甲田まひる、水森亜土やバド・パウエルらが共存する世界 多面的なアーティスト性を構築した人生のルーツとは?

甲田まひる、人生のルーツを語る

 甲田まひるが12月23日に3rd EP『Snowdome』をリリースする。表題曲はSUNNY BOYとの共作。冬をテーマに甲田のバイブスとメインストリームのサウンド感が融合したナンバーに仕上がった。一方カップリングの「SECM (Sausage Egg & Cheese Muffin)」ではラップを披露。JP THE WAVYやGottzらを手がけたyung xanseiがアレンジを担当した。

 今回は3rd EPの制作秘話に加え、彼女の人生に影響を与えたアイテムを紹介してもらいつつ、甲田まひるを深掘りする。(宮崎敬太)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

水森亜土さんは女子の味方。子供っぽさと大人っぽさのバランスが絶妙でかわいい

ーー今日は甲田さんの人生に影響を与えたアイテムを持参していただきました。

甲田まひる(以下、甲田):まずは水森亜土さんの作品ですね。ピアノを始める前は絵が大好きだったんです。お母さんの友達の集まりについて行って似顔絵を描いたり。歳の離れた兄の友達にも描いてたな。似顔絵を描くとみんな笑顔になってくれるんですよ。それが嬉しくて絵が好きになりました。5歳くらいですね。その頃は雑誌に載ってるちょっとかわいいイラストや似顔絵を描く仕事をしたいと思ってました。

ーー5歳にして将来の仕事をイメージしてたとは大人びてますね。

甲田:当時からファッションが大好きだったんです。その流れでおおたうにさんや宇野亜喜良さんのようなイラストレーターさんも大好きでした。そういえば当時、水森亜土さんにファンレターを書いたんですよ。そしたら「かわいいお手紙うれしいです」って直筆のお返事をいただいたんです。すごく嬉しかったなあ。

甲田まひるが選んだ影響を受けた作品たち

水森亜土の本
バド・パウエルのCD
セロニアス・モンクのCD
Crooklyn DodgersのLP
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水森亜土の本
バド・パウエルのCD
セロニアス・モンクのCD
Crooklyn DodgersのLP
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ーーその後ピアノを始めるわけですが、クリエイティブなご家庭で育ったんですか?

甲田:全然。普通の家でした。ただカルチャーには寛容だったと思います。母が若い頃ゴアトランス好きのバックパッカーだったんですよ。20代の頃、毎年何カ月かはインドやネパールを旅していたらしいです。当時の写真を見せてもらったら、ターバンに羽が刺さっているような格好をしていました。あとピタピタのカラフルなゴアパンツを履いてて(笑)。そういう話を小さい頃からたくさん聞かせてもらってた影響は確実に自分の中にあります。

ーー水森亜土さんの絵が好きという感覚の背景にある世界の解像度が上がるエピソードですね。

甲田:水森さんの絵はとにかくかわいい。なのに体のラインはすごくセクシーなんです。ただいやらしくはない。子供のようにも見えるけど大人っぽい色気があって。キャラクターの年齢がわからない。水森さんはエロティックな世界もお好きみたいで、そういうデッサンもたくさん描かれてると本に書かれてました。でもアウトプットされるものは最終的にとにかくかわいい。かわいいが勝つ(笑)。そのバランス感覚が独特で絶妙だと思います。

ーー先日別の取材で「少女性とはいつまでも子供のままでいたいのではなく、冷静に大人を観察して、自分と向き合って、大人になろうとする感覚のこと」という話をうかがってハッとさせられたんですが、まさに水森亜土さんにも、甲田さんにも通じる感覚ですね。

甲田:水森さんの作品にはイラストと一緒に短いメッセージというかセリフが書かれてるんですね。それが女の子にしかわからない気持ちだったりするんですよ。女子の味方というか。そこもすごく好きでしたね。

ジャズの自由さ、跳ねる音に衝撃を受けた

ーーその後、ピアノの世界に。最初からジャズだったんですか?

