DOBERMAN INFINITY、オールラウンドであり続けるための挑戦 多ジャンルを乗りこなした大ボリュームのアルバムを語る
DOBERMAN INFINITYがニューアルバム『LOST+FOUND』を完成させた。今回の作品は、あまり類を見ないリリース形態になっており、まずは既発曲に6曲の新曲を加えた12曲入りのパッケージ盤を7月6日に発売。そこになんと12曲もの新曲を追加収録し、曲順も変えた全24曲入りを配信限定完全盤として7月20日にデジタルリリースした。グループ史上最大のボリュームとなった本作にメンバーはどのような思いを込めたのか。今回は24曲入りの完全盤の方に着目し、気になるアルバム新曲をいくつかピックアップしてインタビュー。サウンド面についてもたっぷり明かしてもらいながら、8月から始まるツアーへの意気込みも語ってもらった。(猪又孝)
「このタイミングだからこそ、人間の落ちてる部分も表現しないとダメ」
ーーオリジナルアルバムとしては『OFF ROAD』以来4年3カ月ぶりで、途中にベストアルバム『5IVE』(2019年)を挟んでのリリースになります。まずはアルバムが完成した今の気持ちから教えてください。
SWAY:ずっとアルバムを作りたいという気持ちはあったんです。2019年に悲願のアリーナツアーが決まって、そこに向けて『5IVE』を出して、そのあとにアルバム制作に取りかかろうとしたらコロナ禍に襲われて……。なので、ここまで時間が空いたのは仕方ない部分もあると思うんですけど、4年間止まっていたわけではないし、「自分たちの音楽とは何か?」ということをずっと探りながら突き進んできたので。そういう4年3カ月があったからこそ、これだけのボリュームの作品が作れたんだと思います。
ーーコロナ禍が今回のアルバムにどのような影響をもたらしていますか?
P-CHO:今回は、まずアルバムタイトルを決めてから制作に取りかかることにしたんです。そのときの5人の思いは一緒で、コロナ禍を経たからこそ、失いかけていたものをもう一度取り戻しに行こうと。そんな中で、GSが『LOST+FOUND』というすごくバッチリなタイトルを提案してくれました。
GS:正直、コロナ禍で失ったものはたくさんあったなと。でも、コロナ禍を経たからこそ感じられたものもたくさんあったなというところから、『LOST+FOUND』という言葉を思いついたんです。
ーータイトルには、落し物や忘れ物を預かって管理する“遺失物取扱所”という意味がありますが、それよりもLost=失ったもの、Found=見つけたもの、という思いから発想したんですね。
GS:「失わないと見つけられなかったもの」と考えれば、Lostもポジティブに捉えられるんじゃないかと。これまでのDOBERMAN INFINITYを客観的に振り返ると、楽しんでもらいたいとか、勇気を振り絞ってもらいたいとか、聴く人に向けて曲を作り続けてきた感じがあったんです。でも、コロナ禍で正直、自分たちもすごく喰らったので。このタイミングだからこそ、本当の人間の悲しみや闇、落ちてる部分も表現しないとダメだなって。
P-CHO:コロナ禍を生き抜いたからこそ書けた歌詞もありますし、ラブソングも今までだったら恋愛のことだけを歌って終わっていたところが、コロナ禍を経て、もっと些細な愛の大切さを歌えるように成長したと思います。これまでは強い自分たちとかカッコつけた自分たちしか見せられなかったかもしれないけど、弱い部分も歌っていこうとか。
ーー「始まりの途中」には〈今は我慢する事で掴める〉〈お前が耐えてきた意味/ここにあんだ〉という歌詞が出てきます。これはコロナ禍後のリスタートという思いから生まれた曲ですか?
KUBO-C:コロナ禍を経た気持ちと捉えてもらっても大丈夫ですけど、それだけじゃないんです。「始まりの途中」はリスタートということじゃなく、今は何かが始まる前の助走の途中という気持ちで書いた曲です。
ーーそもそも今回のアルバム制作は、いつ頃から始まったんですか?
