森山良子、デビュー55年を経て“反抗期”に突入? 数多の出会いと音楽で彩られたキャリアを振り返る

森山良子、デビュー55年を振り返る

 デビューして55年。半世紀以上。ほんの一握りの選ばれたアーティストのみが経験できる偉大な周年。2022年は森山良子にとってそんな年だった。周年を迎え、まずは2月、これまでにレコーディングしてきた900曲以上におよぶ楽曲の中から159曲を厳選して、ほぼ年代順に収録したCD8枚組ボックスセット『MY STORY』を編纂。続いて8月にはハナレグミこと永積崇がプロデュース/アレンジを手がけた自作曲「人生はカクテルレシピ」を6年ぶりのニューシングルとして配信リリース。2023年にかけて相変わらず活発なコンサートツアーも継続中だ。長いキャリアに甘えることなく、今なお着実な歩みを進め続ける森山良子。55年目の現在、過去、そして未来を語っていただいた。(萩原健太)

「ギャップみたいなものを感じていたのも事実なんです」

森山良子インタビュー写真

ーー8月に出た新曲「人生はカクテルレシピ」はハナレグミの永積(崇)さんのプロデュース。世代を超えたコラボレーションでした。

森山良子(以下、森山):私、実は崇くんのことがすごく昔から好きだったんです。それで武道館に観に行ったんですよ。なんか、“タカシにそんなことができるはずないとお母さんが言った”とかなんとか……。

ーー『TOUR あいのわ 「タカシにはその器はないんじゃないかしら…」と母は言ったのであった。』というタイトルのコンサートですね。2009年、初の武道館ライブ。

森山:そう、それ(笑)。そしたら、たった一人でギターを弾いて、なんか一生懸命で。すっごくいいライブだったんですね。それで私、好き好きと思って。息子(森山直太朗)にも言っていたんです。そしたらある日息子が、「今日、崇くんのお誕生日やるけど来る?」って。それで、行く行く行く! って(笑)。おうちも近いんですよ。すぐそばに住んでいて。駅で会ったりとかして声をかけ合うようにもなって。近くのカフェで二人で音楽の話をしたりとか。彼は、こう、コツコツと音楽をしていて、もちろん私たちの世代とは表現の仕方とかも違うけど、すごくセンスが好きだなーと思って。それで何か一緒にやりたい! やりたい! と言って、できた曲を彼に丸投げしました。これでなんとかしてって(笑)。

ーー楽しい曲に仕上がりましたね。森山さんらしからぬレイジーなグルーヴが印象的で。

森山:私がこれまで感じたことのないグルーヴ感、リズム感。だから最初、おー、やっぱ違うって。新鮮で楽しかったですね。みんなでキャーキャー笑いながらレコーディングして。まあ、今の人たちはわりと真面目なので、あまりそういうのがないような気がするんだけども。私の世代だと、かつては先輩ミュージシャンたちがいつもおっかしいバンドマンのエピソードとか話してくれたりしてたのね。で、今回は私が、まあ、先輩ですから、そういう面白い話を聞かせてあげながらみんなでワッハッハって笑って。みんなも次のセッションのときに「良子さん、もう一回あのときのあの話してよ」とか言って。「え、もう一回? オッケーオッケー」って(笑)。崇くんのスタジオで、すごく気楽な感じで作業できたのも大きかったですね。みんな、そこいらに座って、マイクを立てて。胡座かいてやっている人もいたり。面白かったです。

ーーしかも、内容はお酒の歌で。

森山:こんなはずじゃなかったんですよ(笑)。コロナ禍であまりにも長いことコンサートのお休みがあって。最初のうちはテレビを見たり、ちくちく縫い物したり、趣味に時間を費やしていたんですけど。いつになったら再開するんだろうと思って。なんだか自信が萎えていくんですよ。若ければ、あ、ちょうどいい休みだなと思えたのかもしれないんですけど。私たちって身体の衰えにどれだけ抗っていけるかって年代でしょ。そういう工夫をしながらここ数年ずっと歌ってきたんで、なんかちょっとでも立ち止まったら、もう元と同じようには戻れない感じがあって、すごく焦ってたんです。そんな中、ボーカルのレッスンとかに通いながら、逆に言えば時間があるんだから、なんかやっぱり音楽に携わることしなきゃいけないなと思って。それで、まあ、私も年齢を重ねてきたし、いろんなことを経験してきたし、ちょっと来し方を振り返り、あのときはこうだったな、このときはこうだったなとか思い出しながら、そんな経験の中で得た自分なりの人生訓みたいなものを連ねた、とても味わいのある歌にしたいって思ったんですけども……。

ーーそれがなぜだかお酒の歌に。

森山:ねぇ(笑)。昔に思いを馳せると、いちばん鮮明に覚えているのが、あのときこれ飲んでたな、このときはこれ……って。いちいちお酒のことばっかり思い出されて。まあ私、お酒、嫌いじゃないので。偉そうなことも言えないし、結局これだけ飲んできましたみたいな歌になっちゃいました。

