羊文学、幻想的な空間で響かせた3人の力強いアンサンブル “未来”へ光灯した『OOPARTS』ツアー最終公演

羊文学『OOPARTS』ツアー最終公演レポ

 いつからこんなにチケットがとれないバンドになったのだろうか。気づいたら一瞬だった。4月に3枚目のフルアルバム『our hope』をリリースし、「THE FIRST TAKE」に登場、5月よりスタートした全国6カ所を回った初の全国ツアー『羊文学 TOUR 2022 "OOPARTS"』はソールドアウト。あとに追加公演としてZepp DiverCity Tokyoでの開催が発表されたが、それでもチケットは即完。それほどまでに広がっていた羊文学の音楽。一度、諦めてしまった人も6月28日に行われたツアー最終公演を配信で覗いてみてほしい。

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 画面の向こうでライブ前の蠢く人々を見ていると会場全体が暗転した。ギターの穏やかな音色から始まったのが『our hope』の一曲目に収録された「hopi」だ。ステージと観客との間には薄い幕が垂れ下がっている。歌声と共に、ステージの中心に置かれた、大きな電球が点滅する。会場の穏やかな暗闇を、灯りが揺れ、会場を温めていく、そんな希望に向かっていくような始まりだ。

 続く「mother」ではライトに照らされた3人の影が幕に大きく映し出され、幻想的な空間が広がる。蒼で照らされて始まった「雨」はイントロでフクダヒロア(Dr)が着々とリズムを刻み、コーラスでボルテージを上げていくと幕がはけ、3人が姿を現した。塩塚モエカ(Vo/Gt)が「こんばんは羊文学です」と飛び跳ねながら笑顔を見せる。

 スモークが上がり壮大な演出で始まったのが「光るとき」だ。TVアニメ『平家物語』の書き下ろし楽曲として、彼女たちを一つ大きく開かせたこの曲を、オープンに塩塚が歌う。〈君たちはありあまる奇跡を駆け抜けて今をゆく〉とのびのびと歌い上げたあと、シューゲイザーなサウンドが鳴り響く。

 その後、暗いステージに、一点からライトが照射され、3人が円になってイントロが奏でられた「砂漠のきみへ」に。『our hope』は塩塚が過ごした新宿での日々から曲を作っていったため、“東京”が一つのテーマになっている。「砂漠のきみへ」はアルバムには収録されていないが、東京のイメージを“砂漠”に重ねて、“頑張っている人になんと言ってあげればよかったのか?”と迷いながら書かれた楽曲だ(※1)。前の演奏とは一転した、落ち着いた雰囲気のなかで、河西ゆりか(Ba)の寄り添うように流れていくベースライン。〈きみはいま自由だね〉と高らかな歌声がギターの激しい響きとともに伸びていく。

 最初のMCでは、ツアー最終日の名残惜しさに浸るメンバーたち。その後は昨年リリースしたEP『you love』からこれまであまり披露されてこなかった「なつのせいです」に続き「あの街に風吹けば」では観客も手拍子で音楽に乗る。フクダのハイハットの合図から飛ばし、ギターを鳴らしていく「電波の街」、歌詞で綴られている心の叫びが力強く聴こえてくる「金色」まで惜しむことなく歌い上げていく。背景がぼやけて、塩塚の姿がクリアに浮かび上がる、配信ならではの演出が効いたワンシーンも見逃せない。

 ここから3人のバックのカーテンが開き、映像演出が加わって演奏されたのが「キャロル」。大きなスクリーンに映し出されるのは建物の外壁、街の様子、そこから伝わる喧騒、飛行機。“新宿”が全体的なテーマになったこの楽曲を作るとき、塩塚が見てきたその光景が映し出されているようだった。そこにお揃いの赤色のワンピースに身を包んだ塩塚と河西のコーラスが重なり、澄んだ声が浸透していく。

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 きらきらとした水面が揺れる映像と共に、透き通るような歌声で奏でられた「くだらない」。囁くようなサウンドで、木漏れ日、草の茂みが映し出され、〈なんで?〉の歌詞が繰り返される。塩塚は、この曲を作った時の気持ちを「(新宿の街は)お店もいっぱいあるし、人もたくさんいるんだけど、いつも少し寂しさを感じる」と言っていた(※2)。不安な気持ちが綴られたこの歌詞が爽やかな声で歌い上げられる。ギターリフだけで歌が始まり、よりムードな雰囲気で奏でられた「予感」。荒く淡い映像に、重み、厚みを感じさせる楽器の音が繊細に重なり合わさる。ギターもベースもドラムも、一つひとつの音色に優しさが宿っている。東京の喧騒の中での灯のようだった。

 普段音源で聴いていた楽曲が、映像演出、ライブアレンジ、生の演奏でこんなにも違う印象で楽しめるとは。そのときだけの特別なものになっていく。ライブ前半のピークはまさしく「OOPARTS」だった。暗くてザラザラとした場に一筋の光が差す。初めて楽曲に取り入れたというシンセの音が印象的で、先に披露した「キャロル」に続き「OOPARTS」の歌詞にも入る〈ヒーロー〉という希望。豊かなハーモニーが奏でられ、暗転して拍手が起こった瞬間にパッと明るくなったステージでは、向かい合って楽しそうに音をかき鳴らす3人の姿が。光のフル演出で最高潮のステージを迎える。

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