンダー feat. 初音ミク (TAKU INOUE 3-Minutes Remix)」(2022年)が、並み居る人気曲を押しのけ2022年9月10日にニコニコ動画内の音楽・サウンドジャンルランキングデイリー1位を獲得。ボカロシーンにおけるリミックス×エレクトロサウンドの相性の良さを立証した形ともなっている。

DECO*27 - サラマンダー feat. 初音ミク (TAKU INOUE 3-Minutes Remix)

 しかし当然、VOCALOIDリミックス曲は電子音楽的なサウンドがすべてではない。特に先述の『ボカコレ』内でイベント初回から設けられているリミックス部門では、毎回プロデューサーたちのカラーが色濃く反映された楽曲を多数楽しむことができる。特徴的なストリングス/ピアノサウンドのアレンジが光る「好き!雪!本気マジック(OSTER projectが本気でアレンジ!)」(2020年)、「炉心融解(OSTER projectが本気でアレンジ!)」(2022年)や、原曲作者であるピノキオピーとの従来の親交に加え斬新なインド音楽&ハードコアアレンジが注目を集めた鬱P「गणेशっぽいな」(2022年)。

好き!雪!本気マジック(OSTER projectが本気でアレンジ!)
炉心融解(OSTER projectが本気でアレンジ!)
गणेशっぽいな [神っぽいな/God-ish Remix]

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