一青窈、中野サンプラザで辿った20年の軌跡 朗読を交えて伝えるリスナーへのメッセージ
10月30日、『一青窈 20th ANNIVERSARY SPECIAL LIVE ~ アリガ二十』が中野サンプラザホールにて行われた。タイトル通り、この日は一青のデビュー20周年記念日。老若男女問わず幅広いファンが、一夜限りのプレミアムな夜に集った。
いくつもの音楽劇を観たようであり、1本のあたたかな映画を観たような、充足と放心の時間。ライブレポートを書くときには冷静であるよう努めているのだが、一青のライブはそうはいかない。いちいち心が揺さぶられ、ペンを持つ手が何度も止まった。
夕暮れを告げるチャイムの音をきっかけに、思い出を辿るような、ノスタルジックな物語が始まる。1曲目は1stアルバム『月天心』より「ジャングルジム」。ステージをゆっくりと歩き、曲を演じながら、語りかけるように歌う。
続く「Lesson」では一転、クラップを煽り、クールにバンドメンバーを紹介。ダンサーを呼び込むとともに踊りながら、軽やかに歌い上げる。「20周年を迎えられたのも、あなたの、あなたの、あなたのおかげです。どうぞこれからもよろしくね」、「まだデビューから20年しか経ってないんだけど、これからも好きでいてくれる? もしよかったらそのままファンクラブ入ってくれてもいいんだけど」と、アドリブで歌詞を変え、茶目っ気たっぷり。「センキュー!」と、会場のテンションを上げた。
Salyuに歌詞を提供した「Tower」のセルフカバーや、コロナ禍に言の葉を紡いだ「かたつむり」、12月リリースの最新アルバム『一青尽図(ひととづくしず)』収録予定の「腕枕」など、20年間を振り返るだけではない、現役アーティストならではのセットリストとなっている。アレンジや映像演出、舞台装置も凝っている。真っ白な衣装に身を包んだ一青。曲によって、その表現によって、彼女の存在自体が放つ色は、赤にも青にもガラリと変わる。それがステージライティングとぴたり合致していて、会場を、楽曲の世界へと染め上げる。
表情や仕草、声色は、ときに少女のようであり、母のようであり、あるいは女神のようにさえ思えた。これはライブなのか、ライブという名の演劇なのか。一つ言えるのは、どの曲、どの歌詞も、二度と同じものはないということだ。一青は、その時その時の思いを真っすぐに、感じるままに伝えてくる。
優しいボーカルから、芯のあるロングトーンを響かせた「さよならありがと」、アコーディオンの音色から始まり、思い出を辿るような「あこるでぃおん」、しなやかに踊りながら、サビでチャーミングなポーズを決める「ピンクフラミンゴ」、続く「犬」では、激しいドラミングと歪むギターサウンド、うねるベースラインに呼応して、叫ぶようなボーカルを聴かせた。その声は、どこまでも伸びてゆく。
いずれの曲でも、四方八方に視線を向け、手を差し伸べ、声に乗せて思いを伝える。歌詞が明瞭に聞き取れることに加え、一青のステージは「歌」でありながら一曲一曲が、ストーリーを描くノンバーバルコミュニケーションのようだ。