TETORAが貫く“濃くカッコいい姿勢” 初武道館ワンマンという一発勝負のドキュメンタリーに懸けた想い

TETORA、初武道館ワンマン振り返る

 2024年8月12日に初の日本武道館ワンマンを開催したTETORA。そのライブの模様を収録した映像作品『TETORA 5th DVD 武道館でワンマン』が1月29日にリリースされた。

「先輩たちの(武道館)ライブを観て、“次は私らの番や”」

 TETORAは大阪のインディーズレーベル・Orange Owl Recordsに所属している。上野羽有音(Vo/Gt)いわく、TETORAはインディーズバンドとして、そしてOrange Owl Records所属バンドとして、いつか武道館ワンマンをやりたいとレーベル立ち上げ当初から思っていたそうだ(以下、発言はすべて上野によるもの)。

上野羽有音
上野羽有音

「Orange Owl RecordsはもともとTETORAが音源を出すことに決まった時に、TETORAのために作ってもらったレーベルなんです。だったら私たちがインディーズバンドとして武道館に立てば、きっとカッコいいし、レーベルを作ってくれた渡辺(旭)さんへの恩返しになるんじゃないかと思いました。武道館で一番最初に観させてもらったのは、yonigeのライブでした。他にもMy Hair is BadやHump Back、ハルカミライとTHE NINTH APOLLOの先輩たちのライブを観させてもらって、“次は私らの番や”って勝手に思ってて。漠然と“20代のうちに立ちたい”とも思ってて。でも、『武道館決まりました』と言われた時はびっくりしましたね。私の中では武道館に向けて、何年か前から準備していくイメージやったけど、(スタッフが)私たちに言ってくれたのは結構近々やったので」

 武道館公演は、2024年時点でのTETORAの過去最長ワンマンとなった。全33曲という大ボリュームのセットリストからも、TETORAの武道館に対する思い入れの強さ、並々ならぬ気合いを感じ取ることができるだろう。

「武道館までの日々はあっという間でした。アルバム『13ヶ月』のレコーディングをずっとしてたし、声帯ポリープの手術もしたし、“広げよう”というよりも“磨いていこう”という期間やったのかもしれない。ポリープの手術は、武道館のためにしたようなところもあったんですよ。2020年に大阪城野音(大阪城音楽堂)で初ワンマンをやった時、アンコールが終わったあとに声が枯れちゃって。武道館ではいっぱい曲をやりたいし、ライブが終わっても、打ち上げまでちゃんと声が出るようにしておきたいという気持ちがありました。それが叶ってよかったです」

 DVDには、当日演奏された33曲がノーカットで収録されている。1曲目の「わざわざ」は、上野が弾き語りで歌った〈本当に好きだったら/何もわざわざなんて思わない/誰にもわかってもらえないこと/君と気づいたら確信に変わる〉というフレーズが、全国各地から足を運んだファンに対する感謝、そして「ここから一緒に最高のライブを作っていこう」というバンドの気持ちを言い表しているようで、筆者も当日会場で感動した記憶がある。さらに、本編ラストを担った「2月」はアルバム『13ヶ月』の収録曲で、アンコールで披露された「もう立派な大人」は上野が人生で初めて書いた曲。他の曲にも、上野の想いが詰まっている。

「やっぱり武道館で“わざわざ”やらせてもらっている立場やし、チケットを買ってくれたみなさん、メンバー3人の家族や地元の友達が全国各地から来てくれていることは知ってたので、1曲目は絶対『わざわざ』やなって思ってました。『2月』は“武道館の最後で歌う曲”をイメージしながら作ったから、ちゃんとライブを締められる曲になってよかった。『もう立派な大人』を武道館に持ってこられたのも嬉しかったです。(感慨深げにトラックリストを見ながら)……そうか、こんなにやってたんですね。2~4曲目の『7月』『8月』『9月』は、意図的にアルバム『13ヶ月』の曲順通りにしました。『うわっ、CD通りや!』って気づけるのはCDを買ってくれた人だけなので、そういう人が楽しめるポイントを作りたいなと思って。『イーストヒルズ』をやるのはちょっと久しぶりだったんですけど、この曲の時は本当の感情をいっぱい出していいみたいな感覚が自分の中にあるから、武道館での『イーストヒルズ』をちゃんとやれていたらいいな。

