『AIR JAM』以降の“バンド主催フェス”がロックシーンにもたらした意義 『京都大作戦』『京都音楽博覧会』を中心に考察

 2020年の中止、2021年の国内アーティストのみの開催を経て、3年ぶりに海外アーティストを招聘する『FUJI ROCK FESTIVAL ‘22』(以下、フジロック)。昨年の『SUPERSONIC 2021』を経て、3年ぶりの開催となる『SUMMER SONIC 2022』。2020年、2021年の中止を経て、会場を茨城県から千葉県に移して開催される『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022』。2020年から続くコロナ禍で対策を講じてきた夏フェスの数々が、今年は復活する予定だ。そんな中で、バンドがオーガナイズするフェスも盛り上がりを見せている。くるりが主催する『京都音楽博覧会』は、2020年、2021年のオンライン開催を経て、3年ぶりに本フェスにとってお馴染みの会場である、京都市・梅小路公園にカムバック。10-FEETが主催する『京都大作戦』は、2020年の中止、2021年の2週目の中止を経て、今年は4日間の開催を予定している(前半2日間は無事に終了)。新たにフェスを始めるバンドもおり、WANIMAは地元の熊本で念願の主催フェス『1CHANCE FESTIVAL 2022』を行うことを発表した。

 イベンターなどが主催するフェスとはまた違って、主催バンドの個性や繋がり、ルーツが見えるところが魅力的なバンド主催フェス。現在の潮流の元となったのは、1997年にHi-STANDARDがオーガナイズした『AIR JAM』である。1997年は初めてフジロックが開催された年。つまり、バンド主催フェスは、イベンターなどが主催するフェスと枝分かれしたわけではなく、自ら根っこを生やし育ってきたのだ。しかし、1999年に『RISING SUN ROCK FESTIVAL』(北海道)、2000年に『SUMMER SONIC』と『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』が始まり、さらには同時期に『RUSH BALL』(大阪)や『MONSTER baSH』(香川)など、全国各地でフェスが隆盛していったが、バンド主催フェスが目立ってきたのは、2000年代後半~2010年代のように思う。『京都音楽博覧会』『京都大作戦』の初回は、いずれも2007年(『京都大作戦』は台風の接近により中止、実際の開催は2008年から)。ほかにも、西川貴教が中心となって行っている『イナズマロック フェス』の初回は2009年、『氣志團万博』の初回は2003年だが、千葉県・袖ケ浦海浜公園で毎年のように行われるようになったのは2012年からだ。

 なぜ、イベンター主催フェスのスタートから数年の間が空いたのか。これは私の見解だけれど、『AIR JAM』が大きすぎたのだ。

 2000年代、様々なバンドがインタビューで『AIR JAM』という言葉を口にしていた。『AIR JAM』そのものや出演バンドから受けた影響、いつか『AIR JAM』のようなフェスをやりたいという夢。そんな革命的なフェスと同じ、バンド主催というスタイルを叶えるには、フェス文化の地盤が整うこと、そして、主催できるだけのキャラクター(音楽性やメンバーの性格、バンド同士の繋がりなど含めて)を持つ、さらに『AIR JAM』とは違ったフェスを打ち出せるバンドが登場する必要があった。そして、90年代後半に結成されたくるりと10-FEET、それぞれの機が熟したのが同じ2007年だったのだと思う。どちらも京都出身で、どちらのフェスも京都で開催というところまで揃ったのは、偶然か必然かわからないけれど。

10-FEET ― アンテナラスト ~京都大作戦2016 LIVE VERSION~

 しかし、『京都音楽博覧会』『京都大作戦』が毎年のように開催されることで、バンド主催フェスが根付き、「バンド主催フェス=バンドの地元でやることが多い」という方程式が生まれたことはたしかだ。先述した『イナズマロック フェス』(滋賀)からも、『氣志團万博』(千葉)からも、地元を盛り上げたい思いを感じる。SiM『DEAD POP FESTiVAL』(神奈川)、SHANK『BLAZE UP NAGASAKI』(長崎)、04 Limited Sazabys『YON FES』(愛知)、HEY-SMITH『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL』(大阪)、LACCO TOWER『I ROCKS』(群馬)、G-FREAK FACTORY『山人音楽祭』(群馬)など、ほかの継続しているフェスからもこの傾向は見える。そこには2000年代以降、たとえばMONGOL800など、上京せずに地元を基盤として飛躍したバンドが増えたことも関わっているのではないか(なお、MONGOL800も地元・沖縄で『What a Small World!!』などを主催している)。

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