『SATANIC CARNIVAL』プロデューサーI.S.O 考え抜いたフェス開催の先にあるものとライブハウスカルチャーの本質

『サタニック』開催の先にあるもの

 2021年6月5日・6日、富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催した『SATANIC CARNIVAL ’21』。同フェスには、パンク・ラウドロック・ハードコアのシーンを作り上げてきた様々なアーティストが出演。開催から2週間後、『SATANIC CARNIVAL ’21』のプロデューサー、I.S.O氏よりコロナ感染・クラスター(集団感染)なしとの報告もあり、無事コロナ禍でのフェスを完遂した。

 今回のインタビューでは、そのI.S.O氏にフェス開催までのプロセスを取材。開催にあたって最も大切な主催者としての姿勢を聞く中で、『SATANIC CARNIVAL』の根幹にあるライブハウスカルチャーの本質にふれることができた。(2021年6月28日取材/編集部)

ここに来るのはほんとに音楽が必要な人たちだから

一一2年前の取材で「来年はオリンピックがあるのでやらない、2年後にやります」と話されていましたけど、そこから急転直下、今年は野外での『SATANIC CARNIVAL』開催となりました。

I.S.O:オリンピックが延期になった時点で幕張メッセは2021年も使えないことはわかってたんですね。しかもコロナ禍だし、三密を防いで実現できる可能性っていえば当然野外になっていって。あとこれはのちのち効いてくるんですけど、大阪の『RUSH BALL』が去年は開催したんですよね。大阪だけが唯一2回かな? 『RUSH BALL』と『ジャイガ』(『“OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL 2020 -ジャイガ-スピンオフイベント”「THE BONDS 2020」』)もやってて。その頃大阪は積極的にイベントやってたし、野外であれば可能性はある。そこからまず会場を探し始めたんです。

一一三密を防ぐなら、モッシュピットをどうするのかという話も必ず出てきます。これは特にパンクシーンでは大きな問題になりません?

I.S.O:そこは開催の決断をするまで考えないようにしました。いざやるぞって決めてから、モッシュ禁止ってどういう意味になるのか、いろいろ確かめていった感じですね。それでもやるべきかどうか。自分が「やりたい」と選択できるかどうか。そこを去年の夏過ぎから考えて、準備していった感じです。

一一準備には何が必要でしたか。

I.S.O:何のためにやるか、自分のモチベーションを確認する作業がひとつあったんです。結局、誰のために何のためにやるのか、その核がないのに「ただ野外だからできますよね」っていうことでは全然なかった。それもあって、出演バンドに話をする時は「やります。出てください」って誘い方じゃなくて「自分はこういうふうに考えてるんだけど」というところから話していって。あとは去年の秋ぐらい、バンドも、だんだんと手探りでライブを再開するようになって、それこそ10-FEETは二部構成でのワンマンを提示してましたよね。それに続くかたちで他のバンドもライブやるようになったり。そういう動きを見ていく中で「『サタニック』も、まずはモッシュ、ダイブがなくてもやるべきなんじゃないか」って思い始めて。やるって決めてから、ひとつずつ確認して、準備を進めながらどんどん固まっていきましたね。

一一去年の秋は楽観視もできましたけど、今年に入ってまた緊急事態宣言が出ますよね。ここで中止もやむなしかと正直思ったんですが。

I.S.O:山梨県でそうなったら中止にしてたかもしれません。そこはまさに一番問われた部分だと思うけど、まず、緊急事態宣言中であっても事実上イベントはできるんです。東京の場合は最初「無観客じゃないとダメ」だったけど、途中から「緊急事態宣言は継続。でも緩和してキャパの50%までOK」になった。そういう制限の中で「どうしてできないのか」「どうしてできるのか」の判断は、最終的には主催者に委ねられるんです。行政はあくまで自粛の要請。「中止しろ」という命令はできない。「制限下の中でやってもいいけど、でもやらないでください」みたいな微妙な空気の中で、主催者に判断が任されるんですよね。だから行政から「止めてください」とも言われなかったんです。裏の(同日開催予定だった)『ミリオンロック(百万石音楽祭〜ミリオンロックフェスティバル〜)』は地元の事情もあったし、金沢はまん防(まん延防止等重点措置)が出てた。それで「できないことはなかっただろうけど、やらない」という判断をしたんです。ただ、それで言ったら逆もあって然るべきで。

一一というのは?

