古市コータロー(THE COLLECTORS)×曽我部恵一が語り合う、東京の街から生まれる音楽

古市コータロー×曽我部恵一“東京”対談

 古市コータロー(THE COLLECTORS)がソロアルバム『東京」をリリースした。前作『Heartbreaker』(2014年11月)以来、約4年半ぶりとなる本作には、制作陣に浅田信一、曽我部恵一、脚本家の岡田惠和、さらに古市が敬愛する仲井戸麗市、内海利勝などが参加。「78年から82年あたりをイメージしていた」という音楽性、古市が生まれ育った東京への思いが濃密に表現された作品となった。シンガーとしての古市の個性がしっかり伝わってくるのも、本作の魅力だ。

古市コータロー『東京』特典DVDティザー

 アルバム『東京』のリリースを記念して、古市と収録曲「ROCKが優しく流れていた」の作詞を担当した曽我部の対談を企画。アルバムの制作秘話、さらに“東京と音楽”を軸に語り合ってもらった。(森朋之)

曽我部恵一に作詞を依頼した理由

古市コータロー

曽我部恵一(以下、曽我部):(アルバム『東京』のCDを手に取り)こういうジャケットなんですね。この写真、誰が撮ったんですか?

古市コータロー(以下、古市):川島小鳥くん。

曽我部:あ、小鳥くんか。いい写真ですね。

ーーおふたりが初めて会ったのは、90年代ですか?

古市:そうだね。初めてしゃべったのはトラブル・ピーチ(下北沢の老舗ロックバー)かも。

曽我部:だとしたら覚えてないですね。だってトラブル・ピーチは最終地点じゃないですか。

古市:朝4時とかだよね(笑)。あとは仙台のイベントで話したような気もするな。サニーデイ・サービスが売れたのって、何年だっけ?

曽我部:売れてないですよ(笑)。

古市:『笑っていいとも!』に出たのは?

曽我部:98年ですね。

古市:じゃあ、その頃だ。『笑っていいとも!』の話をしたから。

ーーサニーデイ・サービスが『東京』をリリースした2年後、アルバム『24時』を出した年ですね。

古市:コレクターズがアルバムを出してない年だね。前年に『HERE TODAY』を出して、99年に『BEAT SYMPHONIC』を出して。CDが売れてた最後の時期だ。

曽我部:そうか。

ーーあれから20年ですね……。では、古市さんの新作『東京』について聞かせてください。「ROCKが優しく流れていた」は曽我部さんが作詞を担当していますが、これはどういう経緯だったんですか?

古市:自分で書ける気がまったくしなかったし、もともと曽我部には何かお願いしたいと思ってたんです。サニーデイの『DANCE TO YOU』というアルバムがすごく好きで、あんな感じで歌詞を書いてほしいなと。

曽我部:ありがとうございます。

古市:何かの用事で電話して、そのついでというわけではないけど、歌詞を書いてくれませんか? とお願いして。

ーー「ROCK〜」のメロディは古市さんが15歳のときに思い付いたそうですね。

古市:頭のメロディね。いつか形にしたいと思ってたんだけど、40年経っちゃったから、そろそろやろうと思って、Bメロとサビを作って。

曽我部:「少年の頃の曲」みたいな話って、聞いてないですよね?

古市:一切してない。なのに歌詞の内容がそういう感じだったから、ビックリして。

曽我部:なんとなく、そういう雰囲気を感じたんでしょうね。

古市:感激しましたよ。

曽我部恵一

ーーやはり古市さんを思い浮かべながら書いた歌詞なんですか?

曽我部:そうですね。コータローさんの生い立ちや青春を勝手に想像して、コータローさんになったつもりで書きました。調べたりはしてなくて、すべて妄想ですね。人に歌詞を書くときは、それが楽しいんですよ。「こんな恋愛してたんじゃないかな」とか。

古市:素晴らしいですよ。最初に歌詞を読んだときは「歌えるのかな」って心配だったんだけど、歌詞の意味をそのまま捉えて普通に歌ったら、ぜんぜん大丈夫で。すんなり、気分良く歌えました。

曽我部:そう、気分良さそうに歌ってるのがいいですよね。この曲だけじゃなくて、全編そうなんだけど、スターが「どうぞ、歌ってください」と言われて歌ってるような感じがあって。(CDのブックレットを見て)自分で作曲してない曲もけっこうあるんですね。

古市:うん。生粋のソングライターではないし、いろんな人に書いてもらって、それを演じるように歌いたい気持ちもあるので。自分も書けるから、ちょっとは書くけどね。全部自分で書いた曲だと、しらけると思うんだよ。

曽我部:そういうアルバムも聴いてみたいですけどね。

古市:昔は「できるだけ自分で書こう」と思ってたんだけど、いまはそうじゃなくて。いろんな顔が見えるほうがいいし、遊び心もほしいから。

曽我部:そういうスタンス、いいですね。贅沢な感じがするというのかな。ジュリー(沢田研二)、ショーケン(萩原健一)のアルバムを聴くと「贅沢だな」と思うんだけど、似たような雰囲気があるんですよ。

古市:それはすごくわかる。

曽我部:芸術性や統一感みたいなものは求めてなくて、贅沢なロック感があるというか。それって、現代ではなかなか出せないじゃないですか。音質を含めて、すごくこだわってるなって思いました。

古市:78年から82年くらいの雰囲気をイメージしてたんだよね、今回。あの頃のシティポップだったり、それこそショーケンや(松田)優作のアルバムだったり。当時はパンクロックに夢中だったんだけど、そういう音楽も耳には入ってきてたし、記憶にも残ってるから。ここ数年、その時期の音楽をよく聴いていたし、それがどうミックスしたのかわからないけど、いまの気分でやるならそういう感じかなと。

曽我部:どんな音楽を聴き返してたんですか?

古市:YMOのデビューの頃とか、上田正樹、竹内まりや、山下達郎、南佳孝とか。さっきも言ったけど、サニーデイの『DANCE TO YOU』もよく聴いてたよ。あのアルバムはどういう感じで作ったのか知りたかったんだよね。

曽我部:シティポップのトレンドには絶対に乗りたいと思って。でも、作ってるうちに時間が経ってしまって、トレンドが過ぎちゃったんですよ。もっといいタイミングでバシッと出したかったんだけど。

古市:世の中的には早いほうだと思うけどね。

曽我部:そうなのかな? あとね、僕はどっちかというと、フォークや日本語のロックがルーツで、洗練されたシティポップはそれほど聴いてなかったんです。シュガー・ベイブは好きだけど、達郎さんの曲はそれほどコピーしたことがなかったり。それもあって、一度、そっちのスタイルでやってみたかったんですよ。

古市:なるほど。2曲目(「冒険」)なんて、ボズ・スキャッグスの「Lowdown」みたいだもんね。

曽我部:そうそう。まさに「Lowdown」のビートでやろうと思って。

古市:そうだよね。最初はApple Musicで聴いてたんだけど、アナログが欲しくて、買いに行ったら売り切れで。電話して聞いたら、また出るっていうから、取り置きしてもらってます(笑)。

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