2022.11.09 21:00

桑田佳祐は音楽人としての自身を更新し続けている　『LIVE TOUR 2022「お互い元気に頑張りましょう!!」』宮城初日公演レポート

文＝高木智史、写真＝西槇太一

　昨年開催された、桑田佳祐による全国アリーナツアー『LIVE TOUR 2021「BIG MOUTH, NO GUTS!!」』。このツアーは、コロナ禍になって以降初となる有観客で行われた大規模ツアーであり、桑田佳祐とファンが再会を果たした特別な旅だった。興奮に包まれた各会場で歌われた「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」の〈あなたがいて I’m so proud／愛しい友への歌〉という歌詞が、桑田からファンへの贈り物のようでとても印象に残っていた。そして今年11月2日、宮城・セキスイハイムスーパーアリーナよりスタートした全国ツアー『桑田佳祐LIVE TOUR 2022 「お互い元気に頑張りましょう!!」supported by SOMPOグループ』。自らチケットを入手して訪れたこの初日公演でも「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」が披露されたのだが、この日は昨年とは違う箇所の歌詞が強く心に残った。

　今年ソロ活動35年を迎えた桑田佳祐。11月23日にはベストアルバム『いつも何処かで』のリリースが控えている。「今日からツアー、始まるね！」と話しながら会場に向かうファンの足取りは弾んでいた。期待を胸に会場に集った観客を前にした桑田は「一年ぶりに仙台に帰ってきました！　最後までよろしくお願いします！」と発した。声援に代えて大きな拍手がライブが終わるまで会場に鳴り渡っていた。“感謝の5倍返しツアー”と銘打たれたライブでは“いつも何処かで”聴いていた桑田佳祐の名曲がセットリストの随所に散りばめられ、ライブでの軽妙なMCや、時にユーモラスに、時に真摯に楽曲の世界観を伝えるステージでのパフォーマンス、宮城、東北に歌で感謝を伝える一幕など、桑田佳祐のエンターテインメント性溢れる素晴らしいライブだった。思わず私も時を忘れて楽しんだ。

　そして、特筆すべきは『いつも何処かで』に収録される最新曲「なぎさホテル」。作家の伊集院静による自伝的小説と同タイトルであり、その中で描かれている湘南・逗子海岸に実在したホテルでもある。その楽曲は、夏の恋の美しさと儚さが歌詞に描かれていて、それを回想するように優しく包むような桑田の歌唱、ノスタルジーを感じるサウンドが何度も聴いていたくなる味わい深い一曲だ。ライブでは、楽曲の世界観にイントロから誘われるようで、この後のツアーでも披露される際にはぜひその物語を感じてほしい。

　また、桑田佳祐のライブでは欠かせない「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」。会場にいた誰もが桑田の歌と合わせて心の中で大合唱していたことだろう。35年前、1987年にソロ名義でのデビュー曲としてリリースされた同曲。日本の音楽史に残る大名曲であるこの曲はもちろんのこと、ライブで披露された楽曲の中には“こんな曲もあったんだ！！”と感嘆させられる場面もあり、改めて桑田佳祐の音楽の豊かさに溺れる。35年間音楽シーンの第一線を走り続けていることを証明し、自身を更新し続ける新曲も織り込まれた珠玉のセットリスト。今年6月25日のサザンオールスターズとしてのデビュー44周年の節目に発表された“SKGs”（Sustainable Kuwata Keisuke’s Goals）＝“桑田佳祐の持続可能な目標”のひとつに「これからも楽曲制作を〜“生涯現役の音楽人”を目指します〜」という宣言があったが、桑田はまさにそれをライブでも体現していた。

　最後に、宮城県のご当地ソングとして歌われた「大漁唄い込み」から続けて「心を込めて歌わせていただきます！」と力強い言葉の後に披露された「SMILE〜晴れ渡る空のように〜」。宮城・東北の人々、そしてこれからツアーを届けていく全国のファンに向けた桑田佳祐の強い意志が込められたこの楽曲の〈ここから未来を始めよう〉〈今この時代を生きて〉という一節。桑田佳祐は、様々なことが起こる現代を捉えた上で、ここから始めようと今を生きる大切さを歌っているように感じた。全ての演目を終えて、“いつも何処かで”桑田佳祐が歌い続けてきた楽曲を胸に、昨年よりも一層、明日も生きていこうと確かな勇気をもらえたライブだった。

　11月12日の福岡PayPayドーム公演からは愛知、大阪、東京、札幌と5大ドームを巡るツアーが続いていく。会場に訪れる予定の方はぜひ、その勇気を受け取ってほしい。