I.S.O:山梨県は抑え込みが上手く行ってたんですよね。感染予防対策を独自にやってて、当時は県全体でも感染者は10数名とか。あと『サタニック』の会場は幸いなことに遊園地で、そもそも全国からお客さんが来る場所で、富士急ハイランドは電車でも直通で行けたりする。確かに難しい時期ではあったんです。緊急事態宣言がいろんな地域で出て、いろんな場所から人が集まるのはどういうことなのかって考えたんですけど。でも「やってはいけない」ではないと僕は判断して。それよりやって得られるものは何か、やらない理由を探すより「やれるのかどうか」だけを考えてましたね。あの時、もし仮にやめる判断をしたとしても、理由が曖昧になる気がしたんですね。なんとなく「緊急事態宣言がどっかで出てるから……」「まん防があるから……」みたいなものになっちゃいそうで。別にそれって、何が正しい/正しくないの問題ではないんですよ。あくまで許された範囲でどっちを取るかっていう話で。

一一たとえば飲食店を例に取れば、休業する店は「客を危険に晒したくない、叩かれたくない」が理由でしょうし、営業を続ける店は「やらなきゃ給料も払えない、このままじゃ死んでしまう」と言うわけですよね。

I.S.O:そう。それって0か1の話じゃないですか。0の判断をする人と1の判断をする人の境って、もはやそれぞれの事情になっちゃう。で、人それぞれだとしても、1を選ぶことも、今の社会生活をするうえで許される最低限のことだと僕は思うんですね。僕は1を選んだけど、選んだ時にそこにあるものの素晴らしさ、大事さを当然考えたし、「それは今やる必要があるのか?」って言われたら「ある」と答えられる。そういうふうに自分の考えを決めて「僕はこういう立場です、僕は精一杯行きますよ」って決めるしかなかった。理屈で考えていくと、どの理屈もわかるんですよ。0を取る人の立場もよくわかる。

一一どちらも一理あり、としか言えないですよね。

I.S.O:そう。しかも「究極、命に関わることだから」って言われたら何もできなくなってしまう。だから理屈とか感情じゃなくて、自分で意思を持つしかなかった。やっぱ迷うこともあったんです。それこそ緊急事態宣言が延期になって「なんでやるんですか?」って声も聞こえてくる。でも「山梨県に緊急事態宣言出てません、遊園地は全国から人集めてます。なんでイベントだけ思いとどまらなきゃいけないんですか?」って言い出すのは感情的だなと思って。となると、どこに自分のフォーカスを置くか、どんなふうにやる意思を持つか、そこだけを考えたほうが上手くいくなと思って。もちろん難しい問題ですけどね。自分の姿勢としてはそうでした。

一一そうやって主催者が旗を振っていかないとダメだっていう危機感、もっと言うと使命感もありましたか。

I.S.O:実はかなり。去年からイベントに関わるサイトで記事にしてもらって(※1)、作る過程から全部見せていって。矛先をはっきりさせたかったんです。「イベントやりまーす」「楽しそうだな」だけじゃ無理だし、ちゃんと考えを理解してもらったうえで来てもらわないと上手くいかないと思ってました。だからしっかりと発信をして、今回はなるべく僕の顔が見えるように、ちゃんと意思とか思いが伝わるように。あとブッキングの段階でも思ったけど、バンドも同じ気持ちなんですよね。「こう思ってやるんですけど、どう思いますか?」って聞いたら「絶対やったほうがいい」「別にモッシュ・ダイブ禁止とか大きな問題じゃない。ここに来るのはほんとに音楽が必要な人たちだから」って。みんななかなかライブ活動ができないし、『サタニック』が久しぶりのステージになるバンドも多くて。横山さん(Ken Yokoyama・PIZZA OF DEATH社長)もそう。モッシュとかダイブ、そういう楽しみ方の象徴的な人でもあるじゃないですか。その彼が「それでも出るよ」って言ってくれたのは大きかったですね。

一一みんな、いろいろ考えながらも、I.S.Oさんの「やる」という思いに賛同してくれた。

I.S.O:賛同って言葉かどうかわからないけど、みんな同じ思いだったなって感じます。みんな同じ思いを持ってたから、同じ方向に進んでいけて、当日も素晴らしいものになっていった。……ちょっと僕、自分で滑稽だなと思ったんですけど、「モッシュ・ダイブ禁止」って一生懸命、会場に貼り出したり説明してたの、あれ要らなかったなって思いましたね。アナウンスも3回入れることが決まってて、最初に一通り注意事項を読み上げるんですけど、2回目からは「ちょっともう、モッシュ・ダイブのくだり要らなくない?」って。それくらいお客さんもなんのために来てるのかをわかってくれた。それがすごく美しい光景で。

一一ええ。とはいえ出演者の音楽性を考えたら、どれだけ言っても暴れだす人が出てくるのではないかって不安はありませんでした?

I.S.O:……正直ありましたね。いくら発信してるとはいえ、どこまで情報が行き届いてるかわかんないじゃないですか。だから一瞬は思いましたけど、でも始まって10秒くらいでその不安は消えたかな。

一一わかります。私も会場に着いてすぐ「これはモッシュ起きるだろって疑った自分が間違ってました!」という気持ちになりました(笑)。

I.S.O:そうそう。注意事項のアナウンスも貼り紙も必要ないくらいだった。それは「ありがとう」って言うよりは、「みんな同じ気持ちだね、やったね」っていう感覚ですよね。

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