ヤングスキニー、若者の共感呼ぶ“矛盾だらけな日常の歌” コロナ禍での結成からライブの集客へと繋がった背景

ヤングスキニー、若者の支持を集める背景

 突如コロナ禍に見舞われ、いくつものライブが中止・延期を余儀なくされた2020年。様々なアーティストが試行錯誤しながら無観客配信ライブにトライし、新しいライブの形として浸透するも、果たして配信ライブは若手フックアップの役割を果たせるのか、観てもらうまでのハードルが高く、すでにある程度認知度のあるアーティストでなければ厳しいのでは、という論もあった中で、2020年後半から2021年にかけて、感染症対策を講じた上で有観客ライブが徐々に復活し始めた。

 2022年現在では、全国各地でフェスやサーキットイベントが毎週末のように開催されていて、個人的には去年よりも“戻ってきた”という感覚がある。筆者は東京の新宿・下北沢・渋谷で3日間にわたって開催された『TOKYO CALLING 2022』に行き、そこで、SNSを活用することでライブができずとも楽曲をリスナーに向けて発信し続けた新世代バンドが、観客に歓迎されている様子を見た。これまでのバンド活動において当たり前だった“たくさんライブをすることで泥臭く下積みを重ねる”ということはできなかったが、やっとリスナーに対面できたこの状況の中で自分たちの音楽をまっすぐに届けようとするバンドの姿も、シーンで躍動中の新しい才能をしっかりキャッチし、ライブ会場に足を運ぶリスナーの姿も頼もしく感じられた。

 本稿で言及するのは、様々なサーキットイベントで入場規制がかかるほど観客を集めている4人組バンド、ヤングスキニー。一人でSNSにオリジナル曲や弾き語りカバー動画をアップしていたかやゆー。(Gt/Vo)がSNSでメンバーを募集したことをきっかけに始まったバンドで、結成は2020年8月。当初から所属していたゴンザレス(Gt)に加え、りょうと(Ba)、しおん(Dr)も揃い、現体制になったのは2021年7月。最初に発表した曲は「世界が僕を嫌いになっても」で、2020年12月にEggsで同曲を初公開すると、ウィークリーアーティスト&ソングスランキングのトップに躍り出た(※1)。翌年2月に公開したMVも話題となり、TikTokでは人気インフルエンサーたちがこの曲を使って歌う動画を投稿。一般ユーザーによる投稿も急増し、認知が広がっていった。

 YouTube、TikTok、Instagram、Twitterなどバンドの公式SNSアカウントでは、MVだけでなく、弾き語りカバー動画やコード解説など様々な動画が投稿されていて、時には、ライブのリハーサルで少しだけ披露したメンバーの好きなあのバンドのカバーや、ライブ本編の映像までチラ見せしてくれる。また、それらのコンテンツとVlogやダンス動画、メンバーのカラオケ大会などの企画ものがフラットに並んでいるのが、2000~2003年生まれの世代ならではという印象だ。こういったマメな発信が“いざライブをやれば、彼らの音楽を求めて多くの人がやってくる”という状況に繋がったのだろう。これまでに開催したワンマンライブは、現在開催中の東名阪ツアー(『保証はないけどあなたを幸せにできる気がするワンマンツアー』)も含め、全公演ソールドアウトしているという。

第一回 ヤングスキニーカラオケ王 【憂鬱とバイト】

 “君さえいれば全世界の人々を敵にまわしたっていい”という意味の〈世界が僕を嫌いになっても〉というフレーズが、両想いで幸せ真っ只中の無敵状態からではなく、この恋はもう終わったと分かっている状態から、“それでも想いを断ち切れないんだ”というニュアンスで発せられる失恋ソング。「世界が僕を嫌いになっても」はそんな曲であり、バンド自身が掲げているキャッチコピー「嘘だらけで、矛盾だらけな日常の歌を歌う」(※2)がまさに体現されている。理屈ではどうにもならない感情に悩まされながら生きる人間の本来的な部分を捉えた歌詞が、10~20代のリスナーの共感を呼んでいるのだ。人懐っこいような、気だるいような、温かいような、寂しいような歌声もバンドの描く物語に必要不可欠だ。

ヤングスキニー - 世界が僕を嫌いになっても 【Official Music Video】

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