チャーリーxcx、海外メディア年間ベストを総なめ 大統領選まで“緑”に染め上げた影響力

昨年末、チャーリーxcxは自身の非公開のInstagramアカウント(ただし、定期的に一般に公開される)に、2023年の夏に書き上げたという『BRAT』に関するマニフェストを公開した。下記はその筆者訳である。
「『BRAT』のアートワークは、反抗的で、傲慢で、大胆なものになる。なかには嫌う人もいるだろう。テキストに重きを置き、無地の背景にフォントを配置し、壁や、普段は見過ごされてしまうような物体へと描いていく。
私がすることに一切の説明はない。答えは常に「ノーコメント」だ。私たちは欲望、混沌、そして破壊を育んでいかなければならない。アルバム全体におけるキャンペーンは優れた芸術だが、大衆芸術とセレブリティの利点を理解することもまた重要だ。これら二つの組み合わせこそが要となる。
(中略)あなたは私のビジョンを理解しなければならない。これは世界的なものとなる。私は推進力を与え、レーザーのように狙いを定め、物語を語る。私たちは、すべてにおいて力強さと確信を持って実行しなければならない。天使たちは準備を終えて待っている。今こそ、その時だ」
「悪ガキ」を意味する「brat」は、チャーリーxcxが昨年6月に発表した6枚目のスタジオアルバムの名称だが、同時に2024年という一年を象徴するキーワードでもある。誰もが「brat」に憧れ、「#brat」をSNS上で見ない日はなく、英コリンズ辞典は2024年の「今年の言葉」にこの単語を選出し、チャーリーxcx自身による「kamala IS brat」というX(旧Twitter)への投稿はカマラ・ハリスに対する若者からの支持を強く後押しした(結果はご存知の通りとはいえ)。少なくとも、筆者はこれまでアルバムのタイトルが大統領選にまで影響を与えた事例を見たことはない。
kamala IS brat
— Charli (@charli_xcx) July 22, 2024
なぜ、『BRAT』はここまでの現象を巻き起こしたのか? その理由は、チャーリーxcx自身が一年を通して、冒頭で引用したマニフェストを有言実行し続けたからに他ならないだろう。
Y2K的なガラケーの着信音を彷彿とさせるメロディが反復を繰り返す中で、〈I'm your favorite reference, baby〉(私はみんなが気に入っているお手本 ベイビー)と歌い、気品と自信に満ちた表情でカメラのフラッシュライトを浴びる「360」(あるいはシュールでエレガントなMV)は、『BRAT』という作品を見事に象徴している。
また、印象的なライムグリーンをバックに「brat」と雑に印字された同作のアートワークは、発表当時こそ「自身の写真を使うべきでは?」という(女性蔑視的なニュアンスを含む)批判も寄せられたが、やがて世界中の人々が惹きつけられ、そのパロディがSNS上に数え切れないほどに放出されるようになっていった(その中にはカマラ・ハリスの選挙期間中のキャンペーン用アカウントも含まれる)。
シンプルでありながらも印象的、大胆でありながらもエレガント。日々押し寄せてくる大量の情報を突き破るくらいにノイジーだが、極めて冷静でもある。こうしたイメージを、チャーリーxcxは視覚と聴覚の両面から見事に描いてみせた。それは、これまで長きにわたってソフィーやA. G. クック、EASYFUNといったカッティングエッジなアンダーグラウンドのアーティストと熱心に作品を作り続け、一方では、トロイ・シヴァンやThe 1975などの第一線で活躍するポップアーティストや、ジュリア・フォックスといったセレブリティとの交友でも知られている彼女だからこそ実現できるものに他ならない。『BRAT』においても、チャーリーxcxの描いたビジョンを、それぞれのアーティストが自身の役割を遺憾なく発揮することによって、充実した作品が生まれている。