 『ネコナマズ』でみんなが腕につけていたライト(PIXMOB)が水色になった時はめっちゃ感動したし、『憧れ』を家族がいる前で歌うのは初めてやったなって。家族の歌で、泣きながらレコーディングをした唯一の曲なんですけど、泣かずにちゃんと歌えてよかったです。ライブ中、人生で初めて『これ、もしかしたら親孝行になってるかも』と思った瞬間があって。自分勝手に曲作って、自分勝手にギター弾いて、自分勝手にバンド組んで……ずっと自分勝手にやってきたのに、“こんなにも親が喜んでくれるんや”って感じたんですよ。武道館は思ったよりもお客さんの表情がよく見えて、ちょっと照れましたけど(笑)、いろいろな人の気持ちがいっぱい伝わってきました。自分自身も“生きているうちにこんなに感動することってない”というくらい心が震えていたので、お互いの気持ちが溢れて、膨らんで、体が爆発しそうな日やったなと思います」

ミユキ
いのり

「なんで心が震えているのかを、空気で感じ取ってほしかったんです」

 武道館でのTETORAは、自身の感情をリアルタイムでさらけ出しながら音楽を鳴らしていた。最初の4曲を演奏し終えたあと、上野が「これが武道館か」と呟いた直後、オーディエンスに対して「ありのままの3人の人間の姿をしっかり見ててほしい」と伝えていたのが印象に残っている。そのあとの上野は「楽しい」と笑顔を見せたかと思えば、MCを予定していなかった箇所でふと湧いてきた感情を言葉にし、ライブのクライマックスでは「今の気持ち、喜怒哀楽の中にない気がする。言葉にできない感じ」と実感を語った。TETORAのライブはエンターテインメントではなく、再演なし、一発勝負のドキュメンタリー。だからこそ、2024年8月12日の日本武道館でしか見られなかったバンドの姿を、逃さずに収めたライブDVDにはとても価値がある。

「“武道館には魔物が棲んでいる”と武道館ライブを経験したバンドの人たちから聞いていたので、怖がらへんようにとずっと気をつけてました。なので、レーベルの先輩以外のアーティストの武道館にチケットを買って観に行ってみたり、お客さん入るとこんなに見え方が違うのかって予習をして。そしたら思っていたよりも平気だったけど、ステージに出ていく瞬間はやっぱり緊張しましたね。スタッフさんの緊張も伝わってきたし。心臓バクバクして、実は直前まで一人でトイレにこもってました。だけど、渡辺さんが『スタッフのみんなも、TETORAに楽しんでほしいと思いながらやっているんだから、3人が楽しまないと』と声を掛けてくれて。それまでは『どれだけカッコいいライブにできるか』ということを考えていたけど、確かに、楽しむことが一番やなと思えて。あと、最初の弾き語りでは緊張で指が固まっちゃったんですけど、2人(いのり、ミユキ)の楽器の音が合わさってからは『よし、バンド始まった!』という感じで心強かったです」

 人は大人になるほど、自分の感情に蓋をしたり誤魔化したりするようになるものだが、TETORAは鹿爪らしい人になることを拒否するように、爆音を鳴らし、泥臭い感情を音楽の中で叫ぶ。そういったロックバンドの息吹は、画面越しでもきっと生々しく伝わってくるはずだ。

「“1回目の武道館”をちゃんとできたかなと思ってて。もしかしたら次に武道館に立つ時は、私らも『緊張してないぜ!』って感じかもしれないけど、初めてって1回しかないから。1回目の武道館しか得られない感情をちゃんと掴みたい、抱きしめたいと思ってました。私が最初緊張していたのは見ている人にも伝わったかもしれないけど、緊張ってハズいことでもないし、隠さないとアカンことでもない。それよりも、今の自分たち自身がなんで心が震えているのかを、言葉じゃなくて空気で感じ取ってほしかったんです」

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