甲田:いえ、最初はクラシックです。両親にお願いしてヤマハ(音楽教室)に通い始めました。幼稚園の周りの子たちがピアノを習ってるのを見て私もやりたいと思ったのかも。最初はテキストに入っている「かえるの合唱」とか、世界各地の民謡とか、あとロックの有名な曲とかから始めました。私がジャズを好きになったのは、先生の影響です。ヤマハは発表会の演奏曲を先生が決めるんですが、私の先生はジャズが好きでショパンの有名な曲をジャズにアレンジした譜面をくれたんです。それにすごくハマったんですよ。ノリが良いし、オシャレだなって。そしたら先生が「ジャズっていうんだよ」と教えてくれて。クラシックよりもジャズにのめり込んで、図書館でマイルス(・デイビス)とかオスカー・ピーターソンのいわゆるジャズの名盤をいっぱい借りてきて聴くようになったんです。

ーーそれが何歳くらいですか?

甲田:8歳ですね。

ーーサウンド感でクラシックよりジャズに惹かれた?

甲田:それもありますけど、ジャズの自由さにも惹かれたんですよね。自分を出せるというか。クラシックは譜面通りに弾く音楽。一方ジャズにも譜面はありますが、どれほどその人らしくアレンジして演奏するかが肝になる音楽だと思います。私が特に影響を受けたのはバド・パウエルとセロニアス・モンク。音の選び方や表現が独特で、こんな音が出せるピアニストになりたいと思いました。あと私は手がすごく小ちゃかったので、譜面通りに弾くのもすごくキツかったんですよね。

ーー鍵盤に届かない。

甲田:そうです。練習で手は開くようになりますけど、体格はどうにもならない。クラシックだと体の大きい人が出す音は、強くてカッコよかったりするんですよ。あとは発表会でもジャズ寄りの作曲家の曲を演奏する先輩を見てきたので、遅かれ早かれジャズに行ったと思います。でも10年くらいクラシックは習ってました。

ーージャズはいつ頃から習い始めたんですか?

甲田:10歳頃からですね。クラシックと並行していました。8歳でマイルスとかを知ったタイミングで、バド・パウエル『ジャズ・ジャイアント』とセロニアス・モンク『ソロ・モンク』にも出会ってるんです。図書館でいろいろ聴いて一口にジャズと言ってもいろいろあることを知りました。クラシックっぽい人もいれば、フュージョンっぽい人もいて。そんな中でも私はこの2枚が一番好き。衝撃でした。

ーーどういうところが?

甲田:バド・パウエルは弾きながら唸ってる(笑)。それが苦手な人もいるみたい。でも私は人間味を感じてむしろ好き。『ジャズ・ジャイアント』の「テンパス・フュージット」は一番最初に耳コピした曲です。だから特に思い出深い。速弾きすぎて聴き取れないからテンポを遅くしてみたんです。そしたら音が跳ねてて。例えば「タカタカタカ……」って聴こえるとこも、実は「タッカタッカタッカ……」ってなってる。

ーー「音が跳ねてた」とはピアノの一音一音にリズムというか、グルーヴがあった、みたいな理解でいいですか?

甲田:あー、そうです。ジャズをやるってことはそこを追いかけることなんです。あの人たちの中にある生まれ持ったリズム感覚にいかに近づくか。そういう勝負をずっとしてる感覚でした。

ーーアフリカ系の人たちのリズム感覚は一朝一夕では会得できないですもんね……。

甲田:ほんとそうなんですよ。もう魂のレベルから近づく努力をする感覚でした。ジャズにも理論があるじゃないですか。でもあれはバド・パウエルやモンクたちが考え出したものじゃなくて、この人たちがやってたことを真似するために後付けで作られたものと言われてるんですよ。

ーーあと、さっきさらっと耳コピしてたとおっしゃってましたが……。

甲田:まだジャズを習う前だったので、何をすればいいかわからなかったんです。だからとりあえずできることをやってみよう、と。ヤマハの先生が絶対音感を鍛えてくれたので、耳コピの時にクラシックで勉強したことがかなり活かせました。ピアノに背を向けて、耳だけで音を当てるレッスンとか。あと先生が弾いた曲をその場で譜面に起こすレッスンとか。

ーーハンパないっすね。ちなみにセロニアス・モンクはどのようなところに惹かれたんですか?

甲田:この『ソロ・モンク』はピアノソロのアルバムなんです。彼は作曲家としてジャズの名曲をたくさん残しているんですがこのアルバムは超自由。当時の自分は「ここ絶対に間違えてるでしょ」って思ったくらい個性的な音が衝撃的で。『ソロ・モンク』と『ジャズ・ジャイアント』はMDに焼いて何度も何度も聴きました。

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