GS:最初に取りかかったのはーー。
SWAY:2020年の「Superlady」です。
KAZUKI:それと「LOVE IS」ですね。「Citylights」「Superlady」「LOVE IS」を同じ時期に取りかかったけど、「Superlady」はもう歌詞まででき上がってた。
P-CHO:でも、当然そのときはまだ『LOST+FOUND』っていうテーマはなくて。
GS:そのテーマを出して、アルバムを作るぞっていうギアが入ったのは今年1月ですね。
ーー今回、パッケージ盤と配信盤で収録内容と曲順を大きく変えた理由を教えてください。
SWAY:とにかく大量に曲を放出したいっていう気持ちが先行していて。もともとパッケージ盤を出すことは考えていたんですけど、曲数が多くなると2枚組になるのかなぁ、それも違うなぁ……という感じがあって。
ーーパッケージ盤の延長として配信盤があるのではなく、最初から配信盤の方を完成形として考えていたということですね。
SWAY:そうです。
GS:それに今はCDプレイヤーを持っていない人も多いから、24曲を完全盤としてサブスクなどで聴いてもらえるようにしたいし、SWAYが話したように2枚組になってしまうと世界観を1つにできない。「We are the one」から始まって「LOST&FOUND」で終わるという1つの流れが、2枚組になると途中で分離されることになるので。24曲を1つの流れで聴いてもらいたいっていうところで配信の方を選択したんです。
SWAY:だからどの曲をCDに入れるか、悩みましたね。そのときに「We are the one」から始まって「始まりの途中」で終わるっていうのが、本来見てほしい映画のダイジェスト版みたいになるんじゃないかなって。
GS:パッケージ盤はパッケージ盤の世界観。完全盤は完全盤で違う世界観。同時に2種類のアルバムが出たっていう感覚で、2つの楽しみ方をしてもらえると嬉しいですね。
J.L.L.とのやり取りから生まれたストロングスタイルなヒップホップ
ーーリード曲「Backstage Freestyle」はいつ頃、どのようなイメージで作ったんですか?
KAZUKI:アルバム制作の終盤ですね。モロにヒップホップなトラックを探していたんですけど、しっくり来るビートになかなか出会えなくて。そんなときにジャマイカのJ.L.L.というプロデューサーさんから、このビートが送られてきて、「音が全然違うな」となって。海外フレイバーを濃密に感じたので、これは絶対やろうって取りかかったんです。
ーーJ.L.L.は、Drakeのアルバム『Certified Lover Boy』(2021年)にも参加していますし、Koffee、Mavado、Popcaan、Lila Ikéなど、今、最も旬なダンスホールレゲエを生み出しているプロデューサー/ソングライターです。彼とはどのように繋がったんですか?
GS:今回のアルバムで数曲協力してもらったFumiaki “Superman” Ogataさんという日本のエンジニアの方がジャマイカでずっと仕事をされていて。スタッフさんが、知り合いだったOgataさんといろいろ楽曲の相談してくれている中で、この曲で提案してもらったのがJ.L.L.だったんです。
ーー「Backstage Freestyle」は、文字通りフリースタイルで録ったんですか?
SWAY:テーマというテーマはなかったのでーー。
GS:それこそフリースタイルなノリで。
P-CHO:だから、曲名に「Freestyle」と入れたんです。
GS:今回、何も考えずに書いたのはこの曲くらいかも。韻を踏みながら歌詞を書いていったら、こうなったっていう感じです(笑)。
ーーひとり16小節ずつをシンプルにマイクリレーしていく、ストロングスタイルな曲ですが、こういう作り方はむしろ新鮮だったりするんじゃないですか。テーマがあったり、タイアップがあったりすることが増えてきたでしょうから。
SWAY:ここ最近の作り方だと、フレッシュですね。
GS:「Backstage Freestyle」は自分たちがもともと大好きな、90年代後半~2000年代あたりのヒップホップのサウンドをやりたいよねっていう話から始まっていて。そしたら、J.L.L.が送ってくれたトラックがそのイメージに一番近かったから、そこにラップを乗せていったっていう。だから、作り方がヒップホップなんですよね。
P-CHO:アルバム制作の序盤は、テーマが細かく決まっていたり、深いテーマが多かったんです。それもあって、この曲は「パーティっぽい雰囲気を頭の片隅に置きながら書くくらいでいいんじゃない?」って話したんです。
ーー4人のいかついラップに対して、KAZUKIさんが甘い歌声で見事なコントラストをつけています。この曲に限らず、今回のアルバムではKAZUKIさんの歌声が艶っぽさを増したように感じました。レコーディング方法や歌唱法など、何か変化があるんですか?
KAZUKI:歌い方は変わりました。
SWAY:めっちゃ変わったよね。昨日たまたまジムで、自分たちの曲を聴いていたら「SAY YEAH!!」が流れてきて、KAZUKIの声が全然違うと思った。
KAZUKI:年齢でしょうね。なんか以前は若いなぁと思います。2年前の音源を自分では聴けないです。
GS:30代になったから、っていうことか(笑)。
ーーそんな単純なことだったんですか?
GS:僕らね、この年になって、そこと闘ってるんですよ。
ーーアンチエイジングってこと?
GS:いや、むしろ逆で、「若くなりたくない」「年齢相応の深みを出したい」っていう話をよくするんです。だから、こういう「Backstage Freestyle」のようなサウンドも平気でやっちゃったりするんです。
KAZUKI:あと、レコーディングで言うと、特に好きなように歌ってる。それが大きいかもしれないです。
GS:これが自分の本質ってことだ。
KAZUKI:そう。本来のスタイルに一番近いんです。