曽我部恵一(サニーデイ・サービス)×難波里奈 特別対談 世代を超えて愛される喫茶店と、そこに根付く文化の魅力

曽我部恵一×難波里奈、喫茶店の魅力

 カンロ株式会社より発売されている「ノンシュガー茶館シリーズ」がリニューアルした。

 同シリーズは、「珈琲茶館」「紅茶茶館」「抹茶茶館」「ミルク茶館」の4品・各2種類の味を展開するノンシュガーキャンディ。“喫茶店”をモチーフにした、ホッと一息つかせてくれるような素朴な味わいは、2001年の発売開始から現在まで長年愛されている。

 リアルサウンドでは、本商品のテーマである“喫茶店”にちなみ、ミュージシャン随一の喫茶店好きである曽我部恵一(サニーデイ・サービス)と東京喫茶店研究所二代目所長 難波里奈の対談を企画。曽我部恵一も足繁く通っているというトロワ・シャンブル(下北沢)にて、二人が愛してやまない喫茶店カルチャーの魅力をはじめ、それぞれの楽しみ方や思い出のエピソードなどをたっぷりと語ってもらった。(リアルサウンド編集部)

インターネットが生まれる前の文化が残る、喫茶店の魅力

――お二人はイベントで共演されることも多く、難波さんの著書『純喫茶、あの味』に曽我部さんが文章を寄稿されたり、『純喫茶とあまいもの』の帯文を書かれたりもされていました。交流はいつから始まったのでしょうか。

難波里奈(以下、難波):もともと、私は曽我部さんのファンなんです。初めてサニーデイ・サービスのライブを観るために広島まで遠征したんですよ。2000年に解散(※2008年に再結成する)されてしまった後も、変わらず好きで……もはや曽我部さんは私の中の神様なんです。初めてお会いしたのは2016年の夏頃で、『純喫茶、あの味』に寄稿していただいて、その出版記念イベントの打ち合わせで顔合わせをしました。

曽我部恵一(以下、曽我部):それ以降も、難波さんがイベントをやる時に呼んでくださったり、こうやって対談したりとか、たびたびお仕事をさせていただいています。

――初めてイベントのオファーが来た時は、どのような印象を持たれましたか。

曽我部:僕も喫茶店が好きなので「これは絶対に面白いだろうな」って。まだ、その頃は純喫茶とか喫茶店って、今ほど若者に親しまれていなかったと思うんですよ。「僕よりも年齢の若い方で、喫茶店が好きな人がいるんだな」と嬉しくなりました。

曽我部恵一(サニーデイ・サービス )

――ここ数年は、雑誌やムック本でも喫茶店を取り上げる企画が増えましたね。

曽我部:それは難波さんの影響がすごく大きいと思います。最近は喫茶店に行くと若い人たちが多くなったし、お店に活気がありますよね。

難波:曽我部さんと初めてイベントをした頃は、ある意味マニアックなファンの人たちが集まった感じだったのですが、最近では喫茶店での対談とか、たくさんお話する機会をいただけるようになって。喫茶店という世界が、馴染みのないものではなくなって、皆さんの日常になった気がしますね。

曽我部:そうですね。何年か前だったら、若者は喫茶店よりカフェの方が好きでしたから。

難波:そうなんですよね。「喫茶店は敷居が高い、入りづらい」というイメージが、最近の若い人たちの中でなくなってきたようで、それはとてもいいことだなと思います。

曽我部:いいですよね。やっぱり喫茶店は、コーヒー一杯でずっと喋っていられる文化があって、それがまた戻ってきた。ちなみに僕が若い頃に通っていた喫茶店では、将棋盤を貸してくれたんですよ。

――くつろいじゃいますね。

曽我部:カフェと違って、喫茶店は「のんびりしていってね」という姿勢が前提にあると思うんですよ。

難波:今、カフェだとパソコンで作業をしている人はいますけど、さすがに将棋をしてる人はいないですよね(笑)。喫茶店はそれが許される雰囲気だったりもして。

曽我部:おじいちゃんが朝から新聞を読んでたりとか、そういう感じがいいんですよね。

難波:家じゃないのですけど、節度のある自分の部屋みたいな感じで。

曽我部:本当にそう。原稿を書いたり、本を読んだり、家でもできるようなことを喫茶店ですると、ちょっと気分が違って。はかどるということでもないんだけど、なんだか家と外の中間くらいの感じなんですよね。

難波:周りの人たちの目を介しているので、ちゃんとしなきゃいけないと思いつつ、でも自分の部屋みたいな気さくな雰囲気もあって。ちょうどいい、くつろげる場所ですよね。

難波里奈

――お二人が喫茶店を好きになったきっかけはなんだったのでしょう?

曽我部:仕事や子育ての息抜き、今考えると夫婦喧嘩をした後だったのかもしれないけど、母が子供の僕を連れて、夜に家から車で数分ほどの場所にある喫茶店へ連れて行ってくれたんです。当時の僕にはすごく大人な空間に見えた。母はコーヒーを頼んで、僕はジュースを飲んでいたのかな。そこが、最初の純喫茶体験でした。非日常にいるような感じで、カッコいいなと思いましたね。それで上京してからは、下北沢とかで喫茶店を見つけたら入るようになったんですよね。

難波:今のお話は『純喫茶、あの味』に寄稿していただいているので、ぜひ読んでいただけたら嬉しいです(笑)。

曽我部:東京の喫茶店は大人な空気というか、マスターもお客さんも落ち着いていて、昔の文化が残っているのがいいなと思うんです。古いけどカッコいい、みたいな。だから今の若者たちが純喫茶に惹かれるのも、すごくよくわかる。インターネットが生まれるよりも前の文化がまだ残っていますからね。とにかくコーヒー一杯で、いろいろ語りあったりとか、本を読んだり好きな時間を過ごせるのが好きで、喫茶店にハマっていきましたね。

難波:2000年頃にカフェブームが到来して、街の至る所にカフェがあったんです。照明が白っぽくて明るかったり、窓が多かったり、椅子がちょっとハイチェアの北欧家具だったり。当時の私には洗練されたカフェという空間がまぶしすぎて、キラキラしている場所に自分がいるのがいたたまれなかったんです(笑)。気にしすぎなのかもしれませんが、同年代の人たちの視線などを気にしてしまう時期だったのもあって。それで喫茶店に入ってみたら、年齢層も違いましたし、誰も他の人のことを気にしないんですよ。ほっとかれている感じがあって、それがとても居心地が良かった。あとは、照明が控えめで、オレンジ色の光も落ち着きますし、時間に馴染んだ佇まいも好きでしたね。流行とは全然関係ないところにあった純喫茶という存在に惹かれていきました。

曽我部:僕も若い頃を振り返ると、カフェのオシャレな感じに憧れて行ったりしたんですけど、やっぱり周りのみんながイケてるので「大丈夫かな? 馴染めているかな?」という不安が強くて。僕らがバンドをやり始めた頃は、いわゆる“渋谷系”と言われる文化とカフェは密接な関係にあって。その界隈の人たちはどこに住んでいようと渋谷とか青山に行っていたんですよ。店内に『欲望』やジャン=リュック・ゴダール作品のポスターが貼ってあって、自分も映画を観たんですけど、よくわからなかった(笑)。場所を変えて喫茶店に行くと、居心地が全然違ったんです。それから僕は、わざわざ背伸びをしてカフェに行かなくても、自分が住んでいるところで良い喫茶店を探すのが面白いと思ったし、そこでカッコいい文化を追求できるんじゃないかなと思ったんですよね。

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