カネヨリマサル、『昨日を生きない私達へ』に込めた“今届けたい思い”　バンドの原点、スリーピースの矜持を語る

　スリーピースロックバンド、カネヨリマサルが放つ新作ミニアルバム『昨日を生きない私達へ』。メジャーデビューから約2年、彼女たちは自らの音楽性と向き合い、全員が挑戦を重ねることで到達した新たな境地をこの1枚に詰め込んだ。バンドの原点となる憧れや、自らの限界を超えて進む強い意志――楽曲制作やライブ、そして“今届けたい思い”を本気で形にしたという本作。そのエネルギーを語るインタビューで、リアルな現在地と未来への展望を掘り下げる。（ナカニシキュウ）

「チャットモンチーになりたい」という想いからのスタート

ーーまずバンドの基本的なところから伺いたいのですが、結成の経緯についてはいろんなところでお話しされている印象があるので、もう少しさかのぼって皆さんが楽器を始めたきっかけを教えてください。

ちとせみな（以下、ちとせ）：私は、中学生の時にチャットモンチーに出会ったことが最初のきっかけです。ギター、ベース、ドラムだけで鳴らされるストレートなスリーピースサウンドのカッコよさに感銘を受けて、雷が落ちたような感覚で。それで「この楽器をやりたい！」と思って、もらったギターを弾き始めたんです。

──どなたがくれたんですか？

ちとせ：お母さんの友達が「余ってるからあげるよ」ってフェンダーのギターをくれて。最初にしてはすごくいいものをもらったなと思うんですけど、よく言われる“Fコードの壁”にぶつかったりして（笑）。なので高校では主にキーボードを弾いていて、ギターからは離れた時期もあったんです。でも卒業時に自分がギターボーカルのバンドを組むことになりまして、それがカネヨリマサル。そこで改めてちゃんとギターをやりたい、と思うようになりました。歌を歌い始めたのも、そのタイミングです。

いしはらめい（以下、いしはら）：私がベースを始めたのは中学1年生の時で。それ以前から親の影響でギターをやっていたんですけど、たまたま友達に誘われて入った吹奏楽部でコントラバスという楽器に出会ったんです。「ギターじゃない大きい弦楽器がある！」って、まず見た目に惹かれて（笑）。ただステージに上がれるコントラバス奏者が少なかったこともあって、自動的にベースも弾かざるを得なくなり……。

もりもとさな（以下、もりもと）：「弾かざるを得なくなり」（笑）。

いしはら：ただその当時、私はBUMP OF CHICKENが大好きで、初めてベースというパートの存在を認識した頃だったんですよ。「自分がやってる楽器と一緒だ！」って嬉しくなって、エレキのほうにどんどんのめり込んでいきました。

もりもと：私も中学生の時にBUMP OF CHICKENやRADWIMPSに出会って、バンドという存在を知りました。最初は聴くだけだったんですけど、高校が部活動の活発なところだったんです。もともとあまりやる気はなかったんですけど、友達に連れられて軽音部をチラッと見に行ったら、目の前にめちゃくちゃでっかい打楽器があって、それが音も一番でかくて（笑）。しかも女の人が叩いていたので、そのギャップがすごく印象に残ったんです。「これなら私もできそう！」と思って軽音部に入ったのが、ドラムを始めたきっかけです。

──リズム隊のお2人は楽器の大きさに惚れたところから始まっているんですね。

もりもと：確かに、そうですね（笑）。

いしはら：見た目から（笑）。

──ちとせさんはチャットモンチーが入口ということで、最初から明確にスリーピースバンドを志向していたんですね。

ちとせ：そうです。中学の頃から、できるかどうかは置いといてギターボーカルがやりたくて、スリーピースのガールズバンドを組みたいと思っていました。やっぱり「チャットモンチーになりたい」という思いが強かったんですよね。チャットモンチーに似てるバンドじゃなくて、チャットモンチーになりたかった。憧れすぎて、同じところに行きたかったんです。

いしはら：ちとせがそこまでスリーピースにこだわっていたとは、結成当時はまったく知りませんでした。ちゃんとそういう話はせずに始めたバンドだったので……そんなに強い思いがあったとなると、結果的にちゃんとスリーピースになれてよかったなと思います（笑）。

スリーピースバンドでしか出せない“抜け感”

──でも、スリーピースってシンプルに大変ですよね？

ちとせ・いしはら・もりもと：（声を揃えて）大変です！

ちとせ：ギターも歌もほぼ初心者だったので、最初はとにかく歌いながら弾くということに苦労しました。

いしはら：ギターボーカルだけじゃなくて、実はベースとドラムも4人編成以上のバンドより担うものが多いんですよ。私の感覚だと、負荷が2倍ずつぐらいあるイメージですね（笑）。

もりもと：スリーピースのカッコいいところでもあるんですけど、ギターがリードを弾いている時にどうしても音が薄くなるじゃないですか。そこはスリーピースバンドの弱点でもあり、工夫しがいのあるポイントでもあるなと思います。

いしはら：極端に言えば、ベースとドラムだけで演奏を成立させるくらいの気概が必要なんですよ。あくまで極端に言えばですけど（笑）。きっと、4人以上のバンドをやっていたらこういう考え方にはなっていなかっただろうなと思います。

──僕は個人的にスリーピースバンドが昔から大好きで。どうして好きかというと、合理的じゃないからなんですよ。どう考えてもコスパ悪いじゃないですか。

ちとせ・いしはら・もりもと：あはははは（笑）。

──そこをあえてやっているプライドみたいなものはあるんじゃないですか？

ちとせ：足し算と引き算を3人全員がしっかり考えられないと成立しないので、難しいバンド形態だなとは思います。ただプライドっていうよりは、このやり方が自分たちの音楽に合っている、というほうが大きいかもしれない。人数を増やせば重厚感のある完成度の高い音になるかもしれないけど、それが自分の出したい音なのか？　って考えると、必然的に音数は少ないほうが合ったんだろうなと。

──リッチなサウンドを悠然と出すのではなく、3人が少しずつ無理をしている感じがカネヨリマサルの表現すべき音楽にマッチするんだと。

いしはら：そうですね、無理してる感はあります（笑）。

ちとせ：それによって、1人ひとりのパワーがしっかり出る感じがあって。スリーピースでしか出せない抜け感というか、独特の軽やかさとか疾走感とか、この形ならではのめっちゃいいとこあるんやぞ！　って気持ちでやってはいます。