サラ・オレイン、10周年を記念したステージで名カバー披露 歌とバイオリンに乗せて届けられた安らかな時間

サラ・オレイン、10周年記念ライブレポ

 今年デビュー10周年を迎え、4月には前作から3年半ぶりとなるニューアルバム『One』をリリースしたオーストラリア出身のボーカリスト/バイオリニスト、サラ・オレインが7月6日、東京・国際フォーラム ホールCにて『SARAH ÀLAINN 10th Anniversary 〜 One』を開催した。

 この日の公演は、途中15分間の休憩を挟む2部構成。まず第1部では、アニバーサリーらしくこれまでの彼女のキャリアを振り返るようなプログラムを、そして第2部ではアルバム『One』を中心に、彼女の「現在進行形」を見せつけるようなフレッシュなステージを展開した。

 2017年には、映画音楽を集めたアルバム『Cinema Music』をリリースするほど映画好きの彼女らしく、この日のオープニングはセルジオ・レオーネ監督による映画 『ウエスタン』(1968年)のテーマ曲「Once Upon A Time In The West」から。これは一昨年逝去した巨匠、エンニオ・モリコーネのペンによる名曲である。アルバム『One』では、オーケストラとともにたったワンテイクでこの曲のボーカルをレコーディングしたと以前のインタビューで話していたが(※1)、まるで楽器のように声を操りながら、抑揚のあるメロディを正確なピッチで歌い上げる姿は圧巻。続く「言葉にできない」は、デビューアルバム『セレステ』(2012年)に収録されたオフコースのカバー。アコギのアルペジオに合わせて伸びやかに歌い上げる彼女に、客席からは大きな拍手が沸き起こった。

 続く「Beyond The Sky」は、ゲーム『ゼノブレイド』のエンディングテーマ。彼女にとって、“ボーカリスト”としてのデビュー曲となる。続いて女性の中にある“男性的な魂”を描いたというオリジナルインスト曲「Animus」Remix Ver.、イタリアの作曲家ヴィットーリオ・モンティ作曲の「チャールダーシュ」と、“バイオリニスト”としてのサラの側面をフィーチャーした楽曲を2曲披露。すると突然、映画『男はつらいよ』のあの馴染み深いテーマ曲が「チャールダーシュ」の中盤で流れ始め、「わたくし、生まれも育ちもシドニーはオーストラリア。オペラハウスで産湯に浸かり、姓はオレイン、名はサラ次郎。人呼んで『フーテンのサラ』と発します」と、寅さん口調でグッズの販促をし始めると、会場は大いに沸いた。

 チック・コリアがスタンリー・クラークと結成したフュージョンバンド、Return to Foreverの楽曲をボーカル曲としてカバーした「Spain」を経て、ABBAの「The Winner Takes It All」。オリジナルはミディアムテンポの軽快なポップチューンだが、サラはこれを歌詞の持つダークな雰囲気に合わせて「心の葛藤」を吐き出すような、緊張感あふれるアレンジに仕上げている。

 「今はパンデミックや戦争など辛い出来事が次々と起こり、私たちには自分の感情を吐き出せる『安全な場所』がとても大事です。この曲でABBAが、自分たちの夫婦関係における『心の葛藤』を吐き出したように、私もみんながエスケープできるような『安全な場所』を、音楽で作りたいと思っています」とMCで表明したあと、再びデビューアルバム『セレステ』から「Breathe In Me」を。メジャーデビューのオファーを受ける数カ月ほど前に亡くした父に向けた美しい楽曲である。

 「たった一度の人生だから、大事な人との思い出や時間を大切にしたい。どんなに素敵なご縁があっても、いつか必ずお別れの時がきます。大切な人との『お別れ』を経験したあなたにこの曲を届けたい」と話し、天を駆け巡るようなメロディを高らかに歌い上げた。

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