バンドシーンで豊かなコラボレーションが続く理由とは? 羊文学 塩塚モエカ、BREIMEN 高木祥太の動きから考察

 コロナ禍に突入して以降の約2年の間に、数え切れないほどのライブやフェスが中止・延期となってしまったことで、多くのアーティストは、ライブの場を通して直接的にリスナーとコミュニケーションする機会を奪われてしまった。しかし、2022年春を迎えた現在、日本の音楽シーンにも、少しずつではあるが確実に、コロナ禍における新しいスタンダードに則りながらライブやフェスを行う流れが生まれつつある。筆者も、特にこの数カ月、たくさんのアーティストのライブを観る機会が増えてきており、その中で強く感じたのが、新しい世代のアーティストの台頭と躍進である。

 また、ライブシーンのみならず、この約2年の間に、着実に自分たちの音楽性を磨き続けてきたアーティストたちが、続々と意欲的な作品をリリースしている。その一つひとつを挙げていくとキリがなくなってしまうが、総じて今の日本の音楽シーンは、コロナ禍という逆境を乗り越え、とても豊かな季節を迎えているのは間違いないと思う。そして、いろいろな新世代アーティストの動きを見ていると、既存の枠組みにとらわれることなく、自由に、次々と活躍の場を広げているミュージシャンが多いことに気付く。

 例えば、羊文学の塩塚モエカは、自身のバンド活動と並行しながら、2020年10月にリリースされたASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の楽曲「触れたい 確かめたい」にゲストボーカリストとして参加している。アジカンの数ある楽曲の中でも、特に繊細な感情の機微を丁寧に表現した美しいナンバーで、塩塚の本来持つ魅力とポテンシャルが最大限に発揮されたコラボレーションとなった。また最近では、ドラマ『17才の帝国』(NHK総合)の主題歌「声よ」に作詞と歌唱で参加したことも話題となっている。作曲を手掛けたのは、坂東祐大。米津玄師の楽曲の編曲などを務めながら、昨年は『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)の劇伴、挿入歌も担当した気鋭の音楽家である。そして「声よ」のアレンジを手掛けたのは、ROTH BART BARONや優河とタッグを組むギタリスト・プロデューサーの岡田拓郎だ。塩塚は今回のコラボについて、「坂東さん、岡田さんとの曲作りはとても刺激的でした。繊細なメロディーラインや実験的なアレンジなど、私一人では憧れ止まりだったことにたくさん挑戦できました」(※1)とコメントしており、この経験は今後の羊文学の活動にポジティブな形で影響していくことが予想できる。

ASIAN KUNG-FU GENERATION 『触れたい 確かめたい(feat.塩塚モエカ)』Lyric Video
羊文学「光るとき」Official Music Video (テレビアニメ「平家物語」OPテーマ)

 また、高木祥太は、自身がボーカルとソングライティングを務めるバンド BREIMENの活動と並行して、TempalayやTENDRE、Charaの活動にサポートとして参加している。そして特筆すべきは、岡野昭仁×井口理への楽曲提供だ。今月リリースされた「MELODY(prod. by BREIMEN)」は、岡野が様々なアーティストとタッグを組むプロジェクト「歌を抱えて、歩いていく」の第4弾シングルとして制作されたもの。今回は、井口の提案で高木が作詞作曲を担当しており、BREIMENのメンバーが演奏を務めている。筆者が「MELODY」を聴いて真っ先に感じたのは、他のアーティストへの提供曲にもかかわらず、高木、そしてBREIMENとしての記名性が非常に強い楽曲である、ということだった。もちろん、岡野と井口が歌うことを想定して制作された楽曲であるため、2人の声質、それぞれの掛け合いやハーモニーなどを意識して作られていることは間違いないのだが、BREIMENの音楽性も遺憾なく発揮されている。高密度・高濃度のミクスチャーサウンドの中で、人懐っこく優しいメロディが美しく光っていて、いつかBREIMENのセルフカバーも聴いてみたい。

岡野昭仁×井口理「MELODY(prod. by BREIMEN)」
BREIMEN「あんたがたどこさ」Official Music Video

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