桑田佳祐、多彩さの奥に光る“親しみやすいポップスの本質” ソロ活動35年間の変化と広がりを振り返る
桑田佳祐のソロ活動が35年を迎え、ベストアルバム『いつも何処かで』が11月23日にリリースされた。ではさっそく、これまでを振り返りつつ、収録曲に触れていこう。
彼のソロ活動は、1986年にKUWATA BAND名義で始まった。バンド自体は重厚なロックを意識したが、「BAN BAN BAN」や「MERRY X’MAS IN SUMMER」などのシングル曲は、桑田本来のポップさが、より活性化された印象だった。
翌年から桑田佳祐としての活動となり、「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」「いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)」など、今に至る代表曲が生まれる。初のソロアルバム『Keisuke Kuwata』では、コンピューターのサンプリングなども駆使され、彼自身、これまで未体験だった新たな「ポップス」を奏でた。
バンドの人間のソロとなると、我々が想像するのは「個」に寄り添う世界観だが、その意味でソロらしい作品集が1994年の『孤独の太陽』である。声と生楽器によるシンプルな編成は、前作と真逆のアプローチだ。母の死を乗り越え綴られた「月」は、透明な哀しみと慈しみをまとった渾身のバラードである。
21世紀の声とともに桑田は絶好調となる。「波乗りジョニー」と「白い恋人達」で2001年を席巻し、翌年、名うてのミュージシャンが結集し、計算し尽くされたアンサンブルによるアルバム『ROCK AND ROLL HERO』が完成する。この時の主要メンバーが、その後も桑田のライブを支えていくことになる。
2007年にはソロシングル3作を出すなど旺盛なところをみせ、「明日晴れるかな」では、万人の唇に届く裾野の広い「歌」へと作風が拓く。突然身に降り掛かった病を乗り越え完成された2011年の『MUSICMAN』には、音楽人としての矜持を強固にしつつ、その時の気分にマッチした、何より自分が歌っていて楽しい作品が並んでいた。
次のアルバムは2017年の『がらくた』だが、この時期の桑田は、自らの楽曲をあえて“小品”と称し、肩肘貼らず、皆に親しんでもらえることを望んだ。その一方で、日本語本来の響きと向き合った「ほととぎす [杜鵑草]」など、ソングライターとしてのトライが滞ることはなかった。