ーーでも、いろいろ厳しい状況を超えて、もう一回みんなで乾杯しようよというテーマでもありますよね。

森山:そうですね。コロナも終わって、ウクライナの戦争も終わって、世界各国でグラスが鳴り渡ってくれたらいいな、という。平和に向けての思いもあったので、世界各国の乾杯の音頭を調べて、最後に羅列してみました。私、振り返ってみると、これまで真面目な歌が多かった気がするんですよね。ときどきステージでそうじゃない曲も披露してはいるんですけども、全体的にはちょっときれいな声でけっこう真面目な曲を……みたいなイメージ。本人はたいして真面目じゃないのに、しゃあしゃあとね(笑)。もちろんそういう側面も私の中にはあるんでしょうけど、でもギャップみたいなものを感じていたのも事実なんです。ずーっときちっとした人って思われてきて、きちっとしてないんですー! と言っても、「いえいえ」とか言われて(笑)。声がそういう声だったからっていうこともあるのかな。

ーーデビューのころからイメージと実像との違いみたいな中で悩んでいらっしゃったそうですね。最初は“日本のジョーン・バエズ”と言われて。

森山:それはやっぱり私がファルセットで歌うちょっと高い声を、スタッフの人がこれこそが森山良子であると考えてくださった結果だとは思うんですけども。この歌唱でやらないとダメって。そういうふうにカテゴライズされながらも、いつも「ウーッ、ウーッ」て、こう、押しくらまんじゅうみたいに飛び出そうとしてきたんですよ。デビュー当時、<フォノグラム>時代のディレクターだった本城(和治)さんには本当にご苦労かけちゃって。「こんな曲イヤ!」とか、「こんなの歌いたくないーっ!」とか(笑)。

ーーけっこう暴れたんですか?

森山:暴れましたよー(笑)。「この広い野原いっぱい」のときから、「えーっ、そんなのありえません」って。

ーーご自分で作曲なさったデビュー曲じゃないですか。

森山:作曲したと言っても、デビュー前、やむにやまれずラジオ局でノルマとして作ったみたいなものだったので。ほら、私、ピンチヒッターだったでしょ?

ーー1965年、ラジオ関東(現・ラジオ日本)で放送されていた『フォーク・カプセル』のレギュラー出演者陣から当時モダン・フォーク・カルテットのメンバーだったマイク眞木さんが抜けて、その代わりに森山さんが出演なさるようになったんですよね。それで、番組恒例のオリジナルソング作りの順番が森山さんにも回ってきて……。

森山:そう。その番組はリスナーさんの詞に出演メンバーが交代で曲をつけるっていうものだったんですけど、難しいんですよ。だから、私それやらないから、できないからって何カ月も逃げ回っていたの。でも、今日はもう良子が作らないと番組が始まらないってところまで追い込まれて。そしたら、スタジオに銀座の老舗画材屋さんのスケッチブックがあって、その裏に「この広い野原いっぱい咲く花を一つ残らずあなたにあげる……」って詩が書かれていた。小薗江圭子さんの詩。それを読んでたら、しゃべっているのと同じくらいの雰囲気でメロディが出てきたの。それで、できたできたって。言葉をそのままメロディラインに乗せたみたいな。私はノルマが達成できて、ああよかったって思っていたんだけども、その曲に対するリスナーの方たちのリクエストががんがん来るようになって。「えーっ、まじですか?」みたいな(笑)。そんな感じだったんですよ、本当に。欲もないし、力もないから、とにかく素通りしてやれ、くらいの気持ちで。だから本城さんがこの曲をデビューシングルにって言ったときも、いや無理、絶対ダメ、こんなの駄曲なんだからって。小薗江さんの詩は素敵だけど、私なんかのメロディは絶対ダメだからって言ったんですけども。いろいろとねじ伏せられて。これをシングルにしたら、アルバムでは洋楽のこんな曲もあんな曲も歌っていいよって言われて。

ーー確かに1967年に出た1stアルバムにはカレッジフォークものに交じって『ウエストサイド物語』の「サムホエア」とか、『メリー・ポピンズ』の「2ペンスを鳩に」とかも含まれていました。

森山:私は別に、ヒットしたいとか、テレビに出たいとか、そういうカテゴリーに含まれる歌手として自分をとらえていなかったんです。ただ、歌ってる人。父はトランペッターだったんですが、父のように毎日楽器を持って仕事して帰ってくる人。その仕事が歌、みたいな。なんかそういう感じでよかったんですよね。そう思っていたのが、やっぱり時代ですね、フォークがすごく流行っていて。フォークが流行ってなければフォークにもいかなかったでしょうし、自分の最初の意志を貫いていたと思うんですけども。

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