櫻坂46、卒業する菅井友香の意志を継ぎ深まるグループの結束 初のドーム公演に見た現体制での集大成

櫻坂46初ドーム公演レポ

 櫻坂46の1年ぶりとなる全国ツアー『2nd TOUR 2022 “As you know?”』が11月9日、東京ドームにて閉幕した。9月29日に大阪からスタートしたこのツアーは、広島、宮城、愛知、福岡、東京と全国6都市で12公演を開催。このうちツアーファイナルとなる東京ドーム2DAYSは、グループ初となる東京ドーム公演であると同時に、欅坂46時代から数えて約3年ぶりの凱旋公演となる。そして、8月にグループ卒業を発表したキャプテン・菅井友香のラストステージにもあたり、最終日となるこの日の公演では彼女の卒業セレモニーも用意された。

 11月8日に刊行された菅井友香の卒業写真集『大切なもの』(集英社)にて、筆者は彼女の7年以上にわたるアイドル人生を振り返るインタビューを担当している。この中で、彼女は櫻坂46のキャプテンに任命された際、副キャプテンの松田里奈と今後の目標について話し合った際、新二期生はまだ東京ドームを経験してないことに触れ、「やっぱり櫻坂46でも東京ドームに行きたいね。それがまず、私たちの大きな目標だね」と語り合ったという。それを櫻坂46への改名から約2年という短い期間で達成させたのは、自身の中で「(櫻坂46結成から)あと2年は頑張る」とタイムリミットを用意しながらがむしゃらに頑張り続けた、菅井の執念とも言えるだろう。もちろん、菅井だけの成果ではなく、在籍するメンバー全員が一丸となって目標に突き進み続けたからこそ叶った夢でもある。

 とはいえ、夢のステージは全国ツアーの一環として行われるもの。まずは1stアルバム『As you know?』を携えた本ツアーの集大成となるステージを提示することが重要だ。

 東京ドームに設置された巨大なステージセットと、その背面に左右に長く広がるLEDスクリーンは圧巻の一言で、これを目にしただけでもどんな演出が用いられるのか、開演前から期待が高まる。しかも、今回のツアーではオープニングから最初のMCまで(曲数にして5曲)、ペンライトの使用が制限されるという、欅坂46時代の1stツアー『真っ白なものは汚したくなる』を彷彿とさせる演出まで用意されている。もちろん、あの頃とは手法や意味合いはまったく異なるものの、菅井にとってアイドル人生最後のツアーにおいてこうした原点回帰的な演出が用いられることは非常に興味深い。

 「Overture」を経てライブに突入すると、英語アナウンスに続き無機質なダンストラックに乗せてメンバーが次々とダンスを繰り広げていく。暗闇の中、眩い照明が点滅する中で浮き上がる彼女たちのシルエットは、カッコよさを通りこして美しさすら感じられるものだ。そして、アリーナ後方のサブステージからボックス型フロートに乗って田村保乃、藤吉夏鈴、森田ひかる、山﨑天が登場すると、そのままほかのメンバーと合流して激しいソロダンスを披露。そこからオープニングナンバー「条件反射で泣けて来る」へとなだれ込むと、切れ味の鋭さとしなやかさが同居する見応えあるダンスで、早くもオーディエンスを魅力する。曲中盤ではボックス型フロートに設置されたピアノにセンターの山﨑が寄り添い、髪を振り乱しながらパフォーマンスする場面も用意。その光景からはさながら演劇のようなドラマ性すら伝わってきた。

 曲間には短いSEとともに、ステージ間の移動を含むダンスパフォーマンスもフィーチャー。こうすることで曲と曲の間でテンションが下がることもなく、むしろひとつの物語が目の前で展開されているような感覚も味わえる。また、ペンライトを使用しないことで、観る側も目の前で展開される激しい照明演出とメンバーのシルエットが生み出す唯一無二の世界観に集中することができるという利点もある。緩急に富んだダンスが魅力の櫻坂46だからこそ、こういう形でパフォーマンスに集中させる演出からは、現在のスタイルに対する送り手側の自信も伝わる。

 ライブは以降も「BAN」「Dead end」と、曲を重ねるごとに会場の熱量が高まるセットリストを用意。両曲のセンターでもある森田はもはや王者の風格すら漂わせており、特に「Dead end」での玉座のようなソファーにどっしり腰を据える姿からは強烈なオーラを感じ取ることもできた。数々のライブを経験した結果、櫻坂46を牽引していこうとする自信がついたことが、こうした成長を導いたのかもしれない。

 それは森田のみならず、先に紹介した山﨑や「流れ弾」で狂気じみた表情とパフォーマンスで目を惹く田村、「なぜ 恋をして来なかったんだろう?」で弾けるような笑顔を見せながらワイヤーアクションによるフライングパフォーマンスを披露した藤吉も同様で、ここ1年はライブのたびにものすごいスピードで表現力の高さやセンターとしての自信を身につけていることに気付かされる。菅井がこのタイミングに卒業を選んだのも、こうした後輩たちの急成長が理由のひとつになっていることは間違いないだろう。

 

 ペンライトの使用解禁以降は、曲ごとにさまざまな表情を見せるユニット曲が連発される。苦楽を7年にわたり共にした一期生だからこその歌詞をポップなメロディで表現した「タイムマシーンでYeah!」、藤吉&森田がクールさに全振りしたモダンなダンスチューン「One-way stairs」、井上梨名と大園玲、田村の3人が柔らかさと優しさを漂わせる「ずっと 春だったらなあ」、武元唯衣に守屋麗奈、森田、山﨑が優雅さと可愛らしさで魅せる「制服の人魚」と、そのバラエティ豊かさは1年前のツアーでは想像もつかないほど広がりを見せている。と同時に、曲ごとに異なる表情を見せる彼女たちの成長ぶりにも驚かされるものがあり、この多様性こそ今の櫻坂46の個性であり魅力なのかもしれない。

 さらに、スケール感の大きな名曲「五月雨よ」では最年少ながらも堂々としたセンターぶりを見せる山﨑が、優しくも憂いに満ちた表情で楽曲の世界観を見事に表現。その後も2年前のリリース時以上の重厚感と頼もしさが伝わるデビュー曲「Nobody's fault」、土生瑞穂が中心に立ちポジティブさを振り撒く「I'm in」、グループとBuddies(=櫻坂46ファン)の強い絆を再確認する1曲「Buddies」と緩急に富んだ楽曲が連発される。武元や大沼晶保などの、曲に合った表情作りが印象に残った「車間距離」、繊細な振り付けと大きく体を使うダンスが混在する「恋が絶滅する日」を経て、最後は森田&山﨑をダブルセンターに据えブレイクダンスをフィーチャーした「摩擦係数」でクライマックスを迎えた。この曲で本編を終える今回のライブおよび本ツアーは、まさしく現編成での集大成と言えるもの。だからこそ、楽曲終了と同時に「Thank you TOKYO」の文字でバッサリと締め括られる潔さも納得がいく。

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