桑田佳祐、多彩さの奥に光る“親しみやすいポップスの本質” ソロ活動35年間の変化と広がりを振り返る
昨今のコロナ禍においても音楽制作を休まぬ桑田は、2021年、EPという新たな作品集の在り方を示し、6曲入りの『ごはん味噌汁海苔お漬物卵焼き feat. 梅干し』をリリースする。「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」における、メロディの真芯を通る雑味ない歌唱は特筆に値し、沈みがちな人の心を軽やかにした。「Soulコブラツイスト〜魂の悶絶」における昭和の歌謡ポップスへのオマージュは、マニアックなほどにお見事だった。
『いつも何処かで』には話題の新作が3曲含まれているので、最後に紹介する。昨今の社会情勢も反映されたなかでの希望の歌が、「平和の街」である。豪華な同級生共演が音楽シーンの話題をさらったのが「時代遅れのRock’n’Roll Band feat. 佐野元春, 世良公則, Char, 野口五郎」だ。桑田の原風景といえる海辺の町を舞台に、切ない恋慕を描く「なぎさホテル」は、極上の歌のドラマである。
3曲だが、実に多彩だ。アーティストもキャリアを積むと、得意な曲調が絞られていくものだが、桑田は常に多彩で多才で貪欲で、それでいてPOPの本質である親しみやすさを忘れずにいる。今回のベストアルバムには、その“現在進行形の歴史”が詰まっている。
※この原稿を書くにあたり、筆者が構成を担当した『桑田佳祐言の葉大全集 やっぱり、ただの歌詩じゃねえか、こんなもん』、桑田への取材を試みた『別冊カドカワ 総力特集 桑田佳祐 絶えず毎日が未来なんだ』を始め、その後の本人への取材で知り得たことなどを参考にしました。