Acid Black Cherryの音楽が求められ続けているのはなぜか yasuがシーンの中で築いた独自の存在感
1月27日、自身の誕生日にAcid Black Cherryのyasuからうれしいニュースが届いた。Acid Black Cherryのプロデューサー・菊池真太郎氏が立ち上げた新レーベル・LtOVESの第一号アーティストとして、全11タイトルのアルバムが新たなミックス/マスタリングなどを施して各種音楽サービスでリニューアル配信されたのだ。
Acid Black Cherry
LtOVES所属第一号決定&サブスク完全解禁!https://t.co/8LaZauIeDh— TEAM AcidBlackCherry (@TeamABCofficial) January 26, 2025
1月上旬、Acid Black Cherryの楽曲が配信サービスや公式YouTubeチャンネルから消えた時は大きな騒ぎとなった。SNSではAcid Black Cherryの名前がトレンド入りし、Acid Black Cherryの音楽が今なお多くの人に求められていることを実感したものである。2017年に活動休止を宣言したプロジェクトが愛され続けているのはなぜか。このタイミングに、あらためてAcid Black Cherryの音楽や活動について振り返ってみたい。
Acid Black Cherryは、Janne Da Arcのボーカルであるyasuが2007年に始動させたソロプロジェクト。シングル『SPELL MAGIC』でデビューし、その後リリースしたシングル19枚、オリジナルアルバム4枚はすべて「オリコン週間チャート」で5位以内を記録している。ほぼすべての楽曲の作曲/作詞/編曲をyasu自身が担当している作品群は、ボーカリスト・yasuとしてはもちろん、プロデューサー、クリエイターとしてのyasuの才能が強く感じられるものばかりだ。
Acid Black Cherryの作品の特徴として、アルバムごとにストーリーやコンセプトが設定されていることが挙げられる。「七つの大罪」をコンセプトとした1stアルバム『BLACK LIST』から始まり、2ndアルバム『Q.E.D.』では実際の冤罪事件をモチーフとした物語、3rdアルバム『『2012』』では「生きる」をテーマに“終わりゆく世界で生き抜く人々”を描いた。
その到達点と言うべき作品が4thアルバム『L-エル-』だ。エルという女性を主人公としたストーリーに添った楽曲を収録し、コンセプトストーリーブックも同梱。リリース後にストーリーブックが書籍化され、さらにアルバムを原作とした同名映画が公開された。映画のイメージアルバムやサウンドトラックが作られることは多いが、音楽アルバムの映画化はかなり珍しい。それだけしっかりとした世界観を持つ作品だったと言える。
もともと漫画家志望だったyasuの嗜好もあるが、彼はただ作家として夢物語を紡いでいたわけではない。自身が生きていくうえで感じたこと、大切にしたいこと、伝えたいこと――綺麗事だけでなく、愛や孤独、嫉妬や独占欲といったリアルな感情をストーリーに落とし込み、登場人物や語り手を自らに憑依させて歌いあげる。そのスキルが卓越しているのだ。
一聴してすぐに「yasuの声だ」とわかる個性を持ちながら、儚い少女にも、強く美しい女性にも、一途な青年にも、冷酷な男にもなる。声色や発声を大きく変えることなくその振り幅を表現できるのは、ひとえに繊細な共感性ゆえだろう。あらゆる感情に寄り添う歌だからこそ、男女や年齢問わず感情移入できる曲が必ずあり、それを入り口にAcid Black Cherryの奥深い世界にハマってしまう。バンドの音楽をあまり聴いてこなかった人々を含め、幅広い層から支持を集めている理由はそこにある。
そもそもJanne Da Arcのボーカルとして、ロックを軸にジャズやファンク、歌謡曲などさまざまなジャンルの要素を盛り込んだ楽曲を歌いこなしてきたyasu。Acid Black Cherryの活動で表現力をさらに開花させていった彼の歌を堪能できるのが、カバーアルバム『Recreation』シリーズだ。
2008年から2017年にかけて4作リリースされ、自身が愛聴していた楽曲を中心に、チェッカーズ「ジュリアに傷心」、シャ乱Q「上・京・物・語」、BOØWY「CLOUDY HEART」などロックの名曲から、久保田利伸「流星のサドル」やAKB48「フライングゲット」まで幅広いカバーが収録されている。なかでも聴きどころなのは、やはり女性シンガーの曲。工藤静香「恋一夜」や中森明菜「スローモーション」、さらには欧陽菲菲「ラヴ・イズ・オーヴァー」や “シャンソンの女王”越路吹雪の「ラストダンスは私に」といった難易度の高い楽曲まで、yasuらしい解釈を交えて情熱的に歌いあげるカバーは見事だ。
今や、Janne Da ArcもAcid Black Cherryも一般のリスナーからバンドマン、VTuberまで多くの人にカバーされ、yasuをリスペクトするボーカリストは多い。彼が名曲をカバーして歌い継いできたように、彼の楽曲も歌い継がれていくに違いない。