『ドライブ・マイ・カー』『カムカムエヴリバティ』で存在感 三浦透子、シンガーとしても注目したい声の魅力

 現地時間3月27日に授賞式が行われた「第94回アカデミー賞」授賞式。日本映画として初めての作品賞に加え、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞という史上初の4部門ノミネートを果たしたのが濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』だ。劇中、西島秀俊演じる主人公・家福悠介の運転手・渡利みさき役を演じた三浦透子は特別な存在感を放っていた。分断と再生を描く物語の中、彼女の物静かな佇まいとその心情の移ろいは作品の本質へと繋がっている。

 感情を発露する描写が極めて少ない『ドライブ・マイ・カー』の中でも、とりわけみさきの所作は淡々としている。しかしただの静かな人間という印象に留まらせないのは三浦透子の持つ声の力が大きい。落ち着いた質感の低い声だが、涼やかで凛としてもいる。日常に溶け込む平熱さもあるのに、浮遊感があり神秘的でもある。抑制されたトーンの中で彼女の声がほころび、語調が不意に揺らぐ瞬間に生まれる情感は鑑賞者を惹きつけて離さない。

 その魅力的な声は歌手としても活かされている。2014年にCMで仕事を共にしたタナダユキ監督から声を評価されたことで音楽活動を開始した(※1)。タナダユキ監督の映画『ロマンス』の主題歌やカバーアルバム『かくしてわたしは、透明からはじめることにした』を発表し、2019年には新海誠監督作品『天気の子』の主題歌であるRADWIMPSの楽曲に参加したことで歌手として広く知られることになった。RADWIMPSとともに「グランドエスケープ」で『第70回紅白歌合戦』にも出場し、彼らのライブで横浜アリーナに立つなど大舞台を多く経験した。

RADWIMPS - 祝祭 (Movie edit) feat. 三浦透子 [Official Music Video]

 温かみのある楽曲や、スケールの大きな楽曲で名を馳せた三浦透子だが、2020年リリースの初オリジナル作品『ASTERISK』には様々なタイプの楽曲が収録されている。TENDREが提供したR&Bテイストの「おちつけ」は艶と芯を感じるボーカルを聴かせ、曽我部恵一による「ブルーハワイ」ではけだるげに漂う歌を奏でた。森山直太朗プロデュースの「uzu」ではハミングのみで曲世界を形成するなど、多彩な表現がこの作品には揃っている。

三浦透子 / ブルーハワイ [music video]
三浦透子 / uzu [music video]

 三浦透子が音楽活動において様々な楽曲を歌うのは必然的と言える。俳優としてこれまで演じてきた役柄もとても多彩だからだ。1人として同じタイプはいない、と言い切っても過言ではない。映画『私たちのハァハァ』での自意識過剰な女子高生、『架空OL日記』での少しとぼけたOL、『静かな雨』でのややデリカシーに欠く大学院生……ここに挙げたのはあくまでほんの一部だ。『ドライブ・マイ・カー』もそうだが、徹底的にその人物と一体化し、その人物の内面まで役に没入しているかのように見えるのが彼女の演技だ。また2017年の主演映画『月子』や2020年公開の『ロマンスドール』などでは劇中で歌も披露しているが、歌手として聴かせる歌唱ではなく、その人物の歌声として見事に役に寄り添